地中海
お久しぶりです! 何とか生きてます!
交通事故に遭って肩を痛めまして、右腕が使えず投稿が停止しておりましたが、肘から下は動かしてももう痛みを一切感じないようになったので、投稿を再開します。
長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
象を借りることに成功したアデルたちのテンションは最高潮に達した。
ここまですんなりと切り札でもある象を、簡単に借りることが出来るとは思ってもいなかったのだ。
アレク王子からの更なる要求もある程度予想してはいたが、そういったものもなく快く貸してくれた彼に、二人は清々しい好感を覚えた。
「さて、話を戻すが、まずはこの地図を見てほしい」
そう言いながらアデルは傍に仕えるブルーノに目配せをすると、ブルーノは手にしていた地図を卓上に広げた。
その地図にはカルディナ半島および周辺の大まかな地理が描かれており、カルディナ半島とアルタイユ王国の間には広大な海が広がっており、海の名はカルディナ半島から見て南側にあるため、南海と記されていた。
その南海と記されているところをアデルは指でなぞった。
「まずはここ。半島からの呼称でこの海の名は南海とされているが、貴国アルタイユから見れば真逆の北。北海と呼んでいることは知っている。まだまだ先のことになるが、作戦を立案、実行に際して、このままでは両国ともに混乱を生じさせる恐れがある。なので早いうちに、いや、今ここで両国共通のこの海の呼称を定めたいと思うのだがいかがか?」
純軍事的な視点から見ても、これは必要なことであるとアデルは念を押した。
確かに必要なことではある。だが今急いでここで決める必要があるのか? と、アレクは内心で首を傾げた。
「確かに…………両国共通の呼称が必要でしょうな…………」
そう返答しつつアレクはアデルの意図を探った。
そしてすぐに一つのそれらしい結論に辿り着く。
これは行く行くは我が国を属国として抑えつける第一歩ということか、と。
そうなると考えられる海の呼称は、当然自国より名前を取ってネヴィル海、あるいはカルディナ半島から名を取りカルディナ海と定め、アルタイユ側にそう呼ばせることで上下関係を確立させるのが狙い、とアレクは考えた。
しかしながら、今の段階ではネヴィル側……つまりアデルの機嫌を損ねることは出来ない。
口惜しいが、ここは素直に向こうの主張を認める他はない。見えない鎖で縛られたとしても、いつかは必ずその鎖を断ち切って見せると覚悟を決めるしかなかった。
「そうか、では…………ネヴィル王国とアルタイユ王国、両国の間の地にあるとして、地中海と言うのはどうだろう?」
「…………」
地中海という言葉を聞いてアレクは混乱した。
自分の思惑が外れたというのもあるが、わざわざ自分に、いやアルタイユ側にネヴィル王国が現時点で配慮する必要性を瞬時に見出すことが出来なかったというのもあった。
これについて実はアデルとしては、何ら深い考えの元そう名付けたわけではなかった。
単に前世の記憶の中にある海の呼称の中から、最もそれっぽい名前を出しただけだったのだが、これにアレクが目に見えるような動揺を示したことにアデルの方が驚き、動揺した。
アレクだけでなく、カインを除いた同席する者すべてがこの一言に驚いたと言ってもよい。
ネヴィル側もアルタイユ側も、アデルの真意を測りかねていた。
ネヴィル側としてもアルタイユ側としても、威を示すでもなくわざわざ対等ともとれる呼び名をつける意味がわからない。
沈黙は了承なりと見たアデルは、さらに畳みかけるがこれはアレクに更なる混乱と困惑をもたらした。
「この地中海の両国の真ん中に辺りに、いくつかの島々がある。この地図上で一番大きい島の真ん中を境にして、北側を我々ネヴィルの領海とし、南側を貴国アルタイユの領海としたい。丁度真ん中で区切れて良いと思うのだがどうだろうか?」
意味がわからないとアレクは同席する二人の顔を見たが、その二人はアレク以上に顔にびっしりと汗を搔き、目が泳いでいる。
「それで行く行くはこの島に両国の海軍を置き、共同で商航路の安全を守っていきたいとも考えている」
アレクは生まれて初めて心の底から恐怖を感じた。
自分の持つ理の外にいる怪物。目の前にいる自分より若いアデルを見て、心の震えが止まらない。
「…………なぜでしょうか?」
その訳の分からない恐怖を感じていたのはアレクだけではなかった。
そしてそれに堪えかねたガンドルが、口にしたのは純粋なる疑問であった。
その口から出た疑問に対しアデルは、ん? と、小首を傾げた。
「いえ、こちら側としてはいずれ兵をお借りする以上、貴国有利の決め事となる覚悟がありました。しかしながら、貴国は今までを見る限り、あくまでも対等でありたいという意図が感じられます。その点が我々には不思議に思えてならないのです」
ああ、なるほどと、アデルはしばらく考えた後で、納得したように手のひらを打った。
「そうだな…………わかりやすく言えばこれは取引、いや契約かな? そのような類だと余は考えている。余の血筋を貴公らは知っているかも知れないが、この体には祖父の商人の血が流れている。アレク殿に兵を貸すのは、言わば投資であると考えてよい。今のアルタイユのように半島のいざこざに首を突っ込んでかき回してこられるのは、将来的に見ても鬱陶しいことこの上ない。なのでアレク殿に手を貸してアルタイユの王となっていただき、その上で正式な国交を結び商いを以て両国の繁栄をと考えているのだ。その商いにおいて大切なことは何か? それは信用と取り決めだ。取り決めや契約といった類のものは、一番最初が肝心であると、余は祖父に教わっておりそれをただ実行しているにすぎないのだが…………余は若輩の身ゆえ、どこか見落としや手違いがあったのだろうか? もしそのような点があるのならば、遠慮なく言ってほしい」
この言葉でアレクたちは、瞬時に自分たちの考えが間違っていたことを知らされた。
目の前にいるアデルを、自分たちと同じ武人としてしか見ていなかったということに。
だがそれは仕方のないことでもあった。現に先の戦いでも、直接剣を交えているうえにアデルの武名はよそ者に過ぎないアレクたちの耳にも届くほどのものであったのだから。
「と、投資、でありますか…………」
「ああ、余から見れば、いやネヴィル王国から見れば貴公らに肩入れするのは、投資である。将来、両国に長きにわたり利をもたらす投資であるとすれば、わが国民も納得して貴公らに力を貸すであろう。王侯貴族だけで戦は出来ぬでな。実際に戦うのは兵よ。彼らやその家族に対して、命を懸けるだけの明確な利を示してやらねばならぬ。ああ、そうかようやく合点がいったわ。貴殿らは我らに貸しを作ることで、属国化するのではないかと思っていたのだな?」
その通りであるため、アレクたちの表情が固まる。
「それは小利であると余は考える。人の心は抑えつければ必ずや反発する。そのような関係は長くは続かず、遺恨を残す元になる。だが、もし最初から対等な関係を続けていったとしたらどうか? そこにはやがて友誼が芽生え、年月を経てそれは絆となるであろう。そちらのほうが大利であると余は考えたまで」
この瞬間からアレクのアデルに対する見かたや考え方が変わったと言える。
自分よりもアデルがより大きな存在であり、それが悔しくもあり、そして頼もしさも同時に感じていた。
いやぁ、朝に通勤のため自転車に乗って自転車走行帯を走っていたら、駐車場から歩道横切って出てきた車と接触して、その時に地面に右肩を強く打付けてしまって、肩壊れました。
今でも痛いうえに、肩の可動域が狭くなってしまい服を着替えるのも大変な有様で……
もうしばらくリハビリ生活続きそうです。




