表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/237

初めての交流

評価、ブックマークありがとうございます! すごく励みになりました、ありがとうございます!

風邪が治り、復活しました! 


 館の中で取引が行われている間、カインとトーヤの二人は、荷を下ろしたヤクたちを空地へと誘導し、そこで飼葉や豆を与えていた。

 よほど空腹だったのか、ヤクたちは押し合い、争うようにして餌を貪り食っている。

 

「これがヤクか、初めて見たけど大きいなぁ」


「うん。でも、鳴き声がちょっと怖いんだけど……」


 ヤクは牛に似た風貌ではあるが、牛のようにモーとは鳴かない。

 猛獣のような低いうなり声は、子供である二人に、微かな恐怖心を植え付けるには充分な迫力がある。


「ああ、若様がた! こちらにおいででしたか! おくつろぎのところ大変申し訳ありませんが、荷の数の確認の方を……」


 従者の一人が、カインとトーヤを見つけて駆け寄って来る。

 ちなみに、ネヴィル家の家臣である従者たちは、他所の貴族でいうところの騎士である。

 ではなぜ騎士と呼ばないのか? それには幾つかの理由がある。

 まず、騎士というのはこの世界では完全なる職業軍人である。

 仕える主から、給金ないし土地を貰い、生計を立てている者たちである。

 彼らは平時から訓練に励み、戦や他領との小競り合いに備えて、騎士団を設立し常に待機している。

 ではネヴィル家ではどうなのかというと、余所では騎士と呼ばれているあろう従者たちは、完全なる職業軍人ではない。

 一言で言えば半農半武であり、多くの者は小作人を雇わずに、平時には本人ないし家族や一族で与えられた土地を耕している。

 ネヴィル領は他領とは殆ど接しておらず、小競り合いが起こらず、騎士団を設立して常駐させておく必要が無いのだ。

 国によって戦に召集された時のみ、騎士団を設立することで、費用の削減を図った結果、今のような半農半武のような形態になったのである。

 日本でいうところでは、戦国時代の土佐国の戦国大名、長宗我部の一領具足に近いかも知れない。

 三兄弟は、いずれこの地が豊かになった暁には、彼らを完全なる職業軍人として、騎士団を常時設立しなければと考えていた。


 従者によって荷の集積所に連れて来られた二人は、羊皮紙とインク、羽ペンを受け取ると、荷を種類ごとにまとめさせ、数を数えて羊皮紙に記していく。

 従者たちに的確な指示を出し、算盤も使わずに正確な数を数え上げて行く二人の子供に、言葉は通じないながらもエフトの民は、ただただ驚くばかりであった。

 その驚くエフトの民たちの中に、彼らを取りまとめる若頭であるダムザがいた。

 ダムザは北のノルト王国に何度も赴いており、取引をするのに必要不可欠である、中原の共通語を習得している。なので、ダムザの受けた驚きと衝撃は、他の者たちの比ではなかった。

 俄然と二人に強い興味がわいてしまう。そしてその少年たちをつぶさに観察すると、従者たちにかしずかれ、腰には拵えの良い細やかな装飾が施された短剣をベルトから吊るしているのが見える。

 ダムザは二人が特権階級の者の子弟であると見抜き、傍にいた従者の一人に二人が何者なのかを尋ねてみる。


「ああ、あの御二方は、御当主様の御子息です。二の若様ことカイン様と、三の若様であらせられるトーヤ様です」


 二の若、三の若ということは、上にもう一人いるのだろう。


「そのような尊貴なお方が何故このような……」


 そう問われた従者は、少しだけ顔を赤らめ、恥ずかしそうにはにかんだ。


「若様がたは幼くともこの地で一番賢くあらせられるのです。恥ずかしながら、我らが苦手とする計算も、軽々とこなされ、しかも一つの間違いも無いのですから驚きですよ。ここにはおらっしゃらない嫡男であらせられるアデル様も、御二人に勝るとも劣らぬ聡明さで、当家の未来は明るいと約束されたようなものでありまして……」


 ダムザは二人を見て、同じくらいの年ごろの自分の娘を思い出す。

 二人はてきぱきと仕事を終わらせ、品目とその数を記した羊皮紙を従者へと手渡す。


「終わったー、結構な数だったな」


 う~ん、と背伸びをするカインとトーヤ。


「俺たちの仕事はここまでだな。価値のすり合わせとかは父上とアデルに任せよう。それで、これからどうする?」

 

「そうだなぁ……またヤクでも見に行く?」


「う~ん、そういえば、ヤクって乗れるんだよなぁ? 一度でいいから乗ってみたいと思わないか?」


 子供ながらの強い好奇心。そのカインの提案に、トーヤは一も二もなく乗った。


「乗りたい! でも、俺たちじゃ背が足りなくて乗れないでしょ?」


 そうだな、とガックリと項垂れる二人にダムザは声を掛けて見る。


「ヤクの背に乗りたいのか?」


「「乗せてくれるの?」」


 その声に二人は顔を勢いよく上げる。幼い二人の瞳は、まるでキラキラと輝く宝石のよう。

 その子供特有の強い好奇心を湛える美しい瞳を見て、故郷に残して来た娘と二人が重なって見えてしまう。


「うむ、少しならばな。では、ヤクの居るところまで案内してくれ」


 やったー! と二人は飛び跳ねながら、ダムザの手を引っ張って走り出す。

 ダムザは先程までの大人顔負けの仕事ぶりと、今の子供そのものとのギャップに、いささか戸惑いつつも二人に手を引かれるまま着いて行った。



ーーー



「よし、では乗せるぞ? いいか? それ!」


 群れの中でも大人しい性格のヤクを選び、その背に二人いっぺんに乗せていく。

 元々の大人しい性格と、腹一杯になるまでたらふく食事を摂った後ということで、ヤクはその場から動くこともなくじっとしている。

 

「すっげー、すっげー! 馬とはまた違った乗り心地と高さだ!」


「走らないでただ乗るだけなら、こっちのが断然乗り心地いいよ! 後でアデルに自慢しようぜ!」


 しばらくしてヤクの背から降ろされた二人は、その背に乗せてくれたヤクにお礼を言う。

 それがあまりにも面白くて、ダムザはついつい吹き出してしまう。

 相手が大人だろうが誰であろうが、その懐に飛び込んで仲良くなってしまうのは、子供ならではのこと。

 すっかりと打ち融け合った二人とダムザは、街を散歩しながら色々な事を話し合う。

 それはヤクのことであったり、エフト語での簡単な挨拶の言葉であったりと当たり障りのない事柄を色々とである。


「あの灰色の建物は何だ?」


 ダムザが指差すそれは、建造中のコンクリート製の鶏舎であった。


「ああ、あれはまだ完成していないんだけど、コンクリート製の鶏舎だよ。あの中に鶏を集めて効率よく卵を回収するための建物なんだ」


 エフトの民も鶏を飼っている。放し飼いでは駄目なのかと聞くと、効率よく卵を回収して数を増やし、将来的には誰でも好きなだけ卵が食べられるようにしたいからと、返事が返って来る。

 子供らしい気宇の大きな夢だと、ダムザは笑わなかった。いや、笑えなかったのである。

 こんな小さな子供でも、将来の事をしっかりと見据え、考えているのかと逆に驚いたほどである。


「なるほど、鶏か……ちょっと教えて欲しいのだが、そのコンクリートとは一体何なのだ?」


「特定の砂や土と水を混ぜ合わせてドロドロにしたものが、乾くとカチンコチンに固まるのを利用した建築材なんだ」


 なるほど、煉瓦のようなものかとダムザは一人納得する。


「多分今日の内に取引内容は決定するだろうけど、積み込みとか考えると出発は明後日かな? だとしたら、また明日もお話出来るね」


「今日も明日も、多分ご馳走だよ。モーリスがオリーブ油と大麦を用意していたから、多分大麦の炒飯かな?」


 ダムザはすっかり懐いてしまった二人の頭を優しく撫でる。

 二人はくすぐったそうに眼を細めながら、おなかが空いたから早く館へと戻ろうと、その小さな手でダムザの手を引いて走り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ