表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第11章 離脱
102/221

11-7.応酬 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.

〈来たわ、逆侵入!〉

 当を得たりと“ネイ”の声。

〈待ってたわよ!〉


 元々の管理者側からの侵入を検知、同時に奪回用の“裏口”の在り処を見付け出した“ネイ”が、警備システムのさらに奥へと踏み入った。警備システムから陸戦隊長の携帯端末へ、さらに手繰って陸戦隊のデータ・リンクへと潜り込み、艦内警備を担当する他の陸戦隊員の配置、生体データとライヴ映像を手に入れる。


 その間にキースらは艦体中央部、巨大な円筒を成す回転居住区へ侵入した。回転軸付近から入り込み、エレヴェータを使わずラッタルを跳んで外周部へ。


 内部の曹士食堂、その入り口へ張り付いて、“ネイ”から横流しされた監視映像に意識を向ける。内部には蜂起に加わらなかった下士官と兵員、それから見張りの陸戦隊員が半個分隊。


 キースが黙って立てた指、それが3本。ロジャーも黙って返して頷き、気密ハッチの開放レヴァーへ手をかける。

 キースが指を折る――残り2本。曹士食堂内部の配置をロジャーも頭へ叩き込む。

 さらにキースが指を折る――残り1本。2人が揃って銃を構える。

 ゼロ――合図とともに気密ハッチを開け放つ。


 相手の位置は割れていた。開いた扉の向こうへ、狙いすまして12ゲージの衝撃弾。2発が命中、残り3人。

 残った陸戦隊員は即座に反応した。反撃の衝撃弾を入り口に浴びせると、約0.1Gという低重力の床を蹴り、壁際へとその身を放り出す。


 その只中、テーブルに就かされた捕虜たちの、その足元。

 放り込まれた物体がある。HG47G発煙手榴弾――それが白煙を吹き出した。低重力の中、白い闇が速やかに拡散する。

 牽制の銃弾が入り口を目がけて飛ぶ。床と壁を張る衝撃弾。その群れをかいくぐって、一足早くキースとロジャーが内部へ踊り込んだ。狙ったのは陸戦隊員ではなく拘束された捕虜の只中、床に固定されたテーブルと椅子の合間。


〈くそッ!〉


 陸戦隊員が毒づく。ただでさえ煙る視界に加えて、撃って当たる角度ではない。と、その足元をすくった脚がある。頬へ押し付けられて銃口の感触、身をよじる暇もなく衝撃弾。壁に激突、意識を手放す。残り2人。


〈この!〉


 銃声の源へ、陸戦隊員から咄嗟の一撃。しかし手応えはテーブルに就かされた捕虜の背中、鋭く肉を打つ音とテーブルにぶつかる鈍い音。


 その音の向こうからロジャーが回り込む。テーブルの下、椅子の脚を足がかりにくぐり抜け、“ネイ”が教える陸戦隊員の位置へ躍り出る。一撃。横合いから衝撃弾を食らって、陸戦隊員が吹き飛んだ。残り1人。


 状況を呑み込んだ捕虜の間から歓声が上がる。


「いいぞ!」「やっちまえ!」


 声援を受けたロジャーの足を掴む手があった。


〈!〉


 視界の端に12ゲージの銃口。それが見据えてロジャーの頭。


 と、そこへ横から手が伸びた。銃口を突き飛ばす。撃発。衝撃弾がロジャーの頬をかすめ、壁に弾けた。いつの間に拘束を解いたものか、捕虜が陸戦隊員に掴みかかっていた。それが2人になり、3人になって、最後の陸戦隊員はねじ伏せられる羽目を見る。


 ロジャーが息を一つつき、プラスティック・ワイアを取り出して、陸戦隊員を後ろ手に拘束しにかかる。


「助かったぜ」

 捕虜の一人、真っ先に手を出した男――階級章を見れば軍曹――が声をかけた。


『役に立ったかい?』

 戦闘用宇宙服からロジャーが応じる。


「そいつァもう」

 答えた軍曹は、サヴァイヴァル・ナイフを掲げた。

「もうちょい借りるぜ。まだ全部解けてねェんだ」


『急いでくれよ』

 ロジャーは片頬だけで笑って、

『時間がない』


『ここの最先任は?』

 気絶させた陸戦隊員を縛り上げながらキースが問う。


「俺、ってことになるな。砲雷科のマッコイ軍曹だ」

『陸戦隊員の武器がある。扱えるヤツは?』


 キースが、奪ったライアット・ガンとサヴァイヴァル・ナイフをマッコイ軍曹へ差し出した。


「訓練は受けてるが、陸戦隊にゃかなわねェな、正直――よしお前ら、銃を取れ!」


 マッコイ軍曹が武器を割り振る。軍曹の他に、小柄ながら機敏そうな男を頭に4人。


『士官は?』

 問いを続けたのはキース。


「士官食堂と営倉に監禁されてる」

 最後の一人へ銃を渡しながら、マッコイ軍曹。


『近いのは?』

 こちらはロジャー。


「士官食堂」


『そっちからだ』

 キースに即断。

『案内を』


「付いてきな」


〈ちょっといい?〉

 ロジャーの聴覚に“ネイ”が告げる。

〈陸戦隊がドッキング・ポートに向かってる。1個分隊10人〉


〈くそ〉

 ロジャーは舌で唇の端を湿らせた。

〈シンシア1人に10人がかりか〉


〈こっちに誘い込めんか?〉

 “キャス”を通じて“ネイ”の意図を知ったキースが訊く。


〈今さら?〉

 “ネイ”の声音に懐疑の一語。

〈わざとらしくて涙が出るわ〉


〈くそ〉

 声を抑えつつキースが唸る。声を高速言語へ切り替えて、

〈軍曹、予定変更だ。ドッキング・ポートの陸戦隊を先にやる〉


〈間に合うか?〉

 ロジャーが訊く。


〈時間を稼ぐ〉

 そう言い置いてキースは“キャス”へと告げる。

〈“キャス”、ドッキング・ポートのハッチを閉鎖しろ。それからシンシアへ繋げ〉


〈オレだ〉

 シンシアの高速言語が骨振動スピーカを通じてキースの聴覚へ。

〈敵か?〉


〈そうだ。1個分隊がそっちへ向かってる〉


〈袋叩きかよ〉

 舌を出さんばかりにシンシア。


〈ハッチを閉鎖する。そっちへ行くまで何とか保たせろ〉


〈ハッチ閉鎖――したけど気休めもいいとこよ〉

 口を挟んで“キャス”。

〈その気になれば乗組員だって侵入できるわ〉


〈防げないのか?〉

 訊きつつキースは低重力の壁を蹴った。


〈冗ッ談、あんなザル〉

 船務科ホストの防備がよほど脆弱だったのか、鼻息一つで“キャス”が言い捨てた。

〈私の仕事は壊し屋よ。金庫番じゃないっての〉


〈じゃ侵入者をぶち壊せ〉

 キースが言い切る。


〈そっちの方が現実的ね〉

 “キャス”の声に肯定の色。


 ◇


 眼の前で気密ハッチが閉まった。陸戦隊第2分隊長は隔壁に戦闘用宇宙服の足を付けて勢いを殺した。


〈くそ、船務科のシステムに入り込んでやがるな〉


 その傍ら、副長が通信ケーブルを壁面へ伸ばした。


〈取り返します――なめやがって!〉


 ナヴィゲータが船務科ホストに侵入を開始――した途端に激烈なノイズ。


〈うわ!〉


 副長のナヴィゲータはそれきり反応を失った。


〈慌てるな〉

 分隊長が隔壁脇のパネルに身体を寄せる。

〈手はある〉


 パネル横、非常用シールドを叩き割る。中には黒と黄色――警戒色に彩られた緊急開放レヴァー。


〈向こうとこっちに気圧差がなきゃこっちのもんだ〉

 分隊長がレヴァーを引く。

〈宇宙船乗りをなめんなよ〉


 隔壁の前後に気圧差はない。安全を物理的に検知した機構が、船務科ホストの電子信号に優先させて緊急開放レヴァーの操作を受け付ける。

 気密ハッチが開いた。ドッキング・ポートとの間に障害はない。


〈ハッチを閉鎖したってことは、近付かれちゃまずい物があるってこった〉

 分隊長が先陣を切って壁を蹴る。

〈何が何でも拝んでやろうじゃないか〉


 そこへ銃声、傍らの副長へ衝撃弾。後方に吹っ飛んだ副長を横目に、しかし分隊長は鋭く声を上げる。


〈押し込め! 敵は1人だ!〉


 ◇


〈始まったわ〉

 “ネイ”が告げた。


 ロジャーの視界、陸戦隊からのライヴ映像には突入を期して煙幕を張るさまが映る。一刻の猶予もないと見て、ロジャーは指示を下した。

〈“ネイ”、連中のデータ・リンクをぶち壊せ!〉




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/)


無断転載は固く禁じます。


Reproduction is prohibited.

Unauthorized reproduction prohibited.


(C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.


     *****




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ