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焦燥

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 無敵の進撃をし続けて来た神聖ゴルド王国軍だが、ついにその歩みが止まる時が来た。

 これ以上進軍するには、ピスト城とソニエール城を攻略する必要がある。

 この二つの城さえ落とすことが出来れば、再び神聖ゴルド王国の無敵の進撃が再開されるだろう。

 しかし、どちらか片方でも残してしまうと、常に後背を脅かされ続けることになりかねないため、両城の攻略は必要不可欠なのだ。

 士気は十分、だが一つだけ懸念がありそれこそが神聖ゴルド王国軍の最大の弱点でもあった。

 それは兵糧の問題である。

 占領地からの収奪で一応は食つなぐことが出来たが、それでも長期戦となると心許ない量しか確保出来ていない。

 なので神聖ゴルド王国軍は、常に占領地の拡大をして現地調達により兵糧を賄う必要性に駆られていた。

 この状況を外部の人間ながら正確に把握していたのは、アデルたち三兄弟とガドモアの将であるエルキュールだった。

  彼らはあらゆる伝手を使って情報収集を行った結果、神聖ゴルド王国軍が兵糧不足に苦しんでいる実態を掴んでいた。

 さらにはエルキュールによる、神聖ゴルド王国軍の進軍ルート上にある、収穫前の麦畑を焼いたことによる食料の値段の高騰が、兵糧の確保の困難さにより一層の拍車をかけていた。


「彼らは準備不足の上、補給を軽視して攻勢の限界点を見誤った」


 これは三兄弟の言である。

 この時代、自動車もなければ飛行機も無く長距離の大量輸送は不可能。

 馬車があるではないかと思うだろうが、馬は想像以上の大喰らい。

 馬や御者、それに護衛の兵の食料を考慮すると、距離があればあるほど前線に届く食料は少なくなる。

 そのため通常、敵地に侵攻するにあたっては、補給基地を建てては前進、また補給基地を建てては前進といった行動をとるしかないのだ。これは、今ネヴィル王国がやっている方法である。

 それか、神聖ゴルド王国軍がやったような略奪による補給方法もあるが、これは大抵の場合一時しのぎにしかならない上に、その地の民の反感を買いその後の支配に多大なる悪影響を及ぼすことは確実である。


「こうなってしまっては、神聖ゴルド王国軍は死に物狂いで片方の城を速攻で落とし、その勢いのままもう片方の城を落とすしかないが…………」


「そう簡単にはいかないだろう。よしんば上手くいったとしても、損害が馬鹿にならないはず。それで侵攻はストップ、終わりだ」


 久方ぶりに集まった三兄弟が、得た情報から両国の動向を検討している最中、驚くべき情報が飛び込んで来た。

 それを聞いた三人は、それぞれため息交じりに頭を振り、三人揃って神聖ゴルド王国の敗北を予言したという。




 ーーー



「馬鹿な! ここに来て軍を二手に分けるですと?」


 ピスト城とソニエール城の中間地点に陣を敷いた神聖ゴルド王国軍。

 その陣の中の天幕内で今後の戦略会議が行われていた。

 軍の最高指揮官である王太子グリムの打ち出した方針に、援軍であるアルタイユ軍を束ねる将であるアレクが真っ向から噛みついた。


「兵の士気は連戦連勝により高まっている。この熱が冷めぬうちに、一息に二城を落として一気にガドモアを蹂躙するのだ!」


 グリムの顔には焦りの陰が見え隠れしていた。

 思いのほか集めた兵糧が少なく、目の前に立ちはだかる二城をちまちまと攻略している余裕が無いのだ。

 であればこそ、確実に一つ、また一つと落とすべきであると主張するアレクに、


「敵の士気は底まで落ちている。これは好機である。少しばかり強く寄せれば、敵は城を放棄して逃げ出すに違いない」


 として、その言を退けたのである。

 これにはアレクも閉口した。グリムの打ち出した方針は、策でも何でもなくただの希望的観測にすぎないのだ。


「これは駄目かも知れぬな…………」


 アレクは心の内で失望の呟きを発せずにはいられない。

 アレクの立場としては、もし神聖ゴルド王国軍が敗れアルタイユに帰還すれば、待ち受けているのは死である。

 援軍の失敗の責任を取らされ、処刑されるのはまず間違いないと見ている。

 そのため、アレクの計画では何が何でも神聖ゴルド王国に勝ってもらわねばならない。

 そのうえでザーム王の野心をくすぐり、アルタイユの何らかの利権を手放す代わりに兵を借りて、母国へと帰還し、その兵力を以って父王と兄との決戦を行うしか、生き残る道が無いのだ。

 細く険しい道である。だがこれではいくらも進まぬうちに、その道が途絶えてしまうではないか。

 アレクはなおも反対の意を唱えるが、所詮は援軍の将。王太子であるグリムの言葉に、神聖ゴルド王国の諸将は賛同した。


「兵力を二分するということは、攻城兵器まで二分するということだ。敵が籠るということは、それなりに防衛しやすい城なのだろう」


 自陣に戻ったアレクは副将である二人に愚痴をこぼす。

 副将の二人は今までにないアレクの失望ぶりにかける言葉が見当たらなかった。

 一方でグリムもまた、側近たちに愚痴をこぼしていた。


「アルタイユの奴ら、少しばかり戦に強いからと調子に乗りおってからに…………大体があの象という乗り物が強いだけではないか。それも平地での戦には役に立つものの、攻城には一切の役立たず。それに我が軍が兵糧に苦しんでいるのは、あの象というものが想像を絶する大喰らいなせいであろう」


 実際グリムの言う通り、攻城では象は一切役に立たない。

 それゆえに、兵を二分してもアルタイユ軍が加わった方は、今一つ士気が乗っていないように思えた。

 兵糧などの物資の不足、兵力と攻城兵器の分散。

 これをエルキュールが知ったら小躍りして喜んだであろう。

 こうして神聖ゴルド王国軍の無謀とも言える、二城同時攻略戦が開始されることとなった。




 ーーー



 この時、神聖ゴルド王国の王都にいるザーム王はというと、アルタイユ王国に使いを出して、さらなる兵の増援と兵糧の支援を要請していた。

 この使者の言葉に、戦況が思わしくないことを感じ取ったアルタイユ王国の国王ラスルは、方針を切り替えてこれ以上神聖ゴルド王国に肩入れするのを止めて、このままアレクを見殺しにして始末する方向へと舵を切った。

 そのため、使者には援軍を送ると約束しながらも、兵を集める素振りを一切見せなかった。

 無論、兵糧も形だけ送るには送ったが、神聖ゴルド王国の要求する量には程遠く、後からさらなる支援を約束するものの、その後は小麦一袋さえも送らなかった。

 これにはザーム王も困り果てた。何としても兵糧を確保せねばならないため、ザームは次の手を打つ。


「ネヴィル王国に使いを出すのだ」


 これまで互いに微妙に境を接しながらも、沈黙を続けていた両国であったが、神聖ゴルド王国の方から動いたのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 上手く足止めできたなぁ… そしてグリムの軍才がたかがしれたわ。 正解は早々に撤退、次点で城を落とさず抑えの兵士だけを残して進軍だったりする。 後者はそもそもガドモアの兵数事情を把握してない…
[一言] 兵糧は敵から奪え、は孫氏も言ってるので戦略としては悪くないんだけど、それはちゃんとどこまで攻めるか見極めてる場合に限る。 拠点整備しながら進軍とかアホほど経費がかかるし。中世ぐらいの技術力じ…
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