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コルタナ街道の戦い

感想、評価、ブックマークありがとうございます!

誤字脱字指摘も感謝です!


名前からのリンク出来るように修正いたしました。

数々のアドバイス、ありがとうございます!


 

 ボゾ男爵は油断していた。そしてガドモア王国中央貴族にありがちな驕りがあった。

 九月九日の朝、目の前に現れたエフト王国軍を見てボゾは、鼻で笑った。


「大人しく城に籠っておればよいものを。だが、武勲をたてるよい機会である」


 コルタナ城に至る街道に展開するエフト王国軍は、ガドモア王国軍を見て慌て、怯えているように見えた。

 その証拠に、陣形は横陣から円陣へと変わっていく。

 さらには大将旗が、風もないにもかかわらず絶えず揺れていた。

 この時、ガドモア王国軍の前に現れたエフト王国軍の数は僅か五百。

 二千対五百では、勝負にならない。

 ボゾが攻撃陣形を取る前に、エフト王国軍は尻尾を巻いて逃げ出した。


「逃がすな! 追え!」


 ボゾは陣形が揃うのを待たずに、全軍に追撃を命じた。

 両軍とも歩兵中心。わずかながらの騎兵がエフト王国軍に追いすがるも、これは数が少なすぎたのか反撃にあい追い散らされてしまった。

 が、その間にも両軍の距離は詰まる。円陣を組みながら後退するエフト王国軍に、ボゾは果敢に仕掛けるが功にはやるあまり陣形も揃えもしない攻撃は効果がなく、いたずらに死傷者を増やすばかりであった。

 次第にボゾに焦りが募る。

 しかしこの焦りは、無駄な死傷者を出したことにではなく、このまま敵に逃げられてしまうのではないかという焦りであった。

 こうしている間にもエフト王国軍は戦いつつ退いていく。

 やがて街道の左右に木々が鬱蒼と生い茂り始めた。が、ボゾの注意は叩きつつ後退し続ける目の前のエフト王国軍にのみ注がれている。

 やがて円陣を組み、戦いつつ退くエフト王国軍にも疲れが見え始めた。


「あと一息だ! このまま揉み潰してしまえ!」


 ボゾの命令で、ガドモア王国軍の攻撃が強まる。

 これまで耐えてきたエフト王国軍ももはやこれまで、という時に左右の森から伏兵がガドモア王国軍に襲い掛かった。


「伏兵だと? いかん、退けっ、退けーっ!」


 慌てたボゾの命令が全軍に届く前に、森の中を進んだエフト王国軍がガドモア王国軍の後背を突いた。

 前後左右からの攻撃に、ガドモア王国軍は総崩れとなる。

 もはや組織的な行動は取れず、皆思い思いに逃げまどい、脱出路を探す。

 指揮官のボゾは大声を張り上げ、懸命に統制を保とうと指揮し続けるが、最早その声に耳を傾ける者はいない。


「前だ! 前が一番手薄である。前面の敵を打ち破って、この危地を脱するのだ!」


 包囲網の内、最初から戦い続けていた前方の部隊は、疲弊していた。

 そのため、包囲を保つことが出来ずにガドモア王国軍の突破を許してしまう。

 が、これすらも罠であった。

 危地を脱したかに見えたガドモア王国軍の前に、スイル率いるエフト王国軍の本隊が表れたのだ。

 包囲網を抜けて一度安堵したガドモア王国軍に、これに抗すべき力は残されていなかった。

 一方的な殺戮。指揮官のボゾ男爵が討ち取られると、生き残っていたガドモア兵たちは武器を放り棄てて、うずくまり降伏の意思を示した。


「お見事で御座います!」


 エギンの称賛にスイルは白い歯を見せて笑った。


「いや、此度の勝利は将軍の指揮の賜物である」


 手放しで褒められたエギンは、謙遜しつつ内心でスイルの智謀に舌を巻いた。

 我が君の智は隣国の英雄王、黒狼王にも決して引けは取らぬ。

 この鮮やかな勝利にエギンのみならず、この場に居る全将兵がそう思っていた。


「よし、ではこれよりマガズオイ山へと向かう!」


「はっ!」


 スイルは素早く軍を纏めると、当初の予定通りマガズオイ山へと向かった。

 後にコルタナ街道の戦いと呼ばれる戦いによって、ボゾ男爵率いるガドモア王国軍の前衛部隊は壊滅。

 包囲網を突破し、逃げ帰れたのは二千の内、四分の一に満たなかったという。

 逃げ帰って来た敗残兵の報告を受けたエルキュール伯爵は、形の上ではボゾの死を悲しんで見せたが、内心ではそれ見たことかと、呆れかえっていた。

 数日を掛けて敗残兵を収容したエルキュールは、偵察に出した者たちから驚きの報告を受けた。


「何? 城は、コルタナ城に敵の姿が無いだと?」


「はっ、城はもぬけの殻で御座います」


「ご報告申し上げます! 敵は城の北にある山に布陣している模様に御座います」


「山にだと? どういうことか?」


 エルキュールは、困惑した。

 何故に敵は城に籠らず、山に籠ったのか?

 何故に敵は城に兵を置かず、もぬけの殻にしたのか?


「閣下、これは好機ですぞ! 急ぎ兵を進め、コルタナ城を奪いましょうぞ!」


 部下の進言にエルキュールは、首を縦に振らなかった。

 エフト王国軍の動きが、どうにも腑に落ちないのである。


「…………罠かな?」


 好餌を以って釣る。現にボゾがこのやり方で敗北している。


「空の城は撒き餌とみた。全軍に命令する。この場を動くべからず」


 エルキュールは、決断した。


「閣下!」


 部下の進言をエルキュールは、手で制す。


「聞け。敵は多少の知恵が回る。ボゾめは、囮…………つまり餌に釣られて敗れた」


「では、コルタナ城は囮であると?」


「うむ。我らが喜び勇んで城に入った途端に伏兵に攻撃されるか、あるいはその前に、無傷で城を手に入れられると油断した我らに奇襲を仕掛けてくるか…………しかし、これは浅はかだったな。ボゾならばいざ知らず、私は引っかからない」


 兎に角、今は動かない。いや、動けないとエルキュールは思った。

 彼は、偵騎がもたらした僅かな情報のみを頼りに、思案に思案を重ねる。

 もし仮に、何の抵抗もなく城を奪取することが出来たとしても、その後の展開次第では全滅もありうるのだ。

 例えば、北に分かれて進んだ重装騎兵を軸とした本隊が敗北した場合には、どのみち城を放棄しなければならないだろう。

 まごまごしていれば、たちまちの内に南下してくる敵軍と、この地に展開する敵軍に取り囲まれてしまい退くことが困難となる。

 逆に味方が勝利すれば、計画通り南下してくる味方と共にコルタナ城を攻めとることも容易なのだ。

 ならばあえてここで無理をする必要はないと、エルキュールは思ったのだ。

 こうしてエルキュール率いるガドモア王国軍八千は、コルタナ城まで半日あまりのところで布陣。

 盛んに偵騎を飛ばして索敵し、敵の動向と奇襲を警戒した。


 コルタナ街道の戦いより二日が経った。

 エフト王国への援軍三千を率いる、カルファ・アンデュー伯爵がコルタナ地方に足を踏み入れると、果たしてアデルの言った通りの展開となっていた。


「恐るべきかな我が君の智。この智を前にしては侯爵閣下が降るのも無理なき事よ」


 と、カルファは身震いした。

 カルファはまずエフト王国軍が籠るマガズオイ山へと向かいスイル王に会った。


「まずは何におきましても、お見事なるご勝利をお祝い申し上げます」


「アデル殿には何と礼を申せばよいのか…………ご助力、忝い」


 跪くカルファの手を、スイルは自ら取って起こす。

 カルファはアデルの命令通り、スイルにこのままコルタナ城に入場して防衛にあたる旨を伝えた。


「ああ、やはりあいつには敵わんなぁ…………余の動きは全てお見通しというわけか。今回ばかりは、余も知恵を絞ったつもりであったのだがなぁ…………」


 と、嘆きつつスイルは笑った。

 そこへカルファはすかさずフォローを入れる。


「ですが、我が君も我らが到着する前に、エフト王国単独でガドモア王国軍に対し、こうまで見事なる完勝をおさめているとは思ってはおりませなんだ」


「嬉しいことを言ってくれる。先の電撃戦といい、此度の防衛戦といい、全体の絵図を描いたのはアデルだ。いや、あの三人だな…………ならば、その指揮に従うが筋というもの。カルファ殿、良きように計らってくれ」


「はっ、ではすぐにも我が軍はコルタナ城に向かい、城の防衛に努めます!」


 カルファは三千の兵を率いてマガズオイ山を発ち、同日の夕方にはコルタナ城に入った。

 この様子を見たガドモア王国軍の偵騎から報告を受けたエルキュールは、


「我が軍が餌に食いつかないため諦めたか。しかし、想定よりも敵の数が多いではないか。これは他も負けるとは言わぬが、苦戦するかもしれぬぞ。兎に角、我が軍はこのままでよい。当初の計画通り、敵をこの地に釘付けにする」


 こうしてエフト、ネヴィル連合軍七千と、ガドモア王国軍八千はお互いに手を出さず、睨み合いの体となった。

 

読者の皆様方には、本当に頭が上がらないです。

拙い作品を読んで頂けるだけでも、ありがたいのに、リンクの件を始めとする数々のアドバイス、毎度減らない誤字脱字指摘も本当に助かっております。

本当に感謝です!


私の元にもコロナウィルスのワクチン接種の案内がついに来ました。

副作用の件もあるので、私の場合は持病があるので医師に相談してから、受けるかどうか決めようと思っております。

皆さまはすぐに受けられますか? それともしばらく様子を見る感じでしょうか?

何にせよ、一日も早く平穏な生活を取り戻したいものですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アデル達の想定内の動きとはいえ、愚将ではないな、エルキュール伯爵。 とりあえず無理に戦略目標(エフト軍の足止め)以上の行動をしないのは悪くない。 結果的には城の占拠のチャンスを逃したのも…
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