7.鉱国の四公爵
一旦シュゼイン公爵と別れ、準備をしてから、城内で最も機密性の高い会議室に移動する。フリードが入室すると、三公爵ーーーウォレス公爵とタルヴァ公爵、先ほど別れたばかりのシュゼイン公爵が起立して応じた。
片手で応じ、着席を促す。
「王家の四肢よ、王家を噛む牙よ、お集まりいただき、感謝する」
鉱国の公爵家は、原則四つと決められている。鉱国の領土を隅々まで管理し、王家が愚行をしても、全公爵家が協力すれば動きを封じられる。そのための数字だ。
現在は以下の四家。
国父陛下と共に国を立ち上げた黒髪の武人の子孫、シュゼイン公爵家。
商才に優れ、金と野心でのし上がってきた商家の子孫、ソラシオ公爵家。
優れた政治力で政治の中枢に食い込んだ移民の子孫、タルヴァ公爵家。
アロイジア王家の血を取り込み生き残った小国の王族の末裔、ウォレス公爵家。
フリードが生まれるより前、四家の関係は今ほどは混沌としていなかったらしい。
しかし、王がタルヴァ公爵令嬢を一方的に婚約破棄。落ち目のソラシオ公爵家が婚約者のいる娘を正妃に差し出し。王に結婚を妨害されたガラク侯爵家が、国王派のウォレス公爵派閥の貴族を潰して回り。
挙句の果てに、私情で狂った愚王と愚妃が身内の横暴を容認する始末。
もう鉱国貴族のパワーバランスも政治も、なにもかも滅茶苦茶だ。全ての元凶が血のつながった相手だと思うと、なお忌々しい。
フリードがそんなことを考えている一方で、宰相はテキパキと会議を進行した。
「ソラシオ公爵は第一王子殿下支持の筆頭であり、第一王子殿下の伯父でもあります。現在第一王子殿下による第三王子殿下殺害への関与が強く疑われる状況のため、ソラシオ公爵以外の三公爵で会議を行います。異論のある方はこの場でお申し出ください」
異論は出なかったので、開始を告げる。
この場にいる全員の自由な発言を許可すると、次々口を開いた。
「……王族同士で殺し合うとは……!」
「何という醜聞なのでしょう」
「…国父陛下も中立の誓いを立てた我が祖先も、嘆き悲しんでおいでだろう…」
タルヴァ公爵とウォレス公爵が苦々しく吐き捨てる中、シュゼイン公爵はぎゅっと強く目を瞑る。
王と王位継承順位第一位の者は、緊急時、四公爵を召集し、会議で暫定的な方針を決めると法で決められているのだ。前王の在位時、鉱国史上最速で提案・立法・施行がなされたと言えば、おおよその立法経緯は察することができるだろう。
(我が直系尊属どもは、何故こんなにやらかしているんだ……)
当時国を支えていた者たちに申し訳なく思いつつ、口を開く。
「ありがとう、シュゼイン公爵。だが、タルヴァ公爵とウォレス公爵もひとまず対応を協議しよう」
「…失礼しました」
この場ではたった一人の女性で、第三王子派筆頭のウォレス公爵は、まず体面を気にした。
「とにかく、関係者に箝口令を出さないといけませんわ」
ゆるりと首を横に振る。
「不可能だ。人数が多すぎた」
「私も将軍の部下に呼ばれ現場に駆けつけましたが……。そもそも陛下が怒鳴り散らしながら、西のガゼボから第一王子殿下の私室へ移動した時点で、どうしようもありませんな」
「あの愚王……!」
第一王子派のタルヴァ公爵が拳をワナワナと震わせると、宰相は袖で口元を隠しころころと笑った。
「なんと厩の番までおおよその経緯を知っておりましたよ。下手な隠し立ては更なる醜聞を招くのみ」
「そのようですな!腹立たしい!」
タルヴァ公爵が怒りを隠さずに机を殴った。ウォレス公爵が目を細めて宰相を見やる。
「……陛下がご乱心遊ばされたと言うのは、真のことですか?」
「真ですな。疑うならば、実際にお会いして来ればよろしい」
「……本当に?」
ウォレス公爵が訝しげに念を押すと、タルヴァ公爵が噛み付くように身を乗り出す。
「宰相、さては貴様、仕組んだか」
「……何をです?」
「とぼけるな!!おおかたそなたが第一王子殿下をそそのかしたのであろう!」
「馬鹿馬鹿しい。我がガラク侯爵家と第一王子殿下の仲はご存じでは?『平民を嫁に迎えるような穢らわしい』家の者に、あのお方が耳を貸すとでも?」
そう言うと、一瞬ぐっと黙り込むも、諦めない。標的をフリードに移した。
「……第二王子殿下は、その場に居合わせたのでは?にも関わらず、何もなさらなかったのですかな?」
「子どものケンカならいざ知らず、相手は『国王陛下と第一王子殿下』なのですよ?『どちらかを突き飛ばし怒鳴りつけてでも止めていれば』、とでもおっしゃるのですかな?」
「……だとしても声をかけるくらいはあったのではありませんの?」
「かけておられましたよ?呼びかけたその瞬間に、『うるさい』『黙れ』と命じられたようですが」
「しかし!」
「…この場は、今後の話し合いの場のはずだが?」
シュゼイン公爵が静かに威圧すると、タルヴァ公爵とウォレス公爵は黙り込んだ。
それでもなおこちらを睨む二公爵に虚しさを覚えたフリードはため息と共に口を開く。
「……ウォレス公爵、タルヴァ公爵……よしんば私や宰相が嘘を吐いていたとして、それ以上、どう言い様がある……」
幼子に言い聞かせるようにゆっくり、噛み砕いた。
「一国の王たる者が、みっともなく激昂して、人や物に八つ当たりしながら城中練り歩く。裁判も無く、私怨で、しかも大勢の者の前で、第一王子を斬り殺す。これを乱心と言わず、なんだと言うんだ?」
「……」
「大体、誰が公衆の面前で、王が人殺しをすると思う……」
会議室が静まり返った。城内だったからまだマシとはいえ、王どころか貴族としてあるまじき醜態。フリードは心底ぐったりした。
反発していた二公爵も、さすがにこの事実には口を閉ざした。それを見た宰相が、肩をすくめた。
「……陛下には、退位していただくほかないでしょう。理由は最愛の王子を失ったことによるご乱心、それで十分」
会議室の面々が頷いた。
「では第十三代国王ディライズ・マーク・アロイジア陛下には、王太子任命後速やかに退位していただくということでよろしいですかな?」
「…同意する」
「賛成です」
「異議なし」
シュゼイン公爵は無表情で受け止め、ウォレス公爵は不承不承頷き、タルヴァ公爵は顰めっ面で同意した。
「では、そのように。では此度の……第三王子殺害事件の捜査についてですが、王国法に従うと、シュゼイン将軍と監査室にお任せすることになりますが、いかがでしょう」
「異議なし。その上で関係者の処罰を改めて決めればいい」
こちらも当たり前のことしか言っていないので反対はなかった。シュゼイン公爵も一礼して了承の意を告げた。
シュゼイン公爵家は、王位争いには絶対中立を誓っている。中立を疑われるような行動を取ってはならないため、苦労は尽きないだろうが、その仕事は公平無私。王族・貴族・平民問わず信頼が厚い。身の潔白に自信があるなら、非常に心強い人物だ。
「国民にも『シュゼイン将軍が捜査中』と伝えましょう。下手に隠すよりかは醜聞もマシでしょう」
「そうですな」
「同感です」
「うむ。任せたぞ、シュゼイン将軍」
「…お任せを」
軽く頭を下げるシュゼイン公爵。これでひと段落ついた、と内心安堵のため息を吐く。
(ああ、いや、葬儀の手配とか業務の引き継ぎとか、あと対外的な発表……)
やるべきことは山積みだ。
他にも二、三細かいことを決めて解散すると、フリードはユランとミルドランを伴って執務に戻るのだった。
「……あれっ、宰相は?」
「さあ?何やら個人的な用があるとかで」
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