連合軍の快進撃
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レビアス男爵を伴って、グラハレル子爵の居るワルタール城へ向かうバーゲンザイル。
隣領の領主であるレビアスの訪問に、ワルタール城の城門は開かれた。
こうしてバーゲンザイルは無事にグラハレルとの面会をすることが出来た。
グラハレルは小太りで顔は丸い初老の男で、目じりや眉間に数多く深く刻まれた皺が、辺境に住まう苦労と苦悩の多さを物語っていた。
グラハレルはレビアスの突然の訪問にも驚いたが、連れてきたバーゲンザイルが身分を明かすと警戒心を露わにした。
しかしながらバーゲンザイルが軽装であること、その口調が非常に穏やかであることなどから、変に事を荒立てずにとりあえずは話を聞くこととなった。
バーゲンザイルは最初から作戦を明かし、グラハレルに協力を求めた。
「なんと! そうか…………ついに侯もガドモアを見限ったか…………」
グラハレルの反応は、レビアスのそれに等しい。
グラハレルの言動から見るにロードリンゲン侯の内にも、ガドモア王国に対する不信や不満が鬱積していたようである。
それからグラハレルは申し訳ないような表情で、
「協力したいのはやまやまなのですが、もう既にご存じの通り、某もそちらにいるレビアス卿も侯の元に多数の将兵を派しておりまして…………今動かせるのは両家合わせても精々が二、三百といったところ…………」
と、協力するにしても大したことは出来ないと告げた。
「いやいや、領内を通過させて頂くだけでもありがたいというのに、兵をお出しくださるとは……我が連合の三王に代わり、厚くお礼申し上げる」
レビアス、グラハレルは共に長きに渡ってロードリンゲンに仕えてきた。
この両名の忠誠心は、搾取し続けるガドモア王国の国王にではなく、矢面に立って無茶な要求に立ち向かい続けているロードリンゲンに向けられている。
この時のガドモア王国の北部辺境領とは、ある意味でロードリンゲンを頂点としたガドモア王国の衛星国家的な立ち位置であった。
したがってこの二人のみならず、北部辺境領に住まう貴族たちのほぼ全てが、ロードリンゲンに忠誠を誓っていた。
「閣下がご決断なされたのならば、我々はどこまでもついて行く所存。しかし閣下も水臭い。我々にも一言くらい声を掛けて下されば、事前に準備致したものを……」
レビアス、グラハレル共に若いころからロードリンゲンと共にこの地を治め、戦場を駆け巡って来た仲である。
そのグラハレルとしては、反ガドモア勢力への転身という大事の前に自分に一言声を掛けて欲しかったという気持ちが強い。
「同感である。しかしながら愚考するに、我々にも話せぬ事情があったのではなかろうか?」
レビアスの方はというと、多少は聞き分けが良い。
この両名を見るバーゲンザイルはというと、内々で笑いを堪えるのに必死であった。
こうもあっさりと、ネヴィルの三兄弟の考えた通りに進んでいくのが面白くてたまらない。
こうして南下する連合軍は、グラハレル子爵領を通過しついにガドモア王国西部辺境領へと侵攻するに至ったのであった。
ーーー
一方その頃、ノルト王国を基幹とする連合軍とガドモア王国北部辺境領の将兵を率いるロードリンゲン侯はというと未だに睨み合いを続けていた。
ロードリンゲンの元には、先のトラス街道での戦いの敗残兵が戻ってきており、これによりパイドとアズーリアンが敗れ、パイドは行方不明、アズーリアンの身が敵の手に落ちたことを知った。
「アズーリアンの事には、こちらからは一切触れるな。一時的にしろ身代金を払ってやる義理はない。ましてや奴目は命令違反者なのだからな。それにしてもこうもあっさりと敵に勝ちを献上しおってからに……これだから中央貴族というのはあてにならんのだ」
ロードリンゲンの口調と表情はこれまでになく険しい。
ただ勝ちに乗じて総攻撃してこなかった点については、ロードリンゲンはシルヴァルドに感謝していた。
「このまま勝ちに乗じて我らを打ち破り、我らが領内になだれ込み寸土を奪い合うよりも、交渉によってより価値のある地を掠め取ろうという魂胆だろう」
やはり食えぬ男だと、ロードリンゲンは苦虫を嚙み潰したような顔で呟いた。
「よし、これまでの様子から敵が本気で攻めてくる気が無いのがわかった。では諸君、戦場をこの丘陵から交渉へと移そうではないか」
麾下の諸侯の同意を得て、ロードリンゲンは対陣する連合軍へと使者を発した。
まだこの時点でロードリンゲンの耳に、連合軍の別動隊が北部辺境領の西端を南下しているという情報は届いていない。
ーーー
彼らは一体どこから現れたのか?
天より降って湧いたというしかなかった。
彼らは野を駆け巡る獣のように我らの地を走り、次々と城を陥落させて行った。
騎士マルチェロ・スタンバレインの日記より一部抜粋
西部辺境領に侵攻した連合軍は三手に分かれた。
スイル王率いる一万はそのまま北部辺境領との境に沿うように東進。
バーゲンザイル公爵率いる一万は西部辺境領の中央を目指して東南へと進む。
そして白狼公ことトーヤ率いる五千の兵はというと、そのまま一路南進をし続けていた。
西部辺境領の一貴族に仕える騎士であるマルチェロの日記にあるように、多くの者たちがわが目を疑い、そして連合軍の軍勢が目の前に迫り来るまで、これが敵の侵攻であると信じようとはしなかった。
完全に不意を突くことに成功した連合軍。
三つに分かれた侵攻軍は、然したる抵抗も無く次々と砦や城を落としていく。
それもそのはず、平時において城や砦には基本少数の兵しか配置していないのだ。
理由は簡単。多数の兵を平時に詰めさせておいても、ただ金を食うばかりだからである。
五千、一万という軍勢に対して、慌ててかき集めた数十名が城に籠って何になるだろうか。
ほとんどの者たちが即座に抵抗を諦め門を開けて降伏し、抵抗を試みた少数の者たちもあっという間に数で蹂躙され、制圧されていった。
向かうところ敵なし。まさに破竹の勢いであった。
南進を続けるトーヤの軍が少ないのは、最大限の行軍速度である重要拠点を落とさねばならないからであった。
その重要拠点とはずばり、今現在ネヴィルとガドモア西部辺境領を繋ぐ崖道のガドモア側に建てられた城塞。
その名をステンヴィルという。
このステンヴィル城塞の攻略こそが、今作戦の一つの目玉であった。
攻略に成功すれば、ネヴィル王国から西部辺境へ、さらに兵や物資を送り込むことが出来る。
逆にこのステンヴィル城塞を攻略出来なかった場合、連合軍の補給は困難となり、最悪現地調達……言葉を飾らないのであれば略奪をしなければならない。
また、このネヴィルとガドモアを繋ぐ崖道は退路ともなりえる。
全体の作戦に失敗した時には、ここから全軍を退却させる計画であった。
なのでこのステンヴィル城塞は、如何なる犠牲を払っても陥落させねばならない最重要拠点であった。
文盲のくだり、色々と考えるものがありました。
今回は明確な差別用語ではないと判断し、そのまま使わせて頂きます。
もし、何かの間違いで私が差別用語と知らずにそういった言葉を使っていたならば、すぐにお知らせ下さい。
小説というのは娯楽です。読者の皆様がそういった差別用語などで不快にならないように、楽しんで頂けるように努めますので、どうかよろしくお願いいたします。




