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「銃声が遠い。三時の方向、およそ百メートル先。誰かが撃ち合ってるな」
レイの言葉に、コウは怪訝な表情を浮かべる。レイの言う通り、外で銃撃戦が始まっているようだった。
「あれ? 外の銃声っておっさんの仕掛けか何かじゃなかったのか?」
「知らん。急に銃声が鳴ったから便乗しただけだ」
レイはそう言って銃を仕舞う。
「どうやら第三者がいるようだな。おかげでこちらに敵の意識が向いていないようだ」
「ここから当初のプラン通り、基地の破壊といく?」
「そうしたいところだが、その前にやることがある。コウ、ちょっとこの子を頼まれてくれるか?」
「ん?」
コウが返事をする間もなく、レイはゆっくりと歩き出す。その先には地面にうずくまり、呻き声をあげているジョンの姿があった。
レイの思惑を察したコウは銃を放り、子供の傍に近付く。子供はやや警戒した顔をコウに向けるが、コウは笑顔を浮かべながら屈みこみ、子供に視線を合わせる。
「ちょっと今から年齢制限的な事が起きるから、目と耳を塞いでいてくれるかな?」
子供はきょとんとした顔をするが、やがて小さく頷くと目を閉じて両手で耳を覆った。その行動に満足するようにコウは頷きながら、子供の頭をぽんっと撫でる。
「おっさん、準備オーケー」
「あぁ、分かった」
レイはそう言うなり、ジョンの背中に乗ると、その後頭部をつかみ、地面に叩きつけた。悲鳴と何かがひしゃげる音が同時に響いた。
「一つだけ質問がある。あの子供以外に、この場所に無関係な人間はいるか?」
「……クソッタレ」
その返事に対し、レイの拳がジョンの後頭部に振り下ろされる。後頭部への打撃と地面に叩きつけられる衝撃が同時に加えられ、ジョンからくぐもった悲鳴が漏れる。
「死に物狂いで答えろ。こっちは殺さない程度に痛めつける方法はいくらでも熟知しているんだ」
「……い、いない……」
ジョンが絞り出すようにして言った。
「……人間の……商品は、あの子だけ……ほかに……無い……」
「そうか」
レイはそれだけ言うと、ふんと鼻を鳴らす。ジョンは荒い息を繰り返しながら肩越しに振り返った。
「……た、助けて……聞きたいことがあるなら……何でもはなす――」
「確か殺人シーンをお望みだったな」
そう言うレイの手には、いつの間にか小振りのナイフが握られていた。それを見て、ジョンの目が見開かれる。
「ま、まて、やめろ!」
レイの手がジョンの後頭部をつかみ、そしてナイフが耳の穴に向かって思いっきり振り下ろされた。
耳をつんざくようなジョンの悲鳴が響く。ナイフを持つ手に力を込め、ぐりぐりとジョンの耳の奥にナイフをねじ込んでいく。
レイがナイフを持つ手を離し、大きく振り上げる。そしてトドメとばかりに、ナイフの柄に向かって掌を叩き込んだ。ナイフは完全にジョンの頭部の中に飲み込まれ、一瞬の痙攣の後、動かなくなった。
「おっさん、容赦ないねぇ」
コウが呆れたように鼻を鳴らすと、レイも返事をするように鼻を鳴らした。
「急いで武器を降ろすぞ。このクソッタレ共を根絶やしにする」
「あ、そういえば優也の奴は?」
コウが思い出したように呟く。最初の銃声以降、パソコンからの音声は途切れていた。
「さあな。逃げたか、第三者にやられたか」
レイはそう返しながら、武器の入ったケースを手に取った。
「敵の敵は、と言う奴だ。ここから外の奴を援護するぞ」
「了解」
コウは頷き、同様に武器ケースを手に取った。




