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知識の源泉と苦しい言い訳

評価、感想、ブックマークありがとうございます! 大変に感謝です!

更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。

実は、物語の設定上に大幅な誤解やミスがあり、その部分の書き直しを検討しております。

直ぐにというわけではなく、切りの良い第一章である幼年期が終わってから手直しをしようと思っております。

大体ですが大幅に変更するのは二つの点、ローマンコンクリートに関するものと、大麦に関するものです。

ローマンコンクリートは、ご指摘が御座いましたように速乾性が無いものであり、これを用いての建築法に大幅な修正が必要であると考えております。

また大麦は、秋に種を撒き、冬に麦踏をしなければならないことを知り、これにも大幅な修正の必要性を感じております。

現在、第一章である幼少期は三分の二位まで進んでおり、残りを書き終えた時点で新規の更新を止めて、物語に破綻が生じないように修正をしていこうと思っております。

筆者の知識不足、勉強不足により、読者の皆様に多大なご迷惑をお掛け致しますことを、お詫び申し上げます。

 

 季節は春を過ぎ初夏となり熱を帯びた陽光が地面を燦々と照らし、生きとし生ける者たちの成長を促す、そんな季節。

 だが標高の高いエフト族の居留地では、まだ春真っ最中であった。

 カインの体感から見て、ネヴィル領とは季節的におよそひと月ほどのズレがあるように思われる。

 その春の新緑の香りを胸いっぱいに吸い込んだカインは、足元から芽吹き育つ様々な草木を見て、満足気に一人頷いた。

 カインの発案通りに、冬の内に山を焼くことに決めたエフトの民たちは、枯れ木を全て切り倒して薪へと変えた後、風向きや天候を考慮しつつ山へと火を放った。

 標高がそれなりに高く、季節的に乾燥していた山々は霧のような薄灰色の煙を立ち上らせながら、山の色を枯れ草色から炭の黒に塗り替えていく。

 季節風により、風上に位置する居留地には炎どころか煙すら届くことは無い。

 ただ人々は、もくもくと煙を上げる山々を、物悲しげな眼でいつまでもいつまでも見つめていた。

 そんな人々の悲しみが呼び寄せたのか、山が燃え尽きる頃にこの地方では珍しい冬の大雨が降り注ぎ、その大雨により鎮火して、山に再び静寂が訪れた。

 そして季節は過ぎ、春になった。

 焼け焦げた山々に立ち入った者たちから、嬉しい知らせがもたらされた。

 まだほんの僅かではあるが、焼け焦げた地面から草木の新芽が頭を出し始めているという。

 それを聞いたカインは、族長のガジムの許可を得て、ガジムやエフト族の者たちと共に山に入り、その目で直に確認をする。


「大雨が降った事で、炎も無事鎮火。さらに草木の灰から出た灰汁が地面へと浸み込んだことで、急速な土壌の中和が行われ、強い酸性から弱酸性に変わったのだろう。それにしても、自然の逞しさには驚かされる。あんな状況でもしっかりと、土中に次の世代をしっかりと残しているのだから……」


 カインはそう呟き、ホッと胸を撫で下ろす。

 はっきりいって前世の記憶と知識を有しているとはいえ、生物学や化学の知識は専攻していた歴史に比べると随分と劣っており、あやふやな部分も多い。

 そんな自身でも拙いと自覚している知識を元にしてのこの案は、云わば分の悪い博打そのものと言っても良い。

 だがそんな分の悪い博打に、ここは勝負どころであると、カインは迷わず自分とネヴィルの全てを賭けたのだ。

 結果、カインは見事に勝利し、エフトの民の信頼を勝ち取ったのである。


「このまま山は放っておきましょう。十年もすれば元通りとは行かずとも、かなり回復するはずです。土壌改善をしなければ、元通り青々とした山に戻るのに、下手をすれば百年かかるところが、三十年程度まで短縮できるのではないかと思われます。ただ、草木がまだ地中深くまで根付いていないので、地滑りやがけ崩れが起きやすい危険な状態です。それに保水力も失われているので、大雨が降ると大量の土砂が川に流れて来ますので、それも十分な注意が必要です」


 カインの言っている事の全てをガジムらは理解出来ないが、取り敢えずは放置するよりは早く山に緑が戻るということに喜び、かつ安堵した。


「カイン殿には何と礼を言えばよいか……それにしても、そのような知識は一体どこで?」


 ガジムの問いかけにカインは、来たと心中で身構えた。

 カインの知識の源泉を探ろうとするのは、ガジム個人の知的好奇心だけでは無いだろう。

 おそらくはその出所を探り、自分たちも独自にそれらの知識を修めようとの考えだろうと思われる。


「大半は本や書物です。後は色んな人々から聞いたり、自分の目で確かめたり……」


 これは三兄弟が、この手の質問に対して予め用意している、定型文ともいうべきものである。

 その答えを聞いて、ガジムは一人顎に手を添えながら唸り声を上げる。


「やはり口伝だけでは限界があるか…………カイン殿、その書物を我らに御貸し頂けないだろうか? 勿論、貴重な書物をお借りするのだから、出来る限りの礼は致すが……」


 いいっ、とカインは目を見開いて驚き、焦る。

 これは拙い流れである。これらの知識は三兄弟の頭の中にだけ存在するものであり、実際にそのような知識が記されている本や書物などが、存在するかどうか定かでは無いのだ。

 どうすればいい? どうやってこの場を切り抜けるか? カインは脳をフル回転させて、この場を凌ぐ最善手を模索する。


「それは…………申し訳ありませんが出来ません。何も意地悪を言っているのでは無いのです。それらの本や書物は当家は所有していないのです」


 それを聞いたガジムは、驚き首を傾げた。それらの本を所有していないのにもかかわらず、どうしてそのような知識を有しているのだろうか?


「本や書物などは、御存じとは思われますが、その内容や質に関わらず大変高価な物です。当家はガドモア王国に仕える貴族家としては末端の方であり、決して裕福とは言えず、本や書物を買うだけの余裕はありません。ですから、王都にある大図書館にて本を読み、知識を得たのです」


 王都に大図書館があるのは、話にも聞いており、アデルが王都に行った際に外からその建物を確認している。

 だが大図書館と言っても貴族以外は利用出来ず、その利用料は法外であり、おいそれと気軽に利用できるものではない。

 実際にアデルは中へ入ろうとしたが、その法外な入館料と、本や書物一つ一つに閲覧料が定められていると聞いて断念したほどである。


「なるほど…………それは、真に残念であるな……出来れば、我らにもカイン殿が有する知識の一端をとも思うたのだが……」


「お力になれず申し訳ありません。お詫びにというわけではありませんが、今回の山枯れに関して自分が纏めた論文がありますので、それをご提供致したく…………」


「なにっ! それは真か?」


 くわっと目を見開いいたガジムは、その大きな手でカインの小さな肩をがっちりと掴み、激しく揺さぶった。

 凄まじい力で両肩を掴まれ、ぐわんぐわんと力いっぱい揺さぶられたカインは、もうそれだけでグロッキー状態であり、弱々しくコクコクとただ頷くことしか出来ずにいる。

 だが目を回しつつも、取り敢えずこの場を切り抜ける事が出来たことに安堵した。


 カインが提出した論文は、大陸公用語で書かれている。

 エフト族は古くはその大陸の内陸部に一大勢力を誇っていたが、衰退して多民族に内陸部を追い出されたという歴史がある。

 その追い出した他民族が互いの意思疎通を図るために生み出した言葉が、大陸公用語である。

 追い出されたエフト族は、敵が用いる大陸公用語を嫌い、現在までエフト語を主としている。

 ただ、交易等で意思疎通を図るために、かつてのエフト王国の王家の末裔である族長やその一族や、部族内で重職に就く者たちは、大陸公用語を学んではいる。

 ガジムは口伝に重きを置きすぎている、現在のエフト族の危うさを今回の一件で感じ、古老たちとも協議のうえ、大陸公用語を部族全体が学び、広く知識を求めていくことを決定した。


「というわけでカイン、我が義弟よ。俺たちにも大陸公用語を教えて欲しい」


 そう言って頭を下げるのは、寄宿しているエフト族の若頭であるダムザの長男のスイルであった。

 そのスイルの後ろには、スイルと同い年くらいの、おそらくは部族内での有力な者たちの子供たちと思われる者たちがいる。

 最近になってスイルは、カインのことを義弟おとうとと呼ぶようになっていた。

 カインは、スイルがそう呼ぶようになったのは単に自分が年下だからだと思い、その呼ばれ方をそのまま普通に受け入れていた。

 義弟と呼ばれたからには、カインの方もスイルを義兄あにと呼ばねばならないだろう。


「いいよ義兄上。義兄上は頭が良いから、こんなのすぐに覚えられるよ」


 こうしてカインは、スイルたちにエフト語を教わりつつ、大陸公用語を教えることになるのであった。

前書きに書いた修正部分を、どうやって書きなおそうか迷いに迷った一週間でした。

今現在、頭の中でこうしようというところまでは来たので、更新を再開します。

お待たせして申し訳ありませんでした。

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