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降伏

感想、評価、ブックマークありがとうございます!

更新が遅れて申し訳ありませんでした。

季節の変わり目で起きる持病の喘息で養生を余儀なくされておりました。

コロナも怖いので、いつもより時間をかけて慎重にといった具合で快癒するまで時間を頂きました。

 

 自分を策に嵌めたのはいったい誰なのか?

 ロードリンゲンは首を捻った。

 これに対し居並ぶ諸侯の口からは、


「シルヴァルド王は若いながらもその叡智を称えられておりますれば、王自身あるいは王の知恵袋たる宰相ブラムによるものでまず間違いないでしょう」


 との意見が出たが、ロードリンゲンは納得がいかない。

 シルヴァルド王が即位して以来、ロードリンゲンは大小様々な戦で対峙してきた。

 シルヴァルド率いるノルトの策は堅実であり、かつ隙が無い。

 だがしかし今回の策はというと、堅実さというよりも投機性に富んだ、云わば博打のような策である。

 これがどうしても腑に落ちないのだ。

 相手の今までの傾向から完全ともいえる対策を講じてきたが、この意外なる策によって完全敗北と言ってもよい状態にされた今、自分を負かした相手のことが知りたくてしょうがなかったのだ。


「儂よりも広い視野を持っていて、且つ柔軟である」


 この時、ロードリンゲンは名も知らぬ敵手をこう評したという。


「兎にも角にもこうなった以上、最早ガドモアには居られまい。となれば、残るは眼前の敵に降るしかないわけだが…………」


 このまま自分たちで独立しても北にノルト、南にガドモアという二国を相手にして生き残ることは不可能である。

 猜疑心を抱かれ、今後の展望が暗いガドモアに残るという道もまた無い以上、諸将はノルトに降る他は無いと考えていた。

 しかしこれには問題があった。

 ノルトとガドモア王国の北部辺境の間は、最早仇敵ともいえる間柄となっている。


「我らは良いとしても、領民たちが果たしてノルトに降伏することを承服するだろうか?」


「反発は必至だろう。何代にも渡って戦ってきた仲であれば、その憎しみも強かろう」


「今日から味方だと言われて、彼らが素直に頷くわけがありませんな。反抗や反乱が頻発するとなると、シルヴァルド王も良い顔はしないはず」


 文字通り諸侯は頭を抱えていた。

 これではたとえ降伏したとしても、とてもではないが命脈を保てそうにないと。

 暗い展望にうなだれる諸侯を見てロードリンゲンは、意を決したように口を開いた。


「…………策はある…………いや、これは策というよりは詭弁ともいうべきものだが、儂にはこれ以外の方法が思いつかぬ。頼りなくてすまぬことだが、そなたらの命を一時儂に預からせてくれぬか?」


 諸侯は驚き顔を見合わせた。

 だがすぐに、


「このままガドモアに留まったとしても、一度疑念を抱かれたとなるとよくて御家取り潰し、最悪は族滅。ならばこの命、閣下にお預けするのはやぶさかでは御座いませぬ」


「然り。我ら北部辺境二十八家、どこまでも閣下と共にあらんと誓っておりまする」


 ロードリンゲンに対する諸侯の信頼は厚い。

 それもこれも今まで長きにわたり、ガドモア本国の北部辺境に対する理不尽に対して、身を盾にして麾下の諸侯らを守って来たからである。

 ロードリンゲンは、諸侯らに向かって静かに頭を下げた。


「もったいのう御座います閣下!」


「どうか、どうか頭をお上げくださいませ」


 諸侯らは慌てつつも、これだからロードリンゲンという男に、どこまでも着いて行きたくなるのだと再確認した。


「結論から言うと降伏はする。ただし…………」


 ロードリンゲンの口から出たのは諸侯も驚いた。確かに自ら言うようにこれは詭弁かもしれない。

 だが時として人は、自らを納得させるためにこういった詭弁を正論とすることを、この場に居る誰もが知っていた。



 ーーー



 敵陣から来た使者とその内容に、連合軍は激しく驚いた。

 驚かなかったのは、アデルとシルヴァルドの二人だけだった。


「ついにだな」


「ええ、彼らも覚悟を決めたようです。完全降伏か属国化を希望するかまではわかりませんが、ことここに至って決戦は最早あり得ないでしょう」


 アデルの言葉にシルヴァルドは頷き同意する。

 連合軍を驚かせたガドモア側の使者とは、ロードリンゲン侯爵本人であった。

 彼は麾下の数名の貴族と共に、軽装で連合軍の本陣を訪れたのであった。

 アデルとシルヴァルドも彼らに敬意を表し、同じく軽装にて対面する。

 本陣の巨大な天幕の中で、両軍のトップが顔を合わせた。


「お初にお目にかかります」


 アデル、シルヴァルド両名の前で跪こうとするロードリンゲンを、二人は手で止めた。


「その必要はない。まずは席に着かれよ」


 アデル、シルヴァルドの二王と、ロードリンゲンらが長細い大きなテーブルを挟んで対峙する。

 程なくして給仕の者が、ワインの小樽を持ってきてテーブルの上のカップへ、次々に注いでいった。

 それに最初に口を付けたのは、他ならぬアデルであった。

 小国とはいえ王であるにもかかわらず、さも喉が渇いたと言わんばかりに、ぐいとカップのワインを飲み干して見せた。

 これは所謂毒見であった。

 王であるアデルが、飲み干して見せたことで毒殺の恐れは無いと、ロードリンゲンらの緊張が僅かだが緩んだ。


「いやいや、失礼した。緊張のあまり喉が渇いてしまって」


 そう言って笑うアデルの頬は、あまり飲みなれないワインのアルコールによって赤く染まっている。


「いえ、どうぞお構いなく」


 ロードリンゲンも儀礼的な笑みをかえした。

 五十代に差し掛かったロードリンゲンは、この時代では老人といってもよい。

 今までの厳しい生き様が現れているかのように、この時代の老人には大抵深い皺が刻まれている。

 後ろに長く伸ばした頭髪も黒と白の斑で、もう数年もすれば真っ白になることを予想させた。


「さて、早速だが本題に入ろう。ロードリンゲン侯自らの来訪となれば、大方予想はついておるが、卿の口から直接聞きたい。本日は如何なる目的をもって参られたか?」


 シルヴァルドの声は小さいが、澄んだ泉の水のように耳に染み渡る。


「では単刀直入に申し上げます。本日我らがここに参ったのは、降伏を伝えるために御座います」


「ほぅ、降伏というのはこの場に居る者も含めてのことか?」


「いえ、我が麾下にあるガドモア王国の北部辺境二十八家、全てが降伏致す所存に御座います」


 ざわ、と天幕内が揺れた。

 天幕内に居る連合軍の諸将らが、驚きに声を漏らしたのだ。

 この言葉に驚いていないのは、アデルとシルヴァルドの二人だけであった。


「なるほど。つまり北部辺境の全てというわけだな」


「はっ、さように御座いまする」


「卿のことであるからこの際に国を興し、属国化を求めるかとも思ったが…………」


「いえ、我らは降伏致しまする。ただし、降伏するといっても失礼ながらノルト王国にでは御座いませぬ。そこに御座おわすアデル王が率いる国…………即ちネヴィル王国に我らは降伏致しまする」


 この言葉にアデルは今日初めて驚き、声を上げた。


「え? ウチに? 何でウチに?」


 驚きのあまり、素っ頓狂な声を上げたアデルを見てシルヴァルドも思わず声を出して笑った。


「何だアデル、これは想像していなかったのか? アデルらしくもないな。よくよく考えればこれは当然のことだろう。北部辺境二十八の()()が、我が国に降るといっても、その領民たちの中には我が国に降るを良しとしない者が、多数居よう。それぐらいに我々は今日まで戦って来たのだ」


 それを聞いたアデルはというと、赤面しっぱなしであった。

 その赤さといったら、先ほどのワインによるものの比ではない。


「策士策に溺れるとはまさにこのことか。しまった…………北部辺境に住まう領民たちが抱く感情にまで思いが至らなかった…………不覚だ」


 この言葉を聞いたロードリンゲンは驚くとともに、確信した。

 目の前にいるこの少年こそが、自分を嵌めた張本人であると。

 そして口中で呟いた。


「そうか得心いったわ。あの投機性と柔軟な動きは、恐れを知らぬ若さから来るものであったか。なるほど、これは読めぬわ。まさかこのような若年の者によって生み出されし策であろうとはな。これはひょっとすると、この意外性という一点を以ってこれからも大人たちを手玉に取るやも知れぬ…………」

未成年の飲酒ですが、架空の世界ということと設定上の成人が十五歳、主人公の年齢がそれに近い十四歳ということで大目に見ていただきたく…………

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― 新着の感想 ―
[良い点] やったね、アデル、配下が増えるよ! なお、爆発的に領国管理の負担も増える模様。 [気になる点] マジでここまで急激に勢力大きくなると領国管理大変じゃね? まあ、当面の新領地の統治はそのまま…
[一言] 王が成人していないわけない 王が法
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