隻眼のジジカ
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更新遅くなり申し訳ありません。
二月になれば少しは時間が取れるようになると思うので、更新頻度を多少上げることが出来ると思います。
アルタイユを発ったアレク率いる一万の軍勢は、途中にある小島の幾つかを経由しながら二週間の時を費やしてカルディナ半島に上陸。
神聖ゴルド王国の南部のスクリムという港でアレクは、王太子グリムの歓迎を受ける。
「お待ちしておりましたぞ。ほぅ、これが噂に聞く象ですか…………なんと、まるで小山のような…………いやはや結構、結構。実に頼もしき姿ですなぁ」
「我が王の命によりご助力致す。まずは手厚い歓迎に感謝を」
アルタイユからの援軍を見てはしゃぐグリムとは対照的に、アレクの心は冷え切っていた。
今回の援軍にはグリムが見たとおり五十頭の戦象が同行している。その他にも騎兵千五百、重装歩兵二千、残りは軽装歩兵という内訳であった。
これが遠征軍ならば攻城兵器の類や、輜重、それらを扱う工夫や人夫が付き従うが、今回は援軍であるためそういったことは全て神聖ゴルド王国が手配することになっている。
「では、まずは王都へ…………我が父もアレク殿の到着を今か今かと待ちわびておりますれば…………」
アレクは、腹心の将であるガンドルとグレイザーの両将に兵を任せ、自身は選び抜かれた猛者である十六勇士と呼ばれる側近たちと共にグレンと共に神聖ゴルド王国の王都、バリルジアへと小舟で向かった。
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想像以上のペースでネヴィルに流れ込む流民たち。
あらかじめ用意していた流民を迎え入れる居留地は、あっという間に溢れ、新たに幾つかの居留地を作ることを余儀なくされたネヴィル王国もまた、混乱の最中にあったと言える。
それでもなお、国としての体裁を崩さずにいれたのは、三兄弟の手腕もさることながら、同盟国ノルトの手厚い支援のお陰であった。
ノルト王国の国王シルヴァルドは、表向きは嫁ぐ妹の持参金としてネヴィル王国に大量の物資を送ったのである。
この時代、嫁ぐ女性側の家が持参金を相手に送るのが慣例であるとはいえ、その額はあまりにも巨額であった。
これはシルヴァルドが妹の婚礼に、つまりはアデルとの繋がりの一層強化を歓迎し、自発的に多くの者がお祝い金を送り、その金も持参金に含まれていためであった。
アデルたち三兄弟はこの金を使って、迎え入れた流民の中から兵を選抜し、三つの兵団に分けた。
一つは正規兵として短期的に猛訓練を施し前線に送り、二つ目は警邏兵として居留地の治安の維持をさせ、三つ目の屯田兵に新たな地の開拓と守備をさせたのであった。
「自分たちで仕掛けて置いて何だが、これはもう一、二年は派手には動けないぞ」
アデルは最前線の司令部シクラム城で、日々減り行く金や資材の量に頭を抱えた。
「今は国境線を維持するだけで精一杯だな。防衛戦は仕方ないが、こちらから仕掛けることは当分の間、出来ないだろう」
同じくシクラム城に詰めるカインもまた、書類仕事に追われる日々を過ごしている。
「すでにS作戦用の資材も、新しい居留地に使ってしまった以上、当面の間はガドモアがどうあろうと静観する他ない」
「ま、向こうもそうそう動けないだろう。小規模ながら反乱も頻発しているようだしな」
体勢を崩しているガドモアを討ちたい気持ちは山々であるが、悲しいかな小国の国力ではまだ打ち倒すことは出来ない。
そんな国境線を堅守し続けることしか出来ないネヴィルに、驚くべき情報が二つ飛び込んだ。
まず一つ目は、かねてよりアデルたちが噂を聞いて自国へと招聘していた傭兵が、途中で拾い集めた二万の群衆と共にネヴィル王国へとやって来たのだ。
その傭兵の名は、ユアム・ジジカ。若いころに戦傷により片目を失っていることから、隻眼のジジカと呼ばれる、名うての傭兵である。
遥か北方の没落貴族で半島へと流れて来たジジカは、この地で傭兵となるとめきめきと頭角を現し、やがては大規模な傭兵団を率いるようになった。
このジジカ率いる傭兵団は規律正しく、略奪などを行わなかったため、民衆は自発的に金や食料を援助したという。
傭兵となってからは、主にガドモア王国の東部戦線で戦っており、ウォーワゴンを用いた独創的な用兵によりイースタル王国の侵攻を防ぐのに一役買っていた。
しかし、東部辺境貴族たちの財政悪化に伴い契約を打ち切られ、途方に暮れているという噂を商人から聞いたアデルは、すぐにジジカを招き入れる手筈を整えた。
アデルが遣わした商人からその話を聞いたジジカは、半信半疑ながらも他に行く当ては無しと、一路ネヴィルを目指し西進。
途中でジジカの噂を聞きつけた流民たちが合流を希望し、ジジカもネヴィルへの手土産代わりにと受け入れた結果、その数はどんどんと膨れ上がり、最終的にはその数は二万に達したのであった。
この二万の群衆をジジカは再編。戦闘に耐えうるものは老若男女問わず兵として用い、得意の用兵で途中のガドモア王国軍を蹴散らし続けた。
そして六月の初頭、ついにジジカはネヴィル王国への入国を果たしたのであった。
アデルはすぐさま馬を飛ばし、ジジカの元へ向かった。
ジジカは、軽装で少数の供しか連れずに出迎えに来たアデルを見て驚き、そしてそれほどまでに自分のことを信用してくれていることに感動を覚えた。
「よく来てくれた! それも途轍もなく困難な道を…………」
アデルは跪くジジカの手を取り立ち上がらせた。
ジジカは恐る恐るの体で立ち上がり、アデルの顔を見る。
長年戦場で数々の人々を見て来たジジカも驚くほど、アデルの顔は貴相であり、また奇相であるとも感じられた。
これほどまでの歓待を受けたからには、契約はまず間違いないだろうと考えていたジジカの耳に、アデルが放った衝撃の言葉が突き刺さる。
「ジジカ、卿を一介の傭兵で終わらせるのは勿体なすぎる。我が臣となれ! そしてこの混迷極まる半島に秩序と安寧を共にもたらすのだ!」
ジジカは半ば反射的に再び膝を折った。
そして深く考えるよりも先に、返事をしていた。
「はっ、不肖の身でありながらも、陛下が必要となされるのであればこのジジカ、絶対の忠誠を誓い、どこまでも御供する所存に御座います」
「そうか! よろしい。では、ジジカ卿。卿は今日からネヴィル王国の子爵である」
いきなり高位を与えられたジジカは、目をぱちくりと瞬きして驚く。
「とはいっても、今は爵位のみ。ガドモアだけでなく我が国も、いや…………この半島自体が揺れているのだ。実質的な知行などは、この混乱が静まってからとなるがよいか?」
ジジカに否は無い。異国の没落貴族の出であるジジカがこの半島で貴族になれる可能性は、元々限りなくゼロに等しい。
下級の準男爵の位でさえ、功績を立てた上で巨額の富を積まないと得られないだろう。
それがいきなり子爵位である。それもまだまだ戦乱は続き、功績を立てる機会に恵まれているとなれば、更なる高みを目指すことも不可能ではない。
「はっ、身に余る光栄に御座います。感謝の言葉も御座いませぬ」
ジジカは静かに頭を垂れた。
国を棄て、故郷を離れて二十五年。ようやくにして巡って来た表舞台。
ジジカの心と体に、闘気が漲っていく。
こうしてアデルは、ベルトランに続いて二人目の用兵巧者であるジジカを配下に加えたのであった。
次回、神聖ゴルド王国の快進撃(仮) をお楽しみに!




