歓迎会
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大変遅くなり、申し訳ございません。
ベルトランを麾下に加えたアデルは、彼の率いる傭兵団の小隊長たちを騎士に叙任した。
騎士位を与えられた荒くれ者たちが狂喜したのは言うまでもない。
また、傭兵たちに対しても兵として雇用した。
ほぼ全員が、不安定な傭兵暮らしよりも安定した収入を得られる常備兵としての道を選んだ。
新たに騎士に叙任した者たちと兵士たちは、後方の訓練キャンプにてネヴィル流の訓練を行うためにベルトランと別れた。
十二月下旬、そういった雑事が一段落すると、アデルとカインは前線司令部でもあるシクラム城にて、大将軍ギルバートを筆頭にベルトランと手の空いている将たち、クレイヴとロルトを呼び寄せて先日の戦いの検討を行った。
ギルバートを始め、ネヴィルの将たちにベルトランを新参者と侮る気配は微塵もない。
何せアデル自らが赴いてまで陣営に加えた人物である。
ネヴィル王国ではアデルは神と等しく崇拝されつつある今、そのアデルが敬意を払う者を軽々しく扱う者は皆無である。
ただ、クレイヴとロルトの二人は自分たちを打ち負かした敵将として、些かのわだかまりがあるのは致し方のないことであっただろう。
「寒中御苦労である。もう皆も存じているだろうが、我が陣営にベルトラン・ゲルグラン子爵が新たに加わった。彼は戦略、戦術共に抜群の才を持つ勇将である。そのベルトランとウチのクレイヴとロルトの間で起きた戦いについて、この場にいる者たちで検討を行い、次なる戦に活かす知識を得るのが目的である。各々の忌憚ない意見を期待している」
このアデルの言葉で検討会は始まった。
長大なテーブルの上には地図と駒、そして各将たちの前にはワインが注がれた杯が配られた。
シクラム城内の食堂を改装して設けられた会議室内の暖炉には火がくべられているが、それでも冷え込みが厳しい。
ワインはその寒さを散らすために用意されたものであったが、誰一人としてそれに口を付けるものはなく、全員の目は地図の上に注がれていた。
当事者であったクレイヴとロルトがまず、戦況の推移を説明した後、敵側の視点としてベルトランが説明した。
「すると卿は、味方を囮にしたというのか?」
ロルトが若干の怒気を含みながら、ベルトランに聞く。
それに対しベルトランは、ロルトの目を見つつ頷いた。
「貴公らの前に展開していた一千の兵は正規兵。某はただの傭兵であったため、彼らに対する指揮権を持っておらなんだ。たとえ指揮権を持っていたとしても、徴用兵ゆえ士気は低く、装備も悪い彼らではまともな戦は出来なかっただろう。逆に貴公らは連戦連勝で士気も高く、精鋭であった。まともに正面からぶつかれば一撃で粉砕されるのは目に見えていた故にな…………傭兵なりに状況を最大限に利用させてもらったまでである」
「確かに卿の言う通り我々には驕りがあった。念には念を入れてきちんとした偵察をするべきであるのに、士気の高さと勢いで押し切り通そうとしたのは誤りであった」
今度はクレイヴが無念そうに呟く。
その呟き対してベルトランもまた悔しさを隠さず言葉を発した。
「某は罠にかかった貴公らを全滅させるつもりであったが、ネヴィルの兵の強さ、そして貴公らの見事なる繰引きによって大した損害を与えられず仕舞いであった。貴公らに問うが、反撃の機会を窺っておったのだろう?」
「卿の読み通り、我らは何としても瓦解を食い止め、追撃してくるであろう卿に一撃を加える腹積もりであったが…………卿は早々に追撃を止めた」
「我々の完敗だ」
そう言ってクレイヴとロルトはうなだれる。
「小戦と行っても侮れん。学ぶべき点は実に多い。これまでの活躍ぶりから見ても、クレイヴとロルトの実力は確かなものだ。今回の戦いにおいても、奇襲を受けながらも全軍の瓦解を防ぎつつ反撃の機会を狙ったその闘志は皆も見習うべきであろう。しかしながら、この二人を手玉に取ったベルトランの用兵は誠に見事というしかない」
そうアデルが締めくくる。このアデルの言葉により、ベルトランはもとより、敗将であるクレイヴとロルトも面目を施すことが出来た。
その後はベルトランがもたらした国境付近のガドモア王国の貴族や、彼らが有する兵力などの情報を共有し、防衛戦略を練った。
「今も続々と国境を越えて我が国に移住を希望する者たちが訪れている。春になればその数は一気に増すだろう。それと同時に、ガドモア側も民を連れ戻そうと必死になるのは目に見えている。そうなると今回のような小戦が頻発するのは必至である。そこで、地理に明るいベルトランを中心としていこうと思う。全体の指揮はこれまで通り叔父上にお願いする。ベルトランは叔父上のもとで、前線にて指揮を頼む。余を含むその他の者は、それらの補助に回るものとする」
「はっ、承知いたしました」
ギルバートが立ち上がると、諸将もそれに倣って一斉に立ち上がる。
そしてアデルに深々と一礼。アデルは彼らを見て満足げに頷くと、手に杯を持った。
「少し早いが、新年の前祝だ。来年の国家安寧を願って!」
アデルが杯を掲げると、諸将も杯を掲げた。
「ネヴィルに勝利と栄光を!」
「国王陛下万歳!」
アデルが杯を飲み干すと、諸将もそれに続いて杯を空ける。
そこからはいつも通りの無礼講である。
アデル自ら悪童のように口汚い言葉を使い、諸将もそれに遠慮せず応じる。
次々と運ばれてくる料理と酒を飲み、喰らう姿は、辺境に居た頃となんら変わりが無い。
あっけに取られるベルトランの空になった杯に酒を注いだのは、彼に敗れたロルトであった。
無言で杯を空けるように促すロルト。ベルトランが意をくみ取り杯を空けると、次いでクレイヴが空いた杯に並々と酒を注ぐ。
注がれた酒を飲み干しながら、ベルトランは喜びに打ち震えていた。
ベルトランがお返しに二人に酒を注ぐと、二人もまたすぐに杯を傾け飲み干した。
三人は互いの顔を見て笑いあう。そこに勝敗による怨恨の影は微塵も見受けられない。
そこからはベルトランの歓迎会ともいうべき様相となり、酒を酌み交わしながらベルトランは諸将と親交を結んだ。
散々飲み食いをした後お開きとなり、与えられた自室に戻ったベルトランの顔には涙があった。
それは、自分のいるべき場所を見つけた歓喜の涙であった。
ーーー
同じ時期のガドモア王国では、エルキュール・ハイファ伯爵に先の戦の敗戦の責を取らすかどうかの議論に明け暮れていた。
唯一無事に戻って来た指揮官はエルキュールのみ。
その彼にも責任を取らせようとする声もあったが、擁護する声も多い。
何せ彼自身は一度も敵と交戦していないのである。交戦する前に総指揮官が討たれ、作戦そのものが崩壊。そのため、彼は無駄を避けて敵と一度も刃を交えずに兵を退いたのである。
「確かに、あのままエルキュール伯が敵と戦ったとしても、勝ち目はありませんな」
「一時的な勝利を得たとしても、南北より挟撃されるは必定ですからな」
「彼の縁者や指揮下の将たちからの嘆願ばかりでなく、多くの者たちからも彼に敗戦の責は無いとの声が上がっております」
「ボゾ男爵の件は男爵が功を焦って先走った、自業自得な面もありますからな」
「では、お咎めはなしということで…………」
上級貴族たちの会合の結果、エルキュールの罪は問わないことが決定した。
戦況を正確に判断できる指揮官として、エルキュールは主に下級の貴族や将兵らの人気が一気に高まる。
そんなエルキュールの人気を政治的に利用しようとする動きが、ガドモアの王宮内にちらほらと見え始めると、エルキュールは権力争いの駒になるのは御免であるとばかりに、病気と称して自領に引きこもってしまう。
この行動が権力欲を持たない真の武人であると評判になり、やがてはガドモア王国きっての名将であると人々の噂になった。
「これは危険な兆候だな。今まで以上に自重せねばなるまい」
エルキュールは高まる自身の人気に危惧を抱き、以降狩りも控えるようになった。
いつの時代でも出る杭は打たれる。エルキュールはガドモア王国内で今以上の権力を欲してはいなかった。
「腐りきった今の我が国で、権力闘争に明け暮れて何になるのか? 今は内よりも外に目を向けねばならぬ時であるにも関わらず、彼らの目は一様に内に向き続けている。これを亡国の兆しと言わず何というのか…………」
エルキュールは次の時代の訪れを予感していた。
そしてその旗手が自分ではないことも承知していた。
では誰が次の時代の旗手となるのか?
エルキュールは黙って窓越しに西の空を見つめるのであった。
いやー師走ですよ師走。それに加えてコロナも収束傾向となればもうね…………
忙しすぎですよ本当に。
で、今回は飲み会ってことで、時期的にも何となく合ってる感じで。
次は季節飛んで春、大混乱のカルディナ半島にご期待下さい。




