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猛者たちを手に入れたぞ!

感想、評価、ブックマークありがとうございます!

更新遅くなりまして申し訳ございません。現在、持病の喘息でノックダウン中です。

治まり次第更新頻度を上げて行こうと思いますので、どうかご容赦くださいませ。

 

 ダグラスたちが王都に来てから一月が経った。


「この一か月の間、毎日のように目ぼしい騎士たちの元を訪れたにも関わらず、当家に招くことが出来たのがたったの三人。これは少々期待外れなのではありませんか? 親父殿」


 ロルトの言葉の中には、目立った成果を上げられていないという焦りを感じる。

 クレイヴは黙ったままだが、その浮かない表情が言葉以上に今の心情を物語っていた。


「そんなことはないぞ。確かに五十人以上の者たちに会って、たったの三人。思っていたよりもかなり少ないが、あの三人は実に良き者たちであった。あの者たちならば、お館様と次代様の御眼鏡に適うだろう」


 若い二人と違って老練なダグラスは、今回の仕事に確かな手ごたえを感じていた。

 確かに二人が言う通り、スカウト出来たのはたったの三人。

 だが、その三人は何れも異名持ちであった。

 まず最初の一人は、顔に大きな向こう傷があることから名付けられた、傷だらけのザウエル。

 二人目は、巨大な戦斧を軽々と扱い、兜や板金鎧の上から敵を打ち砕く豪勇、蛮斧バルタレス。

 三人目は、卓越した馬術を誇る、逃げ馬のシュルト。

 ザウエルは、勇敢で恐れ知らずの猛者でありながら、当主に毛嫌いされていたために、数々の武功を挙げても重用される事の無かった不遇の男。

 バルタレスは、得意な武器が巨大な戦斧であり怪力。そのため倒した敵の死体の惨たらしさから武功を挙げても、騎士の戦い方では無いとその豪勇を妬んだ周囲からの讒言により頭角を現す事の出来なかったという、悲しい経歴を持つ。

 そしてシュルトは、卓越した馬術だけでなく、戦況判断にも優れており、自軍が不利であると見るやいち早く有利な場所まで後退、あるいは撤退を進言するため、臆病者との誹りを受け続けて来た男である。


 若い二人はどうも納得がいかないといった風に、互いの顔を見合わせている。


「いいかよく聞け、あの三人の経歴を調べたが、三人は何れも不遇な扱いを受けながらも、主家が亡ぶまで仕えつづけた忠義者。さらには、当家が出した条件が決して良い物では無いにもかかわらず飲んだということは、経済的に困窮しているということである。わかったか?」


 ダグラスが出したヒントにいち早く気付いたのはクレイヴの方であった。


「なるほど、つまり彼らはもう当家から退転したり、裏切ったりする可能性が無いということですか?」


「可能性が皆無であるとは断言は出来ぬが、低いだろうな。それに彼らは今まで不遇をかこつてきた身である」


 今度のヒントに気付いたのはロルト。


「ああ、そうか! そんな彼らを当家が厚遇すれば、彼らも恩を感じてより一層忠義を尽くす。その上、彼らのような不名誉な異名を持つ者でさえ厚遇されていると知れば……」


「そういうことだ。お前たち二人は若い。次代様に仕えるには、頭の血のめぐりを良くしとかねばならぬぞ。さてと、後の事は商会に任せて我らは帰るとするか」


「えっ? いや、親父殿! 流石にこの成果では……」


「まだたったの三人だけですよ?」


 若い二人は、ダグラスがネヴィル領へ帰還すると言うと、驚き慌てふためいた。


「今お前たちは何を聞いておったのか? もう王都での成果は十分ということよ。後は勝手に人々の間で話が膨らみ、それを聞いた者たちが勝手に自分でネヴィル家の門を叩く。このままこの地に留まっていればやがて我らを訪ねては来るだろうが、ここで雇ってしまうと帰りの面倒を我らが見てやらねばならない。だが、手元にある資金は限られている……まぁ、当家に仕えたいと言うのならば、これ以降は自分の足で当家の門を叩いて貰おうということだな」


 これが弱小辺境貴族家の悲しいところである。

 本来ならば、じっくりと腰を据えて有為の人材がいるかどうかを吟味したいところではあるが、経済的な理由からそれが出来ないのである。

 それに、ド辺境のネヴィル領まで訪れてその門を叩くということは、経済的にもうのっぴきならないところまで追い詰められているということであり、主従の契約を結ぶ際にも有利になることを意味している。


「ですが、他の地域に向かった者たちよりも王都に来た自分たちが成果を出せないと、親父殿の面子が……」


 それを聞いたダグラスは、大口を開けて大笑する。


「我らと他の者とでは、与えられた任務自体が違うのだ。有象無象が集まる王都の遊歴の騎士の中から、限られた資金を用いて、見どころのある者を一人でも多くというのが我らが任よ。儂の目に狂いが無ければ、あの三人は一騎当千の猛者。成果は十分といってよい。それにだ……」


 ダグラスは二人を見ながら一息入れてから話を続ける。


「地方に向かった者たちの方が、騎士たちを多く引き連れて来るのは当たり前の事なのだ。なぜだかわかるか?」


 二人は互いの顔を見合わせながら小首を傾げる。

 ダグラスはしばらく待ってみたが、答えが出て来ないと見て仕方なしに話し始める。


「簡単なことよ。地方にいる遊歴の騎士たちは、なぜその場に留まっているのか? 縁故やその土地に愛着があるからという者もいるだろうが、まず考えられるのは、王都まで登るための路銀が用意出来ないからじゃよ。ゆえにその地に留まる他はないのだ。そういった者たちは、安く買い叩くことが出来る」


 なるほどと二人は頷いた。

 つまり勧誘のメインに据えられていたのは、安く買い叩くことが出来る地方の方であり、王都の方は主に宣伝ということである。

 この時代、人のうわさ話というものは、多数の地方から王都に行くよりも王都から多数の地方に流れる方が早い。

 それをアデルたちは利用したのである。

 この考えは武に偏り過ぎているジェラルドやダレンでは、思いつかないものである。

 限られた資金でより多くの者を雇うにはどうすればよいか?

 アデルとトーヤの二人が、それぞれアイデアを出し合い、それらを精査して纏め上げたのがこのやり方である。

 金に余裕の無いものは道中の面倒を見てやるが、余裕のある奴は自分の足で歩いて来いというのだ。


「ああ、ですがザウエル卿はどうしますか? 奥方が身重で身動きが取れなさそうですが……」


「卿は奥方を残して我らと同行すると申しておる。おそらくはお館様の気が変わらぬ内に会い、主従の契りを結びたいのだろう。奥方の面倒は商会に任せることで同意しておるし、問題は無かろう」


 こうしてダグラスとクレイヴとロルトの三人は、王都に一月ほど滞在しただけで帰還の途に就いた。

 来る時は三人だが帰る時は、ザウエル、バルタレス、シュルトの三騎士の他に、バルタレスとシュルトの家族や親類らを引き連れての帰還である。

 ザウエルの家族らは、妻の出産後に妻子共に落ち着いてからの出発となる。


 一方その頃ネヴィル領では…………



「凄いぞ! まさかこれほど上手く行くとは! これならば近いうちに一つ上の子爵家相当の戦力を持つことが出来るぞ!」


 地方から次々と訪れて来る騎士たちを見て燥ぐアデル。

 一方でネヴィル家の財政を預かるトーヤは、算盤を忙しく弾きながら顔を青ざめさせている。


「あわわ、予想よりも遥かに多い、いや多すぎる! まさかこんなにも上手く行ってしまうとは……」


「落ち着けよトーヤ、彼らにはしばらくの間、本業のはお休みして貰って開墾に精を出して貰うからさ」


「いやだから、その開墾事業にかかる金がだな……」


「それには一つ考えがあるんだが」


 アデルの顔を見たトーヤ。

 流石は三つ子である。その顔を見ただけで、アデルが何を考えているのかが大体わかる。


「…………カインの手紙にあった砂金か?」


 こくりとアデルは頷いた。


「だがそれはカイン次第だぞ? カインは上手くやってるだろうか?」


「兄弟を信じずして、何を信じる? あいつはきっと上手くやるさ」


 そうだなと頷きながら、トーヤは窓の外にある、北のエフトの民の地の方向へと目をやった。

















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