二つの祝賀会 其の二
感想、評価ブックマークありがとうございます!
誤字脱字指摘も感謝です!
更新遅くなり申し訳ありませんでした。
ちょっとばかし肺炎、変な言い方ですがコロナではない普通の肺炎で入院しておりました。
まだ少し呼吸が苦しいですが、日常生活に支障なしというところまで回復しました。
回復したらやることは一つ。そう更新です!
頑張っていきますよー!
アデルたちが王都リルストレイムへと向かっている頃、その城中では王妹ヒルデガルドが戦勝祝賀会に着ていくドレス選びに頭を悩ませていた。
すでに兄王であるシルヴァルドからアデルとの婚約の話はされており、ヒルデガルドは婚約の話には快諾していた。
どこの国の王族も恋愛結婚など到底不可能な時代、恋愛というには少しばかり足りない点があるが、それでも好意を持った相手と結婚できるヒルデガルドは幸せであったといえる。
ヒルデガルドから見たアデルというのは、突如光のように現れた現代の英雄児、その実績はおとぎ話や古の英雄たちに決して引けを取るものではなく、まさに生ける伝説そのもの。
これはヒルデガルドのみならず、三国の大多数の者たちが抱く共通の思いであった。
その英雄に嫁げるのだから、文句の一つもありはしない。
ただ唯一残念なことがあるとすれば、そういったおとぎ話や伝承にあるような壮大なラブロマンスが、アデルとの間に無かったということのみである。
「祝賀会にはどのドレスを着て行こうかしら?」
侍女たちが持つ色とりどりのドレスを見て、ヒルデガルドは頭を悩ませる。
本来ならばそれは心弾む瞬間の一つなのだが、ヒルデガルドはアデルの性格を多少なりとも知っている。
黒狼王は華美を好まない。
それが、三国の誰もが知るアデルの美点である。
だが、こういった場合にはそれは足枷ともなりえる。
ヒルデガルドとしては、派手過ぎればアデルの不興を買うし、かといって地味すぎても一国の姫としての面子が立たない。
「白はダメね。白は式の時までおあずけ…………そうなると…………」
手にしたのは萌葱色のドレス。
だがそれはすぐに手放した。
「この色は季節に合わないわ…………」
今の季節は秋。萌葱色などの緑は、春のイメージが強い。
「ではこちらなど如何でしょう?」
そう言って侍女が薦めてきたのは黄色、それも少しくすみのある金枝雀色のドレスであった。
「季節的には良いけど、明るすぎないかしら?」
と、ヒルデガルドは侍女に聞くと侍女は、こう答えた。
「とんでもございません、姫様! これでも控えめ過ぎるくらいですとも! いくら黒狼王陛下が華美を好まれぬとはいえ、それはそれ。それにこう言っては何ですが、黒狼王陛下は…………華美を好まぬとは言っても、何かと派手で御座いますから…………」
それを聞いたヒルデガルドは、ぷっ、と吹き出してしまう。
侍女がいう派手というのは、容姿のことではなくアデル自身が打ち立てた武功の件も多分に含まれている。
今回も巧みな戦略と戦術で、敵国ガドモア王国相手に大勝したことを、知らない者はいない。
「ではこれにしようかしら? 髪型はこう、大きく上げて…………」
そう言って、長い髪をたくし上げるヒルデガルド。
そこにドレスを薦めた侍女とは別の者が、すかさずアドバイスを送る。
「それがよろしいかと存じ上げます。一つ付け加えますのならば、髪を止めるのにあの美しい簪を用いるのは如何で御座いましょう?」
「ああ、それがよろしゅう御座います。殿方というのは誰も彼も、自身が贈った物を身に着けて貰えるを楽しみにしているものであります」
ヒルデガルドとしても、もとよりそのつもりであったのだが、彼女はさすがはシルヴァルドの妹というべきか、人の扱いが上手かった。
助言した侍女たちを褒めて、さらに自由に発言できる場の空気を作り上げたのだ。
これによって侍女たちから数々のアドバイスを引き出したヒルデガルドは、自分ひとりの悩みではなく彼女らと一緒の悩みへと変えてしまったのであった。
結局は幾つかの候補を選んで置き、アデルが到着したら祝勝会にどのような衣装を着るのか探りを入れて、それに合わせるということで落ち着いたのであった。
ーーー
王都リルストレイムには、ノルト国内ほぼ全ての貴族が集まっていた。
やむを得ない事情によって当主が来れない貴族は、息子や代理人を行かせている。
すでに国王より、公の秘密として手紙でこの戦勝祝賀会で、ネヴィル王国との間に通婚によって更なる結束を高めることが伝えられていたのだ。
このような時にその場に居なければ、王の不興を買うだけでなく、貴族としての面子にもかかわってくる。
なのでどんな遠方の貴族であろうと、大貴族も小貴族も区別なく祝勝会に必ず出席しなければならない。
そんな中で、アデル王とスイル王の二人の饗応役として抜擢されたのは、ユプト子爵であった。
彼はネヴィルとエフトから延びる山陽道のノルトの玄関口を領地に持ち、ネヴィル、エフト両国とも交流が深く、まさに適任である。
そのユプトはというと、ノルト国内に到着したアデルとスイルを出迎えて、以降の道中の護衛役も兼ねていた。
「久しいなユプト卿、此度は御苦労である」
「ユプト卿、壮健で何より。世話を掛ける」
いつもと変わらぬ腰の低い二人の若き王に、ユプトは安心感を覚えずにはいられない。
「両陛下におかれましても益々の御躍進、誠に喜ばしく…………」
「卿と余たちの間で堅苦しい挨拶は抜きだ。それよりもどうだ? 儲かっているか?」
「ははっ、身に余るお言葉を賜り、恐悦至極に存じます。両陛下の御威光をもちまして、我が領も交易が盛んになっておりまする」
そうか、と二人は笑顔を浮かべた。
「山脈を囲んだ環状路のおかげで、以前よりも人も物も金も流れが良くなるはずだ。そうなれば、卿は益々ノルトにとっても我らにとっても重きをなすこととなる。これまでも、そしてこれからも共に栄えんことを祈ろうではないか」
「ははっ、まったくをもちましてありがたきお言葉。この場でそのようなお言葉を賜りしは、末代までの名誉となりましょう」
それを聞いて二人は大袈裟な、と笑った。
以降、二人はユプトから多大な饗応を受けながら、リルストレイムへと北上した。
途中のアデルたちの様子は、ユプトによって逐一シルヴァルドの耳へと届けられた。
「ユプト卿は上手くやっているようだ。皆は集まったか?」
リルストレイム城内で、ユプトの報告を受けたシルヴァルドが、傍らに控える宰相ブラムへと問う。
「はっ、すでに皆、城下にて控えておりまする。しかし、ブレナン伯まで呼び寄せてよろしかったのですか?」
「国境ががら空きになるのが心配か? 今は問題無かろう。ガドモアの再度の侵攻は今年中にはありえぬだろう。それだけの損害を、あの二人が与えたのだからな」
「報告によればアデル王のみならず、スイル王もなかなかの武略の持ち主かと思われます」
「頼もしいことではないか。有能な味方は多いに越したことはない。何度か会っているが、良くも悪くも裏表のない人物だ。彼はネヴィルに強く義理を感じている。ということは、アデル王を抑えて置けばよい。それも今回妹を嫁がせる理由の一つではある」
「姫様のことに関しては、フランジェとベルクトは如何致しますか? アデル王に嫁がせるとなると、必ずや両国とも横槍を入れてくるでしょう」
ブラムの言葉に、シルヴァルドは僅かに眉をひそめた。
その眉の形から、ブラムはシルヴァルドが微かに不快感を抱いているのを察した。
「知ったことか。あの二国にヒルダを嫁がせても、何一つ得するところはない。それどころか、婿として王族を送り込んできて影響力を高め、次第には乗っ取りを図ってくることだろうよ」
「確かに。ですが、上手く躱しませんと二国の恨みを買うことになりましょう」
「今はいくらでも恨むがいいさ。どうせ、お互いに動けはしまい。寸土を巡り始まった二国間の長きに渡る戦、今や互いに恨み骨髄まで…………我が国に兵を出して隙を見せることなど出来はしないのだからな。あれこれと適当にあしらうことにする」
「今まで通り、ということですな」
そうだな、とシルヴァルドが呟く。
シルヴァルドは考える。アデルにもしこの国を譲ったのならば、どうするだろうか?
あの二国と和を結ぶだろうか? いや、とシルヴァルドは頭を振った。
「あいつは全てを喰らい飲み込む狼だ。本人は自覚していないだろうが…………」
「はっ?」
「いや、何でもない。ただの独り言だ、気にするな」
そう言うとシルヴァルドは何がツボに嵌ったのか、珍しいくらい大きな声を立てて笑った。
ブラムはそんなシルヴァルドを驚きの目で見つめていた。
身体弱くて本当に申し訳ない。
コロナじゃなかったのがせめてもの救いなのかなぁ…………




