御礼SS 2.いつか来る未来の話
ほのぼの日常回。
昼下がり。
心地よい風の吹くテラスで、フリードとアンバレナは日課のお茶をしていた。
アンバレナが自分が食べていたアップルパイを少し切って、フリードに差し出す。
「フリュー、あーん?」
「ん」
さくり、と軽い音を立ててパイに齧り付くフリード。
「美味しい?」
「うん」
お返しに、フリードもりんごのコンポートを一口分フォークで刺して、アンバレナに差し出す。
「あーん」
コンポートを頬張ったアンバレナは、嬉しそうに尻尾をブンブン振った。
「父上、母上」
フリードとアンバレナがコンポートとパイを完食した頃、フリードを小さくしたような少年がテラスに現れた。にこりと微笑み、落ち着いた金髪を揺らして優雅に礼をする。
「アロイジアこうこくのしこうなる黄金、フリード・イクス・アロイジア国王へいかと、アンバレナ・アカガネ=アロイジアおうひへいかに、ごあいさつ申し上げます」
「ご機嫌よう、アンタレス第一王子」
「ご機嫌よう。きちんとご挨拶できて偉いわ。さ、いらっしゃい」
「はい!」
二人の長男アンタレスは、優雅な微笑みを崩すと、ぱっと年相応に笑った。髪と同じ色の尻尾が、ぱたぱたと揺れる。
貴重な両親との時間ににこにこしながら、テーブルにノートとペンを置く。面白いことに、六人いるきょうだいの中で、アンタレスだけがフリードと同じヘーゼルの瞳だ。
フリードはふと気がついて尋ねた。
「アンタレス。教科書は?」
「あ」
硬直するアンタレス。
「……わすれました」
「早く取っておいで」
「はい」
アンタレスのうっかりは今に始まったことではない。頭のいい子なのだが、何故か時々ぽん、とやらかしてしまう。本人に改善しようとする姿勢があるので、今は様子見中だ。
慌てて取りに行く後ろ姿を見送る。
すると。
「とーしゃまー、かーしゃまー」
少し離れたところから、紫がかった銀髪の少女が侍女と共にこちらに駆けてくるのが見えた。
「まあ、フリーディア。今日は体調が良いのね」
「フリーディア、走ったら危な……あっ」
笑顔で駆け寄る三女・フリーディアだったが、あと数歩のところで、こてっと転んでしまった。
驚いたアンバレナが心配そうに声をかける。
「大丈夫?」
「うん」
本人もそう言っているし、転ぶ前にきちんと手が出ていたので大事はないと思うが、その表情は情けない。膝でも擦りむいたのかもしれない。
ぱん、と手を叩き、フリーディアを招く。
「よし、それなら、あともう少しだ。頑張れ!」
「頑張って、フリーディア」
「がんばゆ」
フリーディアは琥珀色の目を潤ませながらも立ち上がり、二、三歩歩いてアンバレナに抱きついた。
「かーしゃまぁ」
「立派だったわ、フリーディア」
「頑張ったな」
狼の耳が生えた頭をなでてやる。子どもたちは獣の民とのハーフなので、全員狼の耳と尻尾持ちだ。
見ると、やはり少し膝を擦りむいていたので、侍女に手当てを命じる。
フリーディアが傷を洗いに行くと、アンタレスが次男のフレドリックと話しながら戻ってきた。
「教科書取ってきてくれてありがとう、フレイ」
「もう!あにうえは、ぼんやりさんなんですから!ごきげんよう、ちちうえ、ははうえ」
「おかえり、二人とも」
時間ぴったりに現れたフレドリックは、きっちりと礼をすると、白い箱を掲げた。
「フリーデがころんだのがみえたので、きゅうきゅうばこをもってきました」
「お前は本当によく気がつく子だな……ありがとう」
「優しいのね、フレイ」
「『にーしゃま』ですから」
誇らしげに胸を張るフレドリックは、紫がかった銀髪と青い瞳以外、フリードとアンタレスにそっくり。しかし、表情がまるで違うので、まるで別人にも見える。性格も、アンタレスはおっとりでフレドリックは神経質ときている。
「ふれいにーしゃま、あしょんでー」
「さきにてあてだ」
折よく戻ってきたフリーディアが、甘えた声を上げる。少し病弱なフリーディアは、面倒見の良いフレドリックに一等懐いているのだ。
救急箱を預け、手当てを侍女に任せると、フレドリックはきょろきょろと周りを見回した。
「ちちうえ、あねうえとアナとアトーは?」
「アナスタシアとアントニオは、将軍とミルドランのところだ」
次女と三男は、勉強より剣を好む。今日も、二人に指導をせがんでいた。今頃は剣の構えでも見てもらっているだろう。
「またあのふたりは!」
「まあまあ。べんきょうとけんの時間をいれかえるって、父上にきょか、もらってたよ。時間までに帰ってこなかったら、むかえに行こ?」
「あにうえはあまいです!まったく!」
「にーしゃま」
口を尖らせつつも、手当てを終えて自分に抱きつくフリーディアを、慣れた様子で抱きとめるフレドリック。それをにこにこ見ているアンタレス。
仲のいいきょうだいに目を細めながら、フリードはふと、まだ所在の示されていない長女に言及した。
「それで、フローリアは?てっきり一緒に来るものと思っていたが」
その途端、そっと目を逸らすアンタレス。
(あッ、子どもの頃、ミドがトンボを追いかけていなくなっちゃった時の私にそっくり)
急かさずに返事を待っていると、想像通りの答えが返ってきた。
「……その……フルーは、とちゅうでたんけんに行ってくると、お庭に……」
「あねうええええ」
「うえー」
怒り顔で庭園に走っていくフレドリック。
遊びだと思ったのか、キャッキャッと楽しそうにそれを追いかけるフリーディア。
二人についている侍女と護衛が、こちらを見て力強く頷いて、追いかけた。アンバレナと苦笑して見送る。
「なにも、フレイが連れ戻しに行く必要はないのだけれど……。あとフリーデは、また転ぶんじゃないかしら……」
「根気強く言い聞かせるしかないな。……フレイもフレイで、つくづく苦労性だな。誰に似たのやら」
するとアンバレナは、きょとんとした顔でフリードを見た。
「フリューでしょ?さっきの後ろ姿なんて、臣下の仲裁に呼ばれた時の貴方とそっくり」
「だよなぁ……」
即答されて、がっくりと項垂れる。
教科書をテーブルに広げていたアンタレスが、ぱっと顔を上げた。
「父上、母上!ここ、教えてください」
「どれだい?」
「ああ、これなら私の方が詳しいかしら。あのね……」
真面目な顔でアンバレナの説明を聞くアンタレス。
鍛錬場の方から、アナスタシアとアントニオの元気の良い声が聞こえて来る。
少しして、無事合流できたフローリアたちが、三人で手を繋いで、楽しそうに歌いながら戻ってきた。フローリアに関しては完全に遅刻なのだが、到着してから叱ることにする。
幼いフリードもミルドランたちと共に歌ったその歌を、小さく口ずさむ。
あと一刻もすれば、フリードもアンバレナも執務に戻らなければならない。
子どもたちの婚約もいい加減考えなければならないし、誰か一人を担ぎ上げようとする者も多い。解決しても解決しても、問題は相変わらず処理する端から押し寄せる。
けれども、この幸せな光景のためなら、フリードはいくらでも頑張れる気がするのだ。
男女の双子が二歳差で三組(獣の民は多産なので、むしろ少ないくらい)
アンタレス&フローリア(7歳)
フレドリック&アナスタシア(5歳)
アントニオ&フリーディア(3歳)
リクエスト、ありがとうございました!




