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日が遮られるほどに高い木々が生い茂る森の中。アメリアは森林特有の澄んだ空気をかぎながら道なき山中を歩いていた。髪を後ろで束ね、頭にはイヤーマフを付けており、そこから胸に取り付けた無線機にコードが伸びている。服装は黒で統一されたジャケットとスラックスにブーツ。そして消音器の付いた狙撃銃を肩から下げていた。
アメリアはしばらく歩いた後、大きな木の傍で止まった。そしてポケットから方位磁石を取り出し、方角と傍の木の高さを交互に見比べる。
「この木が良さそうね」
アメリアはそう呟くと、傍らの木を登り始めた。そして手頃な太さの枝に腰掛けると、イヤーマフのマイクに話しかける。
「こちらアメリア。配置についたわ。そっちはどう?」
『こちらアリシア。こっちも配置についたわ。キャンプ場入口に見張りが二名』
妹の応答に、アメリアは満足そうに微笑む。
「デザイア・カルテルが武器取引を行うという情報を聞いてピンと来たわ。奴らだってね。案の定、奴らは赤デブと呼ばれる武器商人と行動を共にしてるみたいね」
『さすがお姉ちゃん! 完璧な読みね!』
「いい? アリシア。これはあくまで偶然よ? 独占権に気付かずデザイア・カルテルの情報を追ってたら、たまたま取引の現場にかち合う羽目になったってだけよ?」
『そうだね、お姉ちゃん。偶然またバッティングが起きちゃったってだけだよね』
「えぇ、そういうこと」
アメリアは相槌を打ちつつ、狙撃銃を構え、スコープを覗き込む。そこには人の形をした赤い影がぼんやりと映し出されていた。
「オーケー、方角もばっちり。サーモスコープも機能しているわ。デザイア・カルテルのアジトの兵がよく見える」
アメリアはスコープから目を離し、木にもたれかかる。
「それにしても商談の振りして騙し討ちなんて、思ったよりシンプルな作戦ね。まぁ、あの半グレ達は兵として訓練されてる訳でもないし、真っ先に頭を潰すのが効果的でしょうけど。果たして相手が都合よく油断してくれるかしら」
『あ、お姉ちゃん。奴らのトラックが来たわ。トラックに大量の武器ケースが積んである』
「了解。盗聴器仕込めそうかしら?」
『近付くのは難しそう。とりあえず放り投げてみるね』
「あんたねぇ……」
アメリアは呆れたようにため息を吐く。やがてガンっと鈍い音が耳に響いた。
『やった。荷台にうまく放り込めたよ』
「まぁ、結果オーライね。それじゃあのんびりと柏木ハンター事務所の戦いぶりを見させてもらいましょうか。まさに高みの見物ね。そして獲物を仕留めたと油断した時――その瞬間、自分自身が獲物となるのよ」
『お姉ちゃん、悪党だねぇ』
「なに、手足の二、三本撃ち抜く程度よ」
アメリアはニヤリと口元を歪ませ、ライフルのスコープを覗き込んだ。サーモスコープの先ではトラックがキャンプ場中央まで誘導されているのが確認できた。
『――よく来たな、赤デブ。そこで車を降りてもらおう』
右耳から盗聴器の音声が聞こえてきた。トラックを運転していた二つの影が促されるまま車から降りている。
「荷台に一人隠れているわね。彼が何か仕掛けるのかしら。ただ敵の数は八人。上手く不意を突かない限り、厳しい人数ね」
『お姉ちゃん、どっちが勝つと思う? 賭けようか? 負けた方が今日のディナーを奢る』
「……私が勝っても変な店に連れていかれるだけだから遠慮するわ」
アメリアはスコープから目を離し、小さくため息を吐く。




