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5.遠い親戚

 応接間の一つに向かうと、ソラシオ公爵が仏頂面で待機していた。

「なんなのです?突然。まるで罪人のような扱いではありませんか」

「王位継承権のある王族が公爵家を呼びつけたところで、何の問題が?」

 ソラシオ公爵は見下すような目で威圧してきたが、ユランが躊躇いなく言い返した。


 フリードはそれを無視してどかりと席に着いた。ソラシオ公爵家勢は嫌そうに顔を歪めたが、気にしない。

 にっこり笑顔を向ける。

「王族を前に礼も取らないとは。ソラシオ公爵はよほど王族を軽んじているとみえる」

「っ!……し、失礼しました。鉱国の若き黄金、フリード・イクス・アロイジア第二王子殿下にご挨拶申し上げます」

 フリードが悠然と脚を組んでみせると、ようやく礼を取って挨拶した。

 憎々しげに睨んでいるが、彼の目の前にいるのは彼の妹が産んだ子で、自身の甥だ。

 それを悲しむ感傷はとっくに消え失せているが、あえて紳士的に呼びかける。

「貴殿らに少し聞きたいことがあってな。そのために協力してもらっている。悪く思わないでくれ」

「はあ?なんのことですか?大体ですね」

 フリードを睨みつけながら、文句を言い始めるソラシオ公爵。ソラシオ公爵家の面々にも緊張感がない。いつものように不快そうにこちらを見て、囁きあっている。彼らにはまだ何も知らせていないと聞いているが。


(何も察していない、か)


 いつものことながら、高位貴族らしからぬ鈍さにげんなりする。普段ヘラヘラしている第二王子が近衛騎士付きで呼び出しをかけてきたのに、変だとは思わないのか。

 それどころか、ふんぞり返ってこう吐き捨てた。

「そもそも王妃陛下と第一王子殿下は、このことをご存知なのですかな?」

 この発言に、全て集約されている。フリードは深く……深くため息を吐いて、その事実を告げた。

「死んだよ」

「は?」

「第一王子殿下は、死んだ。殺したのは国王陛下だ」

「何の冗談……」

 傍にいた近衛騎士が構えていた槍の柄を床に叩きつけた。一族の者たちが、怯えたように身を強ばらせる。

(……情けない)

 これが自分の伯父一族か、と冷めた目で見つめる。


 高位貴族ならできて当然の、ポーカーフェイスができない。周囲をよく見て、異常を察することもできない。

 彼らが鉱国に四家しかない公爵家のひとつとして権勢を振るっているという時点で、もう色々とお察しだ。


(祖父の祖父の代までは、有能だったらしいんだがなあ…)


 頭を抱えたくなる衝動を抑えて、指先でこめかみを軽く叩く。

「動機は、第一王子殿下による第三王子の殺害だ。お前たち公爵家には、疑惑が晴れるまで監視をつけさせてもらう」

「何の疑惑ですか!?」

「第三王子殺害への関与だ」

 当たり前だろう、と言うと数秒後、さぁーっと顔色が変わった。


『第二王子に不敬を働くほど王家を軽んじているなら、第三王子を殺害していても全くおかしくない』


「違う!違うのです!!」

「なら、堂々としていれば良い」

 その声を合図に、近衛騎士たちがソラシオ公爵家に近づいた。

「関係者の行動確認が終わるまでは、王城にいてもらう。拒否は疑惑の肯定とみなす」

 扉を手で示すと、家人は粛々と従ったが、ソラシオ公爵本人だけは「私は公爵だぞ!」とフリードに手を伸ばした。


 次の瞬間、彼の喉元に、剣が突きつけられていた。


「殺すな」

「…は」

 フリードが首を横に振ると、シュゼイン公爵は素直に剣を鞘に収めた。ヘナヘナとその場に座り込むソラシオ公爵。

 視線で許可を求めてきたので、うなずいて拘束を許すと、近衛騎士はさっさとソラシオ公爵を羽交い締めにして引きずっていった。


「……我が妹は!第二王子殿下の生母でもあるでしょう!?にも関わらずこの扱いは……っ!……っ!」


 声が遠ざかっていく。


(……王族への攻撃行動を不問にしてやっただけ、だいぶ甘いと思うんだが……)

 というか、私情が入ったのなら、申し開きも形だけにして、さっさと縛り首にでもしている。


 早々に宰相に囲われたフリードの感性は、彼のものにかなり近い。


 すなわち、不正・横領は大嫌い。


 故に、横領常習犯で「腐った貴族」のお手本のようなソラシオ一族とは、絶望的に相性が悪い。


 散々攻撃されてきた。政治的なものはもちろん、暗殺者を送り込まれた回数は、百を超えてから数えるのをやめた。他ならぬソラシオ公爵自身に、階段から突き落とされたこともある。


 それに対して、視界から消えてもなお罵声を吐き続けられるほどの理不尽をしたつもりはない。


(なんだかなあ)

 もやもやしていると、横からひょいっとミルドランが顔を覗かせた。

「なあなあフリュー」

「……何」

「あいつらサクッとやっちまおーぜ!!」

「は!?」

 あまりにもさわやかな笑顔でサラッと言うので、思わず二度見してしまった。


「ホラ、クロだったっつーことでさあ」

「王位争いのどさくさで、家が潰れることくらいよくあることですよ」

「ちょっ、ダメ!!シュゼイン公爵も何か言ってやってくれ!」


 制止が遅れ、ユランまで便乗してしまった。ユランが関わると、突然提案が現実的になってしまう。


 助けを求めると、黙りこくっていたシュゼイン公爵が、ゆっくりと薄い唇を開いた。


「……………ご命令なら、明日から三日以内に殿下が命じた事案については、不問にします」


「公爵!?」


 涼しげな横顔に、思わず椅子を蹴って立ち上がる。わざとらしい仕草で囁き合う、ミルドランとユラン。

「そりゃお前……なあ?」

「王妃にもみ消された、もしくはもみ消されそうな連中の犯罪の総計が、死刑以上だからでしょう」

「さすがの将軍でもキレるわ」


「……………」


 シュゼイン公爵はいつも通りの無表情のまま無言を貫いていたが、数秒後、ゆっくり振り返り薄笑いを浮かべた。


「…首が三回ほどすげ替われば、好きになれるかもしれません。…実行して参りましょうか?」


 思わず顔が引き攣った。表情に乏しい人間がこういうタイミングで笑うと、ものすごく怖い。

「……どうせ処分はするんだ。私のクリーンなイメージ作りに協力しておくれ」

「……そうですね。イメージは大事です」

「ちぇー」

 そう言って、ユランとミルドランは引き下がった……いかにも渋々という顔だったが。シュゼイン公爵も想定済みだったのか、すっと澄まし顔に戻る。


 胸を撫で下ろしながらも、温かいものが込み上げてくる。

(代わりに怒ってくれる人がいるって、嬉しいな……)


 だからこそ、やらなければならないことがある。


 表情を引き締め、命ずる。

「……宰相を呼べ。それと人払いを。確認したいことがある」


お読みいただき、ありがとうございました。

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