無骨なる気遣い
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「…………しかし、どうにも解せんな」
これからきっと何かが起こる。アデルの心はそんな根拠もないあやふやな期待感にざわめくが、それでも理性は冷静に働いていた。
カインの方を見ると、彼も顎に手を添えて小首をかしげている。
「このタイミングで交渉? 和睦するというなら城の返還は必須条件。城を返せば周囲の土地への影響力を失う。じゃあ、何のために戦ったのかということになる。何を意図しての交渉なのか、まったく読めん」
「とにかくは会ってみるしかない。だが、アデル…………気をつけろよ。捨て身の暗殺者という可能性もある」
暗殺という言葉を聞いたギルバートは、すぐに天幕の内外にいつも以上の警護の兵を配するよう命じた。
そんな物騒な慌ただしさの中、またしても天幕の中へ騎士が転がるようにして飛び込んできた。
「ご、御報告申し上げます! 我らが陣を訪れた使者の中に、アルタイユの第二王子アレク・アルタイを名乗る者あり!」
「何だと!」
「馬鹿な! 聞き間違いではないか?」
諸将が、前のめりになって伝令の騎士に詰め寄ると、騎士は怯えたように半歩後ろに下がりつつも、聞き間違いではないと断言した。
「現在、マグダル様が相対しておりまする。マグダル様は、恐れながら至急、陛下のご裁断を仰ぎたいとのことであります」
この事態にどう対応するか? 諸将の目が一斉にアデルへと向けられる。
だが、アデルも突然の事で咄嗟に判断を下せずにいた。
そんな中、ギルバートがアデルの前へと進み出た。
「彼の使者が真にアルタイユの王子かどうかは兎も角として、そう名乗られたのであればこちらもそれなりの対応をせねばなりますまい」
「じゃあ、俺が見てくるよ」
そう言ってまるで近所に散歩に行くような気軽さで天幕を出ていこうとするカインの襟首を、ギルバートがむんず掴んだ。
「馬鹿者! もう少しお前は自分の立場というものを考えて行動せよ! カイン、お前はエフト王国との婚姻同盟の要なのだ。もしもその身に万が一があれば、両国の関係に、いや、三国同盟に罅が入るやも知れぬのだ。そもそも、お前たちは常々無茶が過ぎるきらいがある。先の戦に於いては、国家存亡の危機であり総力戦ゆえ目を瞑ったが、今回はそうはいかん。わかったのならば、そこでおとなしくしているのだ」
直接怒られているのはカインだが、遠回しにアデルに対しての苦言も含まれており、カインだけでなくアデルもまた首を竦める。
「陛下、ここは某にお任せあれ。嘘か真かはさておき、彼の者が王族を名乗る以上はこちらも王家の一員である某が出向くのが一応の礼儀かと」
アデルはギルバートの進言を了とした。
万が一の場合でも、ネヴィル王国軍随一の勇者であれば、三兄弟総掛かりでも敵わなかったあの獅子王子に負けることは無いだろうと。
それほどまでにアデルたちは叔父の卓絶し、超人じみた武勇に信頼を置いていたのだ。
叔父を見送った後カインは、
「直接戦って顔を知っているからと思って見に行こうとしたが、よくよく考えるともう二度と会いたくない相手だった。今でもあの時のことを思うと背筋に冷や汗が湧き出てくるよ」
と、アデルに対して両肩を竦めて見せた。
「同感だ。少なくとも戦場で敵として会うのはもう二度と御免だ。あの時三人ともに生き残れたのは、はっきり言って奇跡以外の何ものでもない」
アデルもまたあの時のことを思い出したのか、ぶるりと体を震わせて鳥肌を立てていた。
そんな二人の様子を見た諸将らは、恐れを知らない若者そのものを体現する二人が、身を震わせるほどの強さを持つアルタイユの王子とやらに、興味を惹かれずにはいられない。
「それほどまでの剛の者とは、ひとつ手合わせしたくなったわい」
と、こちらもネヴィルを代表する猛将の一人、ウズガルドが灰色の顎髭を扱きながら言うと、
「老将軍ではとてもとても、ここは某こそが彼の者の相手をすべきでしょう」
これまた蛮斧の異名を持つ猛将、バルタレスが巨体を揺すって豪快に笑う。
「ああん? 手前、若造めが! 儂が老いぼれたとでも言うつもりか? アルタイユの小僧ごときに後れを取ると?」
ネヴィルは武を貴ぶ国柄。自ずと集まった将も、武辺者ばかりとなれば、血の気も多い。
猛将同士の間に剣吞とした空気が流れるが、これはこれでじゃれあいのようなもの。
真の武勇は、戦場で体現するものであると、両者も心得ている。
「よさんか、バカ者ども! 陛下の御前であるぞ!」
ウズガルドと同じ三伯が一人、グスタフが不毛な会話を止めた。
「全員しゃんとせい! 暗殺者の可能性もあるのだ。その時は身を挺して陛下をお守りせねばならぬ。各々方、覚悟を決められよ」
グスタフの一言でその場に凛とした戦場特有の空気が張り詰める。
そんな中でウズガルドだけは、普段同様に軽口を叩く。
「そのようなこと、今更言わんでも皆わかっておるわ。どうも年寄りは小言が多くてかなわぬ」
「何じゃと! 貴様! だいたい貴様の方が一つ年上じゃろうが! それなのに儂を年寄り扱いしおってからに」
諸将の道化た茶番が続く中、アデルとカインは笑みを浮かべたまま、すたすたと歩いて天幕の外へと向かって行く。
それを見たグスタフが、
「陛下、どちらへ?」
と、怪訝な顔で聞くとアデルは、
「いや、アルタイユの王子を出迎えに行こうと思ってね」
と、笑った。後に続くカインもそれに釣られて笑う。
二人の笑い声を聞いた諸将の驚き、呆れ、あんぐりと大口を開けていた。
普通の人の感覚であれば、兄弟三人掛かりで勝てなかった相手に多少なりとも苦手意識が生じるはずである。
ましてやアデルは右の太ももに深手を負わされた相手である。
であるにもかかわらず、気軽に友人に会いに行くような軽い感じの二人である。
「みんな、気遣い感謝する!」
笑いながら振り向き、そう言うアデルに諸将らは苦笑で返すのが精いっぱいであった。
「いやはや、全て見抜かれておったわい」
「流石はお館様の子よ」
とグスタフ、ウズガルドが誉めそやした。
二人は諸将らのやり取りを、最初から自分たちの緊張をほぐすために演じられた茶番だと見抜いていたのだ。
胸を張り堂々と先頭を歩くアデル。すぐ後ろにはカインが続く。
そんな二人を追うように、諸将らも胸を張って後を追った。
いやー地獄の十二月が終わりました。
社内でコロナが流行りまして、人手不足で連勤と残業地獄でした。
大晦日はさすがに定時で帰れましたが、もう三が日は死んだように寝ました。
そしてもう出勤で地獄の再開という、もうね……いやーきついわ。




