揺らぐ半島
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本年もよろしくお願いします。
ネヴィル王国歴四年の新春は、戦と混乱の内に始まった。
四六協定が結ばれるとアデルは、発足させたばかりの諜報網を駆使してガドモア王国にこの情報を流した。
最初の内はそんな税率の低い国があるわけがないと、ガドモアの民たちも訝しんでいた。
だが、すでにガドモア王国での生活が破綻している者たちが、一縷の望みをたよりに寒風吹きすさぶ中をネヴィル王国に逃げるように駆け込んだところ、アデル王の名の元に手厚く保護されたという話が伝わるや否や、爆発的に移住希望者が国境へと殺到したのだった。
これに対しガドモア王国は、武力を以って民を制しようと試みた。
「が、悪手というものだ」
近いうちに混沌の坩堝と化すであろうガドモア王国を嘲笑うアデル。
「武力によって制しようとすれば反発を招く。これより後はガドモアは民の反乱に頭を悩ませ続けることになるだろう」
このアデルの言葉通り、苛政に苦しんでいた民たちの怒りが爆発。
反旗を翻す者たちは武器を取り、制圧しようとする貴族たちと闘争する。
そして争いから逃れようとする者たちは、一路ネヴィル王国を目指した。
ネヴィル王国は国境を越えて来た流民たちに対して、兵を派遣して護衛の名のもとに一時的な難民キャンプや予め用意しておいた居留区へと誘導。
そこでネヴィル王国に属するのならば戸籍を登録することを義務として課した。
「戸籍に登録無き者たちは国の庇護を受けることは出来ない。無法に振舞う賊徒として、討伐の対象となる!」
四方を兵に囲み、有無を言わさず戸籍を登録させる。
「戸籍無き者は、我が国民に非ず。税の免除も認めない」
アデルは無秩序なる移住を認めなかった。
最初こそ流民たちは、この強行的なやり方に恐れを抱いたが、ガドモア王国からの移民者には二年の税の免除を施すことが伝えられると、彼らは一転して戸籍登録に協力的になった。
冬が去り、春が訪れると移住希望者が爆発的に増え、その対応に国を挙げての対処に追われた。
その間にもガドモア王国では大小の反乱が起き、国境線では民を逃すまいとするガドモア王国軍との大小の戦闘が連日のように繰り返される。
アデルは国境線での戦いに際しては、大将軍であるギルバートに一任し、自身は居留地や新たに開拓された村々を回り、国民となった元流民たちの慰撫に努めた。
そして元流民たちの中から、三つの軍を編成する。
まずは警察とも言うべき護民軍。次に開拓とその地の防衛を担う屯田軍。最後に新たに国軍を再編成し、新生ネヴィル王国軍としたのだった。
ただし、新生したとはいえ碌に訓練もせずに戦場に立たせてもモノの役には立たないため、新たに加わった兵は後方にて猛訓練が施された。
時は乱世。一介の農民であろうと、なんであろうと老若男女問わずこの時代の人たちは身を守るために武器を扱うことを一通り学んではいる。
だがそれはあくまでも身を守るため、言わば個人戦においての戦い方が主であり、本格的な集団戦闘を行うにはやはり訓練が必要である。
三兄弟はこれを見越して、まずはネヴィル王国本国に訓練キャンプを設立し、より短期間で効率の良い訓練方法を模索し、確立させていた。
ネヴィル王国本国は三兄弟にとっては、その地が丸々各種の実験場でもあったのだ。
ネヴィル王国以外の国、エフト王国やノルト王国にも流民たちは殺到した。
各国それぞれその対応に苦慮していたが、やはり予めこの事態を想定し周到な準備をしていたネヴィル王国の対応が頭一つ飛びぬけていることが伝わると、ネヴィル王国に流民たちが殺到する。
「拙いぞアデル。想定よりも移住者の数が多い。今すぐにパンクするほどではないが、このままだと金がな…………」
アデルと同じく、居留地などを巡っているカインが、苦い顔をしながら算盤を弾く。
「…………あれをやるしかないのか…………埋蔵金があるにはあるが…………やるとしてももう少し落ち着いてからだな」
アデルの苦渋の決断。カインもまた、それしかないだろうと頷く。
民が逃げ出し反乱相次ぐガドモア王国。
対して逃げて来た民を受け入れるネヴィル王国。
相変わらず連日国境線で紛争が続いているが、両国は大規模な戦など不可能な事態にまで陥っていた。
そんな中、初夏の頃にノルトから一通の密書が届けられた。
ーーーー
時は少しばかり遡る。
このカルディナ半島では、新年を迎えると人頭税が徴収される。
これは遥か大昔の大国ゴルド王国からの慣わしで、分裂した南ゴルド王国の流れを汲むガドモア王国やイースタル王国、ノルト王国、そしてネヴィル王国もそうであった。
南ゴルド王国が侵攻してくる前に半島あった旧エフト王国は、収穫期にまとめて税を徴収していたが、滅んで子孫たちは混血化が進んだり文化の融合などの結果、今では南ゴルドと同じように新年に人頭税を徴収するようになっている。
つまりカルディナ半島ではどの国でも新年が明けると税が徴収されるのだ。
カルディナ半島北方の雄、ノルト王国では新年を迎え四六協定発足後、初の税の徴収が行われた。
どの領地であっても税が一律となり、以前よりも安くなったことを民たちは喜んだ。
だが、一部の貴族たちは四六協定を守らず、以前通りの税率のまま税を徴収した。
その貴族の領地に住む民たちは、他領と比べて不公平感を感じ、怒りを爆発させた。
結果として、領を去る者が多数現れてしまう。
「一体何をやっているのか!」
リルストレイム城内の自室にて、その報告を受けたシルヴァルドは激怒した。
「四六協定は三王合意の下で結ばれたのだぞ! それを守らぬとは、余の顔に泥を塗るがごとき行為である!」
シルヴァルドは王権を軽んじられたこともそうだが、面子を完全に潰されたことに腹を立てていた。
しかもその協定を破ったのが、身内である王族のスヴェルケルとその取り巻きたち。
つまりシルヴァルドは、二重の意味で面子を汚されたのであった。
「民が領地から逃げ出した? 当たり前だ! 何たる近視眼! 目先の小利しか見えぬ愚か者どもめが!」
これには側近中の側近である宰相ブラムもあきれ果てた。
ブラムはこれまでシルヴァルドの計画に積極的に関わろうとはしていなかった。
シルヴァルドの計画、つまりこの国を妹婿であるアデルに譲ること。
これはブラムにとって心情的には、南ゴルド王国系というその根こそ同じではあるが、異国人を王位に就けさせるのにはあくまでも反対ではあったのだ。
しかしこの一件で彼の考えは一変した。王家の血筋とはいえ、スヴェルケルを玉座に据えてしまえば、このノルト王国自体が滅びかねないと。
シルヴァルドのみならず、為政者やその協力者であるブラムにとって、ノルト王国は自身が作り上げて来た作品であり、また我が子でもあった。
このまま彼の愚か者を推戴して、国を亡ぼす原因とすれば後世でブラムの名声は地に墜ちるであろう。
それよりかは…………。
ブラムはあきれ果てながら、深いため息をついた。
「して、如何なされますか? 協定破りとはいえ特に罰則は決めておりませぬゆえ…………ご身内でも御座いますゆえ…………」
「今すぐにでも打ち殺してやりたいが、そうもいかぬ…………取り過ぎた税を民へ返し、協定を破った家々は謹慎処分とする。このあたりが妥当か?」
苦々しいシルヴァルドの顔を見ながら、ブラムは頷く。
「しかし思っていた以上に、ネヴィルは苦労している様子。果たして姫様のご婚儀までには落ち着きましょうか?」
「わからぬ。何せ、規模が規模だ。今まで余は英邁であるだの何だのと、周囲の者たちにおだてられてきたが、違う。本当の智者とは誰か? それはアデル……いや、あの三人である。敵国の国民を、丸ごと掻っ攫う。こんな戦の仕方は、古今東西どこを見回してもありはしない。この一手で強国であったガドモアは崩れるだろう。崩れずとも、相当の深手を負うのは間違いない」
シルヴァルドはそう言いながら、微かに震えていた。
その震えは恐れからか、それとも歓喜によるものか。
おそらくは後者であろうとブラムは見ている。
「まったく恐るべき策で御座いますな。我が国に流れて来た者たちは計画通り、ジストラ丘陵地域を開拓ということで…………」
うむ、とシルヴァルドは頷く。
「四六協定に違反した者たちを調べろ。そしてその者たちの名をアデルに伝えるのだ」
「はっ、御意に」
シルヴァルドは将来アデルの障害となる者の名を密かに伝えることにしたのであった。
今年はコロナが収束傾向になったためか、色々とみんなはっちゃけたのかはわかりませんが、年末の仕事量がかつてないほどの量で、昨日まで仕事漬け。
しかも休みは三日までという、もうね…………




