白狼麺
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連合の大勝利で戦いは終わった。
この戦いにより大打撃を受けたガドモア王国が、如何に大国といえど戦力の立て直しに時間が必要は明白であった。
この時間を目いっぱい使って、連合は国力の増強に励まねばならない。
そのためにも三ヵ国の緊密な関係というのが必要不可欠である。
アデルとスイルは共にシルヴァルドの待つ、ノルトの王都リルストレイムへ向かっている。
ここで此度の戦いの戦勝祝賀会と、今後の方針を定める会議が行われる予定である。
アデルは、ネヴィル東部の軍事を大将軍ギルバートに、政治をカインに任せた。
トーヤはというと、ネヴィル王都トキオに戻ってジョアンに任せっきりでおそらくは処理し切れずに溜まっている政務をこなす手筈となっていた。
トーヤは、トキオに帰る際にネヴィル東部で、個人的に小麦と牛を大量に買い込んでいた。
そしてその小麦と牛と共にホクホク顔で帰っていった。
「やっと小麦を手に入れたぞ。いやまぁウチで作ってる大麦粉でもいいんだけども、やっぱアレの再現には小麦を使いたかったんだよなぁ。でもまずは、母上とサリーにホットケーキを作ってやらねば」
ホットケーキに必要な卵、牛乳、小麦粉は自国で賄えるが、砂糖はノルトから輸入する必要がある。
そのため、何でもないホットケーキさえもネヴィルでは高級菓子の類となってしまうだろう。
「ま、ウチも塩で儲けてるからな。ノルトにも砂糖で儲けてもらって経済を回さないと。にしてもノルトにおける砂糖の生産力の面から見ても、やっぱり高級菓子となってしまうか。しかし、ベーキングパウダーが無い以上、代用品としてパン酵母かメレンゲを使うしかないな」
パン酵母を使った場合にはパンに近づきすぎてしまい、メレンゲを使用した場合にはふっくら感が出ないとトーヤは予想していた。
「無いものはしょうがないさ。ま、バターと蜂蜜もあるしホットケーキ風のパンって感じで誤魔化すかな。それよりもだ…………ついに、ついにアレが作れるんだな…………長かった…………記憶の中にあるあの料理を思い出して何度生唾を飲み込んだことか」
トーヤが言う記憶の中のアレとは、ずばりラーメンである。
ラーメンの麺の原料は小麦粉、卵、塩、水、重曹である。
肝心の重曹が無いのだが、まぁ何とかなるだろうとトーヤは楽観視していた。
だが、それが誤りであったと知るのにそう時間は掛からなかった。
トーヤはトキオに着くなり、その足で木工職人と鍛冶師のところに顔を出し、大きなまな板と麺棒、包丁を受け取った。
無事の帰還を喜ぶ家族に、帰るなりホットケーキを振舞う。
膨らましに捨てるのが勿体無いからとメレンゲを使ったが、思っていたよりは膨らんだので、これをトーヤ・ネヴィルのホットケーキとすることにした。
母クラリッサ、妹サリエッタの二人は、バターと蜂蜜をたっぷり掛かったホットケーキに舌鼓を打ち、喜んだ。
特にサリエッタことサリーはしばらくの間、トーヤの顔を見るたびにホットケーキをせがむ始末。
今のネヴィル家ならば、毎日ホットケーキを食べることなど造作もないことだが、贅沢というのは大体が際限がないものである。
トーヤは贅沢に慣れるを良しとせずに、ホットケーキを焼くのは特別な日のみと定めた。
「さて、取り掛かるとするか…………」
トーヤは手慣れたとは言い難いぎこちない手つきで、小麦粉を捏ね、麺を打った。
これがなかなかどうして難しい。
思った通りに出来ずに何度も失敗し、失敗するたびに家族や周囲の者たちはパンとも何とも言えない小麦粉を焼いた物を食すはめとなった。
「こんなはずでは…………」
だが、その程度のことで諦めるトーヤではない。
政務の傍ら、時間の許す限りただひたすらに麺を打った。
しかしどうやっても肝心の麺が、再現出来ない。
「くそっ、何でこうまでも上手く行かないのか…………」
さらに月日を重ねて麺を打つ。
来る日も来る日も試行錯誤を重ねた結果、出来上がったのは…………うどんであった。
「ラーメンを作るつもりが、いつの間にかうどんになってしまった…………どうしてこうなった…………」
卵を使わない分、ラーメンよりもうどんの方がコストパフォーマンス的には良い。
とりあえず一歩進んだこととしたトーヤは、今度はスープ作りに取り掛かる。
今考えられるのは、鶏がらスープと味噌の二つ。
大きな寸胴鍋で、鶏がらをぐつぐつと時間をかけて煮たスープに隠し味としてマッシュルームも出汁として加える。
スープ作りは比較的順調だった。
「よし、鶏がらスープと鶏がら味噌スープ共にいい味になったぞ」
こうしてトーヤ特製、鶏がらかけうどんと、鶏がら味噌かけうどんの二種類が完成。
本人は多少不本意であり、うどんという物がこの世界で万人受けするのか疑問であったが、これがまた大ヒットした。
試しにトキオで屋台を出してみたところ、連日長蛇の列を成し、うどんを食べられなかった者たちが暴動寸前になったのを見たトーヤは、
「うどん、恐るべし…………」
と、慌ててうどんのレシピを一般公開したのであった。
うどんがネヴィルの郷土料理の一つとして定着するのに時間は掛からなかった。
今やトキオの街には、いくつものうどん屋が立ち並び、山陽道、山陰道を通る者たちが、
「トキオに寄ったらまずうどん。あれを食わずして、旅は出来ぬ」
とまでに言うほどに、うどんは皆に愛されたのであった。
このうどんという新たな料理は白狼公が作り出したのと、麺の色が白いことからいつしか白狼麺と呼ばれるようになった。
「ま、ラーメンはまた今度で。とりあえずはこのうどんが成功したから良しとするか」
さて、次は何に挑戦しようかなと、白狼公トーヤの食への探求の旅はまだまだ続くのであった。
今回は短め。
知識があっても物が無くて完全再現出来ないものもあるよーってお話。
次回は少し時間が巻き戻って、「二つの祝賀会」をお送りいたします。
お楽しみに!




