白昼堂々の奇襲
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更新遅れて大変申し訳ありませんでした。
アデルは軍議の後、すぐにベルトランに一千の兵を与えて敗走して来るであろう味方の援護と収容を命じた。
これにはただでさえ少ない兵力を小出しにする危険性が問われたが、あくまでも敵の主力との交戦は避けるという条件付きで、後はベルトランに全てを一任した。
そしてそれが済み次第、ベルトランは予定戦場から一旦大きく離れて離脱して潜み、決戦時の奇襲部隊としての役割を与えられた。
新参であるベルトランは、これほどまでに重用されたことを喜び、
「必ずや陛下のご期待に応えましょうぞ!」
と闘志をその身に宿して出発した。
このベルトランがオルネド城を発った頃、すでにダグラスが籠るベルクス城は敵に包囲されつつあった。
敵の軍使がベルクス城を訪れ、ダグラスに降伏を促す。
「なるほど、王国は今ここで降伏すれば今の身分を保証すると?」
「左様。我が神聖ゴルド王国においてもダグラス伯は位階、領地そのままということで…………」
ダグラスは目を細め、顎に手を添えて今の自分の価値を値踏みするような表情を浮かべて見せる。
これを見た軍使は、ダグラスの心が十分に揺れ動いていると感じた。
「…………ならば、三日ほど時間を頂きたい。城内の味方を説き伏せるゆえ…………」
「それはなりませぬな。三日というのは長すぎる。与えられる猶予としては、精々が一日。明日の朝にはご返答を頂く」
「わかりもうした。では明日の朝までに旗幟を鮮明にいたすとしよう」
「では、御免仕る」
去っていく軍使を尻目に、ダグラスは息子のマグダルを手招き、耳打ちする。
「すぐに兵を集めよ。撃って出るぞ」
「なっ、父上! 籠城するのでは?」
「馬鹿者! お前はまだ青いのぅ。このまま籠城してもこのようなちっぽけな備えでは、長くはもたぬ。であれば、敵が思いもよらぬ瞬間に奇襲するのも面白かろう? ん?」
マグダルは父の顔を見た。口は笑っていても目は本気である。
ネヴィル家の一番家老で歴戦の猛者であるダグラスもまた、戦士であり死を恐れぬ戦人であった。
「直ちに! 奴らに一泡吹かせてやりましょう!」
ーーー
戻って来た軍使の報告を聞いたザームは、この大軍を目にしては無理からぬことだと笑っていた。
降伏開城は最早確実と、王であるザームを始め諸将にも弛緩した空気が漂う中、前方から兵が駆け付けて来て報告する。
「じょ、城門が開きました!」
それを聞いたザームらは、手を叩いて笑った。
「随分と早い決断ではないか。いや、結構、結構、まことに英断である」
と太り気味の腹を揺すりながら笑い続けた。
だがその笑い声は次の報告を受けた瞬間、凍り付く。
「て、敵襲! 敵襲にございます!」
「な、なに? 敵だと? どこだ? どこに敵が居る?」
状況を理解できないザームに苛立った兵は、声を出さずにただ黙ってベルクス城を指さした。
「馬鹿な! 降伏する手筈であろう? 何かの間違いではないか?」
そう言って軍使を睨むザームの耳に、味方の怒声と悲鳴が微かに聞こえ始める。
ザームは顔を真っ赤にして、吠えた。
「おのれ! 余を謀ったな! 許せぬ、一人残らず討ち取ってしまえ!」
慌てて自陣へと駆け戻る諸将たち。だが、討ち取るどころか、降伏すると思われていた城兵の突然の真正面からの奇襲に全軍が混乱しており、とてもではないがその命令を実行することはできなかった。
動揺する敵相手に、ダグラスとマグダルは散々暴れまわったが、徐々に立ち直って数に押され始めると、それ以上の交戦を諦めてさっさと兵をまとめて撤退した。
この白昼堂々の奇襲は成功し、ネヴィル王国軍の損害は微々たるものでありながら、奇襲されたゴルド王国軍は数百の死傷者を出す損害を与える結果となった。
勝った城兵の士気は天にも昇る勢いで、逆に手痛い損害を受けた攻め手は前途の多難さを感じて意気消沈する。
あまりにも悔しかったのか、軍使が城壁際まで馬を寄せて怒鳴り、その行いを非難する。
これにダグラスはこう言って笑った。
「明日の朝に敵か味方かはっきりさせる約束であったはず。間を置かず、すぐに敵と知れてその方らも良かったのではないかな?」
これに城兵らも大声でゴルド王国軍を虚仮にして笑う。
軍使は、
「貴様ら、一人残らず殺してやる! 降伏を認めずにな! 覚えておくがいい!」
と、捨て台詞を残して走り去る。
「阿呆、誰がお前らなんぞに降るかよ!」
「我らが王はただ一人! 黒狼王、ただその人のみよ!」
走り去る軍使の背中に城兵らの言葉が刺さる。
圧倒的な数で包囲されている中で、その戦意の高さを目の当たりにし、軍使の顔色は青ざめていく。
「これはきつい戦になるぞ…………」
自軍に戻った軍使が見たのは、先ほどまでの激高はどこへ行ったか、負けたにもかかわらず余裕の表情を浮かべる王の姿であった。
聞くところによれば、対ガドモア王国の前線から引き抜いた、援軍のアルタイユ王国軍が合流まで後数日の位置にまで達しているという。
この軍が加われば、兵力差は二十倍以上。如何に戦意が高かろうと、防ぐことは出来ないだろう。
敵陣の乱れが少ないことを城壁から見たダグラスは、敵の援軍が間もなく到着するのを察した。
「この城では精々もたせても三日というところかの…………」
ダグラスはマグダルに命じた。
「城内に備蓄されている食料を始末する準備をせい」
「火を掛けるので?」
マグダルの問いにダグラスは首を振る。
「それでは後に陛下がこの城を取り戻せなくなろうが。兵の糞尿を集めておき、いざ撤退の折に撒くのじゃ。招かれざる客たちに、儂らの糞小便を文字通り御馳走してやろうぞ」
そう言ってダグラスは呵々と笑う。
そんな父の姿に、マグダルはやれやれと思いながらも、父とアデルの絆の深さを思い知る。
このような悪戯にも似ているが有効な策は、確かにアデルたちが思いつきそうなものである。
この一連の戦により、ダグラスの武名はより一層の高まりを見せ、それまでの実績とともにネヴィル王国史にその名を深く刻むのであった。
誰か! 誰か私にGWを下さい!
いやぁ、みなさん長い間自粛してただけあって、結構な量の鬱憤が溜まっていたようで……結構な弾け具合ですね。
今まで厳しかった観光や外食産業も、少しは助かるんじゃないでしょうか。
老将が咲かせた最後の花、咲いた後は散るのみです。
こどもの日にアップする内容じゃありませんが、どうかご勘弁を。




