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憂悶の陣中

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誤字脱字指摘も感謝です!

メッセージありがとうございます!

どれもこれも励みになります。長く続けていけるのも、皆様の温かい声援のおかげです。

本当にありがとうございます。

 

 一足先に王都バリルジアに戻ったザームは、自分よりも先に戻っていた王太子グリムを見て愕然とした。

 ガドモア王国を攻略していたはずのグリムは、ガドモア王国の名将エルキュールに敗れ、その後も軍の統制を取ることが出来ずにズルズルと後退を重ねた結果、神聖ゴルド王国がガドモア王国から奪った土地の凡そ三分の二を奪還されてしまったのである。

 本来ならば勢いに乗るガドモア王国が、そのまま神聖ゴルド王国に攻め込んできてもおかしくはないのだが、相次ぐ戦争による疲弊が大国とはいえガドモア王国にも大きな影響を及ぼしており、今では国境線で国王代理の王太子ラルゴの腰巾着たちが、功績稼ぎに小競り合いをするに(とど)まっている。

 途方に暮れたザームは、とりあえずはアレクにベルクス城に駐屯するように命を下すが、これにもアレクは反発の意思を示した。


「先の戦いを見ればわかること。この城は元来軍事拠点として築かれたものではなく、権威の象徴として築かれた、言わば飾りの城。この城を守り、維持するのは到底不可能であれば、即座にこのような城は捨てるべきである!」


 しかしザームはこの意見を聞かなかった。

 何故ならば、翌年以降のシクラム城周辺の農作物の収穫を期待せねばならぬほど、神聖ゴルド王国の食糧事情が悪かったからである。

 その真意を知ったとしてもアレクは城を棄てての撤退と戦域の縮小と、軍の再編成を提言したに違いない。

 死守命令とも受け取れる強い口調の命令を受けたアレクは、苛立ち、呆れ、怒り狂った。


「大体が、この城には兵糧すら無いのに守り通せるはずが無いではないか!おそらくは翌年の収穫を期待しているのであろうが、このままでは冬すら越す前に我が将兵らは皆が皆、ことごとく餓死するであろうよ!」


 こんなところで俺は死ぬのか……と、アレクは崩れたまま修復もされていない城壁を見て項垂れた。

 本当の父親の仇も討てず、死後王籍から除外され公共墓地の片隅に捨てられるように葬られた母の名誉を回復することも出来ずに、異国の地で小間使いのようにこき使われて死ぬのが、自分の定めだとでもいうのだろうか?

 無理な命令に絶望して一見、塞ぎ込んでいるようにも見えたが、胸の内の闘志は未だ衰えず、現状の打開策を必死に探し続けていた。



 ーーー



 一方その頃、アデルはというと、動かすと傷が開く恐れがあるため戦場付近に陣を敷いたまま、同地から動くことが出来ずにいた。

 そしてさらに物見からもたらされた報に、アデル以下将兵らも緊張を解くことが出来ずにいたのである。


「厄介極まりないな。しかし一体敵はどうするつもりなのだろうか? まさかアルタイユ軍だけでもう一戦仕掛けてくるつもりだろうか?」


 シクラム城に籠った敵の動きは、アデルたちの想像を超えており、即座に決断を下せずにいた。

 もし攻めてくるのであれば、軍を解散することは出来ない。攻めて来ずに城に籠られても、やはり軍を退くことは出来ない。


「いっその事こちらから攻めますか?」


 勝利によって気が大きくなった将兵らの中には、こちらから仕掛けてシクラム城を奪還すべきであるとの声も上がったが、アデルはそれは厳しいと首を横に振った。


「相手が相手だ…………籠ったのが神聖ゴルド王国軍であったのならば、即座に攻めて城を取り返したものだが、アルタイユ軍となるとな…………諸将らも知っての通り、戦象部隊は全くの無傷だ。そしてシクラム城の周囲は平地となれば、うかつに手を出せば火傷どころでは済まない…………」


「しかしいつまでもこのままにらみ合いをしていても、埒が明かぬぞ。もう秋も深まりを見せ、じきに冬となる。いくらカルディナ南部が比較的温暖とはいえ、雪だってちらつく事もある。このままでは敵味方凍えて共倒れじゃぞ?」


 三伯が一人、猛将ウズガルドが言うことはもっともである。

 第一に軍というものは非生産的な金食い虫である。ただこのように駐留させているだけでも、日々莫大な金や物資が垂れ流しなのだ。

 さっさと軍を解散せねば、如何に好景気で金余り状態となっているネヴィル王国といえど、手痛い損失を被ることになる。

 それに援軍として来ているエフト王国軍のこともある。親密な同盟国であるとはいえ、いつまでも将兵を借り続けるわけにはいかないのだ。

 かといって即座に送り返すことは出来ない。ほぼ無傷のエフト王国軍二千の兵力を欠けば、先の戦いでネヴィル軍に勝るとも劣らない勇猛さを持つアルタイユ軍との戦いは非常に厳しいものとなるのは目に見えている。


「敵の意図が読めぬ以上、暫くは様子を見る他ない。そういえば、ゲンツはどうした? 全く姿を見かけぬのだが…………」


 悪い予感がしたのか、ゲンツの所在を問うアデルの顔に影がはしる。

 問われた諸将らは一瞬顔を見合わせたが、傍に控えていたブルーノがゲンツは負傷した黒狼騎たちを後方へ搬送する任にあたっておりますと言った。


「そうか、ならばよい。考えても見れば、心配する必要など無かった。あのゲンツがやられるわけがないもんな」


 そう言ってアデルは笑ったが、すぐに傷の痛みで顔を引き攣らせた。

 そのため、諸将らの間に流れる困惑した空気に気付かなかったのである。

 当のゲンツはというと、左手を失う重症を負い、傷口は焼かれて塞がれたもののその後高熱を発し続けていた。

 ゲンツは誰がどう見てもアデルの寵臣の一人であり、最も気を許すことのできる一人でもある。

 そんなゲンツが負傷後、生死の境を未ださ迷っていると知れば傷に障るとして、ギルバートが全将兵に緘口令を敷いていたのであった。

 とりあえずの所、全てはアデルの傷が塞がり動かせるようになってからということで、このまま同地に留まり、敵軍の動きに備えるということで軍議は終えた。


 アデルが寝ている天幕から出た諸将は、天幕から離れると口々にゲンツの身を案じた。


「で、どうなのだ?」


「左手を失い、血も失いすぎている。あの馬鹿者がそう簡単にくたばるとは思えぬが、な…………」


「う~む、惜しい…………手を失ってしまってはのぅ…………戦働きはもう出来ぬか」


「お優しい陛下のことだ。知ればさぞ悲しむことだろう」


 中でも怪力の猛将であるバルタレスは人一倍嘆いた。


「あと数年もすれば、儂をも凌ぐ戦士となれたであろうに……」


 諸将らの口からは次々と失意のため息が漏れる。

 これを見ればわかるように、ゲンツは次代のアデルの右腕として年長者たちから随分と期待されていたようである。

 だが、左手を失ったことにより戦士としての役は果たせない。

 ならば将としてならどうか? 将としての才は全くを以て未知数である。

 アデルに近侍していることで何かを掴んでいるかも知れないが、後方にて采配するのを得意とする人種ではないことだけはわかる。


「ブルーノは、何とかして騎士団に席を用意するつもりのようだが、果たして本人がそれを受け入れるだろうか…………」


 再び皆の口からため息が漏れる。

 漏れたため息は、秋風に乗って陣中をゆっくりと漂う。

 アデルの負傷とゲンツの戦士としての終焉。勝利したはずのネヴィル王国軍の陣中は、悲しみと憂いにより重く、暗く沈みかけていた。

来月は仕事が今より少し落ち着くと思うので、投稿頻度上げられそうです。

結局仕事が忙しくてスカイリム全然やれてないです。

あのゲームの中で読める書物が面白くて、プレイしても本集めて読んでるだけなんですけどね。

みんな大好きアルゴニアンの侍女!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 神聖ゴルド王国の貿易業の現状。 陸上でのネヴィルとの戦いで「無駄に」海兵が減り、しばらく留守にしてた影響がどこまであるか。 普通の経営思考ならアレクの言うとおり戦線を縮小して、国家の…
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