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『だが俺は舐められるのは許せない。最近どこのハンターか知らねえが、スポンサーに俺の犯罪情報をリークして賞金を釣り上げた糞野郎がいる。俺がハンター界隈の動きを全く把握してない間抜け野郎と思ってるってことだ』
優也の言葉は怒りに満ちていた。
『赤デブ。お前は違うよな? お前は俺の事を舐めてるわけじゃないよな? 俺が生死問わずに昇格した途端に、大量の武器と知らねえ男を連れて現れたお前は、俺の敵なわけねえよな?』
「あ、当たり前じゃないか。顧客を裏切ったりしたら、この先商売出来なくなっちゃうよ」
『あぁ、その言葉を聞いて安心したよ。おい、ジョン』
優也に名前を呼ばれ、ジョンが小さく返事をして建物の奥へと歩いていく。それから数分経って再び姿を現した時、傍らに五歳くらいの幼い少女を連れていた。顔には真新しいアザがたくさんあり、その表情はひどく怯えていた。
突然見知らぬ子供を連れてきたことに、黒田とレイは怪訝な顔を浮かべて互いに顔を見合わせる。
「ええっと、何でこんなところに小さな子供が?」
黒田の問いに、優也は冷たい声で言い放った。
『どっちでもいい。そのガキを殺せ』
その言葉に、黒田とレイの顔が強張る。
『そのガキを殺す瞬間を撮影させてもらう。これが俺の保険だ。お前らが〝こちら側〟だという証明が欲しい。ヤり方は自由だ。何ならヤりながらヤってもいいぜ。その方が客も喜ぶからな』
優也が下卑た声で笑う。突然の要求に、黒田は完全に言葉を失っていた。
「――ふざけているのか?」
ずっと沈黙を守っていたレイが重々しく口を開いた。周囲の男達の視線がレイに向けられる。
「こっちはただの武器商人だ。スナッフフィルムのスタッフになった覚えはない」
『お前らは自分の立場が分かっていないようだな』
優也がそう言うや否や、周囲からコッキング音が響く。気付けば周りの男達がカラシニコフの銃口をこちらに向けていた。
『お前らが取れる選択肢は二つ。ガキをヤるか、撃たれるか、だ。安心しろ、ちゃんと顔にはモザイクかけてやるし、出演料もタップリ払ってやる。俺の金払いの良さは赤デブなら知ってるよなぁ?』
「…………」
『ガキを殺したら、お前達の事は完全に信用してやろう。お望み通り、ツラを合わせて商売してやるよ』
黒田とレイは沈黙したままパソコンと子供を交互に見る。子供は悲哀と諦観の入り混じった顔でこちらを見ていた。
重い沈黙が訪れる。やがてレイが覚悟を決めたように大きく息を吐いた。
「黒田、悪いな」
「えっ……」
レイの言葉の意味を測り兼ね、黒田が尋ね返す。
――その瞬間、彼らの言葉をかき消すように大きな銃声が鳴り響いた。
「な、何が起きた!?」
銃声は外からだった。周囲の男達が慌てたように窓から外を確認する。
「コウ!」
男達の意識が外れたのを認識した瞬間、レイが叫んだ。
「プランBだ!」
「了解!!」
その叫びと共に、トラックの荷台のブルーシートが宙を舞い、中から機関銃を構えたコウが姿を現した。
男達が青ざめ、銃をコウに向ける。だが引き金を引くよりも早く、激しい銃撃音と共に七・六二ミリの弾丸が彼らの身体を貫いた。
「き、貴様ら、やはり――」
ジョンが激高して叫ぶが、その言葉は最後まで出なかった。レイが三十八口径リボルバーを抜き、ジョンの両足を素早く撃ち抜いたからだ。
「黒田、身を隠せ!」
レイがそう叫びながら地面を蹴り、目の前にいた子供を脇に抱えて、物陰に滑り込む。黒田も悲鳴を上げながらトラックの傍に身を隠した。
コウは引き金を引ききったまま、周囲をなぞる様に弾丸をばらまいた。やがて銃撃をやめ、辺りに静寂が訪れた時、周囲に立っているものは何も無かった。
「オールクリア! 上手く不意を付けたな」
コウは満面の笑みで言った。レイは周囲に目線を配り、最後に傍らの子供に視線を移す。そして子供にケガがないのを確認し、安堵したように息を吐いた。
その時、外から再び銃声が鳴り響いた。
「増援か!?」
「……いや」
身構えるコウに、レイは冷静な声で言った。




