神聖ゴルド王国
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年明けから続く混乱は、瞬く間に半島全土に波及した。
これを凶事と見るか、それとも好機と見るかは人次第。
ガドモア王国南部辺境を治めるトスカラナ辺境侯は、この混乱に乗じてガドモア王国から独立と建国を宣言。
新たに興した国の名は神聖ゴルド王国。
自らを南ゴルド王国の末裔と称し、半島を長きに渡り支配したゴルド王朝の復権を国是としたのであった。
侯爵もとい神聖ゴルド王国の初代国王となったトスカラナ・ザーム・ゴルドは領民の流出を抑えるために、一時的に四六協定と同じ税率にして混乱を早期に収めた。
これが出来たのも、南部辺境領が南に広がる広大な南海に接しており、海を挟んだ隣国アルタイユ王国との密貿易によって、巨利を上げていたからであった。
このアルタイユ王国との密貿易は、ガドモア王国内では半ば公然の秘密となっている。
問題視されないのは、トスカラナ侯を始めとする南部辺境貴族の多額の賄賂攻勢によるものであった。
だが、近年この賄賂の要求額が跳ね上がり続けており、密貿易で得た利益も全て吸い上げられるばかりか、ついには赤字になり始めており、彼らはその要求に耐え兼ねていた。
そんな彼に、ガドモア王国への忠誠心など期待する方がおかしいというものである。
この一世一代の賭けに出た理由の一つにアルタイユ王国との密約がある。
彼は密かに隣国アルタイユから軍事支援の約束を取り付けていたのだ。
「すぐにアルタイユに使いを出せ! 予てよりの約定により援軍を送るよう要請するのだ」
使者を乗せた船はすぐにアルタイユ王国へ向かった。
「父上、何もアルタイユを待たずとも、我らだけでも今すぐにガドモアへ攻め上がりましょうぞ!」
王太子となったザームの息子グリムは、鼻息を荒げるがザームは首を振った。
「なぜです?」
「境を接しているネヴィルに対しての牽制の意味もある。我らが総力を挙げてガドモアに攻め入る間、奴らが蠢動するのを防ぐために、我が国とアルタイユの同盟が強固であることを知らしめねばならぬ」
「奴らは動くでしょうか? 動いたとしても元はたかが辺境の一男爵家、それに比べれば我らは先祖代々この地を治める辺境侯。蓄えた財力も武力も段違いでありましょう」
「そなたの言うことはもっともだが、ネヴィルの武は侮れぬ。我らがガドモアを攻めたてた時、奴らは我らにガドモアの地を奪われてしまうと焦り、急遽ガドモアへと侵攻するやも知れぬ。ガドモアの地を巡ってぶつかった時にも、アルタイユの後ろ盾が効いてくるであろう」
「そのネヴィルにはノルトが付いておりますが…………」
「アルタイユの豊かさと赤貧のノルトを比べられるか。どちらの国が頼りになるかは幼子でもわかるというものよ」
「確かに。しかし、とうとうこの時が来ましたな…………あのようなちっぽけなネヴィルごときに先を越されて、悔しい思いをしておりましたが、ついに我らも…………」
感極まるというふうにグリムは拳を挙げ、震わせた。
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南部辺境最大の港湾都市であり、要塞都市でもあるバリルジア。
このバリルジアが神聖ゴルド王国の王都である。
二月の上旬に、ここを出て南海に繰り出した使者は、下旬にはアルタイユ王国の王都ハープラに着き、国王であるラスル・ハサン・アルタイユと会うことが出来た。
この王都ハープラを三兄弟がもし見たとしたら、それはエジプトではなく中東のような雰囲気を感じたかもしれない。
海から少し離れた場所にある王都ハープラの暑さは、からりとしていて沿岸部よりかはいくらかは過ごしやすく感じられた。
それでも使者は、流れ出る汗を何度も拭い、そのうちにハンカチはぐっしょりと汗で濡れ、使い物にならなくなってしまう。
「遠路はるばる御苦労であった。約定に従い必ずや援軍を送るであろう。だが使者殿、事が成就した暁には北海の支配権は我らのものとなることを忘れるでないぞ」
ラスルの言う北海とは、神聖ゴルド王国の言う南海のことである。
カルディナ半島から見れば南にある海も、アルタイユ王国から見れば北にある。
故にカルディナ半島の諸勢力は南海と言い、アルタイユ側は北海と呼ぶ。
「はっ、そのことは我が国王も重々にご承知でありますゆえ、何卒援軍のほど、よろしくお願い申し上げまする」
短い会見は終わった。
ラスルはうるさい蠅を追い払うかのように、しっ、と手を振った。
跪く使者は額を、大理石の床に擦りつけるように深々と一礼した後、衛兵に連れられて王宮を後にする。
使者が去ったのを見て、玉座の後ろの垂れ幕の裏に身を隠していた王太子ザイードが姿を現す。
「父上、本当に援軍を送るのですか? 彼らが事を成しえると本気でお思いなのですか?」
ザイードの言葉に、ラスルはフッと笑みを浮かべた。
「彼らが勝とうが負けようが、我が国にとってみればどちらでもよいことなのだ。勝てば恩を高く売りつけ北海の支配権を確立させる。負ければそのどさくさに紛れて、北海を支配するだけのことよ」
「左様で御座いますか。どちらに転んでも我が国に利すると…………このザイード感服の至りで御座います。して、誰を派するので?」
「ふん、わかっておろうに貴様という奴は…………アレクを呼ぶがよい」
ラスルは息子のおべんちゃらに付き合わず、命を下した。
程なくして現れた青年を、ラスルとザイードの目は冷たく見下している。
「反乱の鎮圧、御苦労」
酷暑の中で氷水のような冷ややかな声を掛けられた青年は、王の前に跪いたまま面を上げようとしない。
「分をわきまえているようで何より、アレク……面を上げい」
王太子ザイードの温かさの欠片のない言葉を受け、アレクはやっと面を上げ、口を開いた。
「父上も兄上も御壮健であらせられまして、臣としては喜びに打ち震えております」
ふん、とラスルとザイードが同時に鼻を鳴らす。
跪いてる青年アレクは、一応は第二王子となっているが、その出生に秘密がある。
すでに臣下に嫁いでいたアレクの母であるミンディアを見初めたラスルは、強引にミンディアをその臣下から取り上げた。
妻を取り上げられた臣下は、その直後謎の死を遂げる。
だが、すでにその時にはミンディアの腹の中には新たなる命が宿っていた。
それが第二王子アレクである。
故にラスルともその息子であるザイードとも血のつながりは無い。
ラスルは産まれてより今まで、アレクを息子ではなく臣下として扱い、ザイードはあれが弟であるとは虫唾が走ると常々公言している。
「汝に命を下す! 兵一万を率いて神聖ゴルド王国に赴き、神聖ゴルド王国の王ザームを助けよ」
命を下したのは王のラスルではなく、王太子であるザイードであった。
そのザイードの発した神聖ゴルド王国という言葉に、アレクは眉を顰めた。
「神聖ゴルド王国とは? 聞いたことのない国ですが…………」
「北海を越えた先、旧ガドモア王国南部辺境領が、昨日ガドモア王国から独立し神聖ゴルド王国となった。汝は直ちに一万の兵を従えて海を越え、神聖ゴルド王国のガドモア王国攻めを助けよ」
命令は絶対である。
異議を唱えることは許されない。
反乱の鎮圧より戻って来たばかりの身であったが、アレクは命を受けて直ちに渡海の準備に入った。
もう正月休み終わって仕事です。
正直休んだ気にならないです。




