拒絶
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遅くなりました、申し訳ございません。
神聖ゴルド王国から使者が来たと聞かされたアデルは、それはもう周囲が驚くほど嫌な顔をした。
アデルのみならず、共にシクラム城にいるカイン、そして王都トキオより駆け付けたトーヤもまた、アデルに勝るとも劣らない嫌悪感を示した。
「会うだけは会おう」
と、アデルは使者を引見した。
一方で使者の方は、要塞化されたシクラム城に驚き、そして謁見の間のあまりの質素さにまた驚く。
「黒狼王は華美を好まぬとは聞いていたが…………」
一国の王が座るにしてはあまりにもお粗末すぎるただの椅子を見て、使者は言葉も出ない。
程なくしてアデルがカイン、トーヤ、そして大将軍のギルバートやシュルツ、バルタレスらの将を伴って入室してきた。
使者は跪き、頭を垂れる。
アデルは使者がお粗末と評する椅子に座ると、面を上げるよう声を掛けた。
「遠路はるばる御苦労である。して、本日は何用で参られたか?」
「まずは我が王よりの挨拶としてこれをお納めくだされ…………」
使者が運んできた貢物が記された羊皮紙をアデルはカインから渡された。
それに目を通すと、真珠や琥珀、毛皮などで、貢物の定番とも言える酒や珍味の類は一切記されてはいなかった。
「ありがたく頂戴するとしよう。で、用件は何か? 余も忙しい身でな…………」
特に感情も込めずにアデルは礼を述べた。
「はっ、我が国は今、圧政を敷くガドモア王国を正すために兵を挙げ、干戈を交えております。貴国にあらせられましてもそれは同様でございますれば、ここは手に手を取り合い、一息にガドモア王国を滅するべき好機を逃すべきではないと勘考する次第であります」
この使者の言いようにアデルは鼻で笑った。
「ははっ、好機…………好機ねぇ…………勘違いされるな使者殿。我が国は、救世を国是としている。我が国から見れば、貴国もガドモアも大差はない。現に貴国の軍の略奪により、多くの民が逃げ惑い我が国へと難を逃れるため押し寄せている。余に言わせれば、神聖ゴルド王国など大層な名を掲げているだけのただの賊である」
「な、何と! 我が国を、我が王を賊であると申されますか! これはあまりにも酷い侮辱でありますぞ!」
「それだけ貴国の行いに我が国は迷惑しているのだ。手に手を取り合ってなどと申すが、どうせ兵糧の無心をしに来たのであろう? 兵糧だけ出させておいて、上手くいった暁には多少の領土でも分け与えれば良いとでも考えているのだろうが」
「それは…………ですが、今はガドモアを倒す絶好の機会! まずは大国であるガドモアを倒してから、それより後は、結びつきを強めるも、雌雄を決するもその時次第ということで…………」
「話にならぬ。兵糧に苦しむような杜撰な拙攻で倒せるのならば、余がとっくの昔に滅ぼしておるわ。帰って賊の頭目であるザームに伝えよ。我が国はその行いを改めぬ限り、神聖ゴルド王国を国として認めぬとな」
取り付く島もない拒絶。
使者は恨みがましい目でアデルを睨むと、兵に促されて退出した。
アデルは部下に城にある財物の中から適当に見繕って、それを返礼の品とするよう命じた。
言葉で拒絶しておきながら、返礼の品を返す。これによって、少しでも敵が混乱すれば儲けものである。
神聖ゴルド王国の使者はこの返礼の品々を持たされ戸惑うも、追われるようにシクラム城を後にした。
「さて、拙いことになったな」
と、アデルがため息を吐き、眉をしかめる。
「来るな…………奴ら…………使者はそのための偵察役だな」
「収穫の前には確実に来るだろうな…………畜生! 開墾に力を注いだばかりだっていうのに!」
カインとトーヤも敵の来襲を確信する。
「神聖ゴルド王国が糧食を求めて我が国を攻めるというのか? だが、彼の国は今ガドモアを攻めている真っ最中だぞ? アルタイユと結託してるとはいえ、兵力にそのような余裕があるのだろうか? かつてザーム辺境侯といえば、慎重すぎるという評判であったが、そのような二正面作戦を行うだろうか?」
ギルバートの疑問は居並ぶ諸将も同様に抱いていた。
「商人たちと避難してきた難民からの情報ですが、どうもアルタイユとの仲が上手くいっていない様子。さらには突発的な挙兵の準備不足がたたり、兵は確保出来ても物資そのものが不足していた模様。だが、近年稀に見るガドモアの大混乱を目の当たりにして、野心が抑えられなかったのでしょう。そのまま兵を挙げ、勢いに身を任せてしまった。ザーム王のまず第一の失敗は、その性格に合わぬ事をしてしまったことです」
「なるほど、ゴルド王国軍が占領地で惨い徴発を繰り返していたのも物資不足を補わんとしてか……」
「ええ、ですが、彼らの予想を超えてガドモアの民たちは困窮していた。徴発しても大して物資は集まらず、速攻で決着をつける必要性に駆られたが、ガドモア本国の中心部への入り口ともいうべきピスト城とソニエール城の二つの城で足止めされてしまった。ここで押し切れなければ、ゴルド王国に未来はない。彼らはもう後のことなど考えもせず、なりふり構わず来るでしょう」
「同じ国に属していたから、どこが肥沃な土地かはよく知っているか。今、東南部にいるのはダグラスだ。すぐに敵襲に備えさせよう」
「ええ、それと本国に早馬を出して、錬成の終わっている兵を呼びましょう」
「わかった。錬成長官を務めるザウエルにそのまま兵を率いて来るよう命令を出そう。ノルトとエフトはどうする?」
「ノルトは時間的に間に合わないでしょう。ノルトには我が国が負けた時に手を借りるとして、エフトには兵を出して貰いましょう。これは戦力というよりは政治的なもので、神聖ゴルド王国の連中に連合の結びつきの強さを知らしめるのが目的です。それと北部にも援軍の要請を。兵数は三千から五千の高速部隊で。編成終わり次第南下して本隊と合流するようにと」
「わかった。しかし、敵の兵力が読めぬ。現地のアルタイユ軍との仲が険悪であっても、本国からさらなる援軍が派遣されてくるかもしれない以上、集められるだけ集めておいた方がいいかも知れん」
三兄弟とギルバートが、案を出し合う中、諸将からも活発な意見が飛ぶ。
「陛下、多少危うくはありますが、東部国境沿いから兵を引き抜いてはいかがでしょうか? 今は比較的動向は落ち着いておりますし、ベルトランとジジカならば、多少の劣勢でも支えられるかと思われます」
「同意。国境沿いで戦に慣れた兵は、本国で錬成した兵よりもあてにできます。そのせいで多少国境を押し返されたとしても、後で取り返せばいいだけのこと。まずは神聖ゴルド王国との戦いに戦力を集中させるべきでありましょう」
シュルツ、バルタレスの言にアデルは頷いた。
「そうしよう。ベルトランとジジカには無理をさせるがこの際は仕方がない。叔父上、ダグラスの元には今どれほどの兵力が?」
「ダグラスが居城とするベルクス城に二千五百。その後方に位置するオルネド城に五百」
「合わせて三千か…………このシクラム城に三千、急いでかき集めても一万二、三千くらいかな? 厳しいな…………」
ネヴィル王国は戦いに勝ち続け、一気に版図を広げはしたが、あまりにも急速に拡大したがために軍備が追い付いていなかった。
しかも他国とは一線を画した用兵思想のため、従来のようにそのまま徴兵して兵とすることは出来ず、一々兵を錬成しなければならなかったため、兵力不足に苦しんでいたのだった。
しかし、その十分な錬成のお陰でネヴィル兵は他国の兵を圧倒するほどの強さを誇っていたのも事実である。
ウクライナが凄いことになっちゃって、目が離せない状況。
正に第三次世界大戦の危機です。戦争は物語の中だけで、現実にはどんなに退屈であっても平和であって欲しいものです。




