神聖ゴルド王国の快進撃
感想、評価、ブックマークありがとうございます!
誤字脱字指摘も感謝です!
スクリムの港町から快速の小舟で三時間ほどで、神聖ゴルド王国の王都バリルジアに到着したアレク。
バリルジアの街を見下ろすように建てられた王宮で、アレクはザーム王の熱烈な歓待を受けた。
そしてそのまま軍議に入った。
初夏とはいえ、母国アルタイユよりも気候的に遥かに涼しいはずであるにもかかわらず、大きくあけ放たれているバルコニーに面した窓から流れ込んでくる潮風は、重く体中にまとわりつくような暑苦しさを感じさせる。
会議室に集まった王を始めとする諸侯の身から発せられる熱気が、一層の暑苦しさを醸し出している。
「好機の到来である! こうして盟友アルタイユより、獅子王子と名高きアレク殿が来援してくれた。これはもう神が我々に勝利せよと言うに等しい。直ちに北上し、ガドモアを討つべし!」
ザームの拳を振っての熱弁に、諸将らも次々と立ち上がり気焔を吐く。
それを座ったまま冷静な目で見続けるアレク。
その後も軍議というには、緻密な計画が語られるわけでもなく、策を立てる訳でもなく終わった。
翌日、スクリムより徒歩でバリルジアに到着した自軍に戻ったアレクは、副将のガンドルとグレイザーにこう述べた。
「あれは軍議と呼べる代物ではない。そうだな……言うなれば決起集会とでも言うべきか…………。特に具体的な策も無いようだ」
「殿下のそのもの言いですと、少々危ういですかな?」
アレクと共に数々の戦場を渡り歩き、その都度勝利に貢献し続けて来た歴戦の将であるガンドルのその言葉にアレクは、
「ガドモア王国が混乱の最中にあるのは事実。大量の流民の発生と、小規模ながら幾つかの反乱が起きていることから、勢いに任せて押し切れないことも無いかも知れぬが…………」
と、歯切れ悪く締めくくる。
「船団を率いていたピゲレスは、早々に引き上げました。彼奴は王太子殿下の子飼い、我々をこれ以上支援する気はないようです。あの様子ですと、援軍はどうも期待出来そうにありませんな」
呆れたように肩をすくめながら話すグレイザーの言葉に、ガンドルが続く。
「我らも嫌われたものですな。殿下、腹はもうお決まりでしょうか?」
ガンドルの言葉に、アレクは頷く。
「最早父上、兄上との決裂は避けて通れぬ。であれば、まずはザーム王の元で功を立て、その功を以って船団と兵を借りて母国へと凱旋するのみである!」
「あとは出たとこ勝負といったところですかな?」
「分の悪い賭けよ。卿らには貧乏くじを引かせてしまったな」
「はっはっは、先ほども申し上げました通り、我らは等しく陛下と王太子殿下に嫌われておりまする。そう、今ここにいる一兵卒に至るまで皆、王の不興を買いし者たち……例え大人しく陛下に従ったとしても、平穏に暮らすのは到底不可能であれば…………」
「ならば共に行かん! まずは兎も角、勝利することだ。勝ち続けることで、我々の前に活路が開く!」
父である王に見捨てられたアレクが生き延びるには、この方法しかない。
半島の戦乱を鎮め、兵を募り母国へと討ち入る。
全くを以って分の悪い賭けであるが、母国に留まり暗殺に怯える日々を過ごすよりは、遥かにましであった。
ーーー
ネヴィル王国歴四年の六月、神聖ゴルド王国歴では初年の六月、王太子グリムを大将としたガドモア討伐軍が北進を開始。
使い捨ての先鋒を命じられるかと思っていたアレク率いるアルタイユ軍は、陽動部隊として本隊と離れて別方向から進軍することとなった。
「先鋒の名誉を他国の者に譲るわけにはいかぬということですかな? こちらにとっては好都合」
「ある程度の行動の自由を得られたのは大きいですな。下手に先鋒を命じられて、損害を出すのも馬鹿馬鹿しいですしな」
ガンドルとグレイザーの言葉にアレクはクスリと笑いながら、地図を広げて進軍ルートを定める。
「おそらく決戦はこの、ファルグラス平原あたりで起きると思われます」
「そこまで浸透できるか? いや、虚を突かれたガドモアは後手後手に回っているし、これはズバリ的中するな」
二将の見立ては正しいとアレクは頷く。
「よし、では味方の進軍に合わせてこちらも動く。決戦の地で両軍が四つに組んだところを、我が軍がわき腹を突けるように、少しばかり迂回しながらだ」
アレク率いるアルタイユ軍一万は、本隊から少し西に逸れて進軍を開始。
混乱の最中の突然の侵攻に、ガドモアの諸侯らは対処できず、為す術もなく逃げ惑うばかりであった。
ごく少数の者が抵抗を試みるも、勢いに勝るゴルド王国軍に圧倒されたちまちの内に撃破されてしまう。
またアルタイユ軍の方も、象を見たことのないガドモアの将兵たちは対処することも出来ず撃破され、やがて象を悪魔とし、象を使うアルタイユ軍を悪魔の使いとして、その姿を見ただけで逃げてしまうようになる。
この突如として開始された神聖ゴルド王国の破竹の進軍に、ガドモア王国は揺れた。
王であるエドマインは未だ半ば昏睡状態であり、王国の運営は王太子と上級貴族たちによって行われていた。
六月の半ば、王太子らは反徒を討つべしと、キール伯爵に二万の兵を与えて神聖ゴルド王国軍を迎え撃った。
決戦場はアレクたちが予想したファルグラス平原。
ガドモア王国軍二万に対し、神聖ゴルド王国軍は三万二千。
これに遊撃としてアルタイユ軍一万が加わる。
勝負は数の差から明白であった。策も無しに正面からぶつかった両軍の左側面から、戦象部隊を先頭にしてアルタイユ軍が突撃して勝負は決まった。
この戦いでガドモア王国軍の主将であるキール伯爵は戦死。
ガドモア王国軍は数千の死者を出す大敗北を喫し、神聖ゴルド王国をさらに勢いづける結果となった。
この敗報を受けたガドモアの王太子と上級貴族たちは、顔を青くして慌てふためく。
勢いを増して進軍するゴルド王国軍を迎え撃つべく、次なる将を派するにも、あまりにも無残な敗戦の姿を見て、誰も手を上げようとはしない。
「ええい、腰抜けどもめが! 誰か、誰か反徒どもを片付ける者はおらぬのか!」
鼻息を荒くして怒り狂う王太子に、近侍の者がそっと耳打ちした。
「おお、おお、そうであった! あの者がよい。あの者が居るではないか! 直ちに使いを出せ! 国家存亡の危急であるゆえ、病であっても出仕せよと厳命せよ!」
他に手も思い浮かばない他の貴族たちは、この人選に挙って同意を示した。
ガドモア建国以来の危機に本人の意思とは無関係に立ち向かうことになった者の名は、エルキュール・ハイファ伯爵。
先の戦いで軍勢を率いた将の中の唯一の生き残りで、これも本人の意思に反して英雄に祭り上げられた男であった。
喘息の発作で病院に掛かったのですが、そこで初めてPCR検査を受けました。
鼻の奥の奥まで綿棒突っ込まれて、涙と咳が止まらなくて苦しかったです。
検査の結果は陰性でした。




