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イレギュラー

感想、評価、ブックマークありがとうございます!

誤字脱字指摘も感謝です!


大変長らくお待たせ致しました。本当に申し訳なく思っております。

今週末は休めそうなので、もう一話か二話更新出来ると思います。

 

 遊説によって徴募した兵の内、弓を射ることの出来るものはそのまま兵とした。

 彼らは来るべき戦のために訓練に明け暮れる日々を過ごすこととなった。

 その他の残りの者たちは北部では野戦陣地の構築に、東部では最前線の城の補修などに用いられた。

 すべての者を兵としなかったのには理由があった。

 この時代、成人している者ならば老若男女問わず武器を手にしたことのない者はいない。

 乱世でもあり、また狼や熊、そして獅子などが山野に潜んでいるため、自衛手段としてある程度、最低限誰でも何かしらの武芸は仕込まれるのが普通であった。

 だがいくら武器が扱えるといっても、兵となるとそれはまた別の話である。

 まず兵には規律、統制が求められる。いつの時代であっても、武芸に優れていようが規律、統制を欠いている所謂、烏合の衆では軍として機能しないのである。


「猛訓練が必要だな。それもネヴィル式のな…………もっとも、それは次の戦の後の話となるが…………」


 次なる戦の戦場の予定となるペシュネーの丘に視察に来たアデルは、そう呟やいた。

 アデルはこのペシュネーの丘に、馬防柵を組み上げて防御陣地を構築させていた。

 この時の彼は、盛んに周囲の者たちに冗談を飛ばしたりと常に陽気に振舞い、時には働く兵たちに交じって丸太を担ぎ、また食事も兵たちと同じ列に並び、兵たちと同じ物を食したのだった。

 これには働いている兵の皆が驚いた。これまで兵たちと共に汗を流し寝食を共にする王など、見たことも聞いたことも無かった彼らは、自然と親愛の情を抱くことになる。


 野戦陣地の構築がほぼ完了したのは、八月の下旬。この頃にはガドモア王国も兵を集め終えていた。

 ガドモア王国の兵の集結地点から、このペシュネーの丘までの距離と、その進軍速度から予想して会戦は

 九月の中旬から下旬になると思われた。


「果たして敵はこの地に来ますかな?」


 アデルと共に視察に来ているロードリンゲンが、組みあがった防御陣地を見まわしながら、アデルに問う。


「来る。躾の悪い犬と、敵に尻尾を振った犬を狩りにな」


 そう言ってアデルは白い歯を見せて笑った。

 躾の悪い犬とはアデルのことであり、三つ首の狼を国旗とするネヴィルをガドモア王国の者たちは、犬と蔑んでいた。

 そしてもう一匹の敵に尻尾を振る犬とは、事の成り行きでガドモア王国を離反したロードリンゲン侯爵のことであった。


「我らが敵を釣る餌というわけですか。ですが、この柵のことは敵にも筒抜けのはず。万が一のこともあり得ますぞ?」


「いや、余と卿がこの地に居れば、奴らは必ずやって来る。卿の危惧する万が一が起きた時には、ノルトの加勢を頼む手筈となっているので、これも心配はない」


 万事抜かりは無いよ、と笑うアデルを見て将兵らの表情は和らぐ。

 何せアデルは現在無敗の王である。山海関の防衛戦に始まり、ルノア湖、ティガブル、トラス街道、そしてロードリンゲンを屈服させたジストラとことごとく勝利を収めている。

 また電撃戦の成功とネヴィル街道を制する戦い、トスカナタ平原での戦いにも勝利し、アデルのみならず麾下の将兵も精強である。

 この勝ち運こそが、降ったロードリンゲンらを心服させる大きな要因の一つとなっていることは間違いない。


「後は落とし穴だけだな。これは直前に突貫で準備するぞ。多少その存在がばれてしまっても問題ない。敵は必ずや定石(セオリー)どおりに攻めてくる。何せガドモア王国ご自慢の重装騎兵だ。これまでも正面から数々の敵を打ち破って来た実績もある。まず間違いなく真正面から突っ込んで来るだろうよ」


 このアデルの言葉にロードリンゲンらも頷いた。

 ガドモア王国の虎の子ともいうべき重装騎兵の突破力は並々ならぬものがあった。

 この程度の馬防柵など簡単に突破されてしまうのではないか、と危惧する声も多い。

 だがこのアデルの身体に漲る自信と、これまでの数々の戦歴、そしてその中で見せ続けてきた知略の冴えに期待を寄せる声もまた多かった。


「勝たねば滅びるのだ。ネヴィルにとって、連合にとってこの戦いは云わば天王山と言ったところ…………ん? これ毎回言っているような気がするな…………」


 何にしても、どんな手を使おうが必ず勝つと、必勝の思いを胸にアデルは敵を待ち受ける。

 そんなアデルの元に、ノルト王国経由でとんでもない情報が舞い込んできた。


「何? 敵はネヴィルの北部と東部だけではなく、エフトにも兵を出すだと?」


「はっ、集結した軍勢は約四万と見られ、内一万あまりの兵がエフト王国の領土を目指しているとのこと」


 戦争に予定外(イレギュラー)は付き物である。

 先の電撃戦に見事な勝利を収めた連合軍。結果として広大な領土を手に入れた三国の内、ノルト王国に至っては一寸の領土も得てはいない。

 代わりに新たに山陽道の開通による通商路の確保と、ネヴィル王国に編入された旧ガドモア王国北部辺境に配していた兵を下げることが出来たのが、電撃戦での勝利がもたらしたノルト王国の利である。

 ガドモア王国に接する国境の縮小により、国境に配する兵力の集中と余剰兵力を削減することが出来たのは大きかった。

 三国の内のもう一国、エフト王国はというと飛び領地となってしまうのだが、手に入れた土地の内で最も農業地として豊かな土地を手に入れていた。

 これは山地で広大な耕作をすることが出来ずに、常に食糧問題に直面しているエフト王国に配慮してのことであったが、このネヴィル王国の配慮に、エフト王国の国王スイルと国民たちは深い感謝の念を抱いていた。

 このエフト王国が手に入れた豊穣な耕作地帯の位置はというと、丁度ネヴィル王国の北部と東部の間、帯状に広がっている。


「拙いな…………エフトの兵力は多くは無い。かき集めても精々が三、四千といったところだろう。エフトの生命線でもある彼の地を、スイルは何が何でも死守しようとするだろう。よし、援軍を送る!」


 アデルの決断は早い。だが、ネヴィル王国としても兵力に余裕があるわけではない。特にカインとトーヤが守る東部は、その広大な領土のわりにはスッカスカであると言っても過言ではない。

 なので、やはりというか将たちの間からも、この決断を疑問視する声が上がる。

 しかしアデルは広げられている地図を指さし、


「見ての通り、エフト王国の新領土は我が国のこの北部と東部の間にある。ここを取られると南北の行き来に支障が生じ、全体の計画が狂い、破綻しかねない。よって、この地を出来うる限り守らねばならない。積極的に抗戦して追い払う必要は無い。ただ、我が軍が敵を倒すまで耐えればよいのだ。我が軍は敵を撃退次第南下し、エフト王国軍と合流。しかる後にこの方面の敵を撃退し、おそらくは苦戦しているであろう東部の救援に赴く」


 と、今後の動きを説明した。

 そしてその場で一人の貴族をエフト王国への援軍として指名した。

 与えられる兵力は三千。エフト王国軍と合わせても六千から七千。兵力的にも劣勢で厳しい戦いが予想された。

 

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