二狼出陣!
評価、感想、誤字脱字の御指摘ありがとうございます。
みずいろ2550様から素敵なレビューを頂きました。本当にありがとうございます。
長いことお待たせして申し訳ありませんでした。
また年末から体調を崩してしまいました。
体力が戻り次第精力的に活動致しますので、今後ともよろしくお願いします。
カインがエフト王国に出向いている間、アデルとトーヤの二人は来るべき戦に備えて、いくつかの特殊な部隊の編制を行っていた。
一つは、ネヴィル王国内でも工匠として名高いゴルドバという初老の男を長として編成された工兵部隊。
そして次に今のところ名ばかりで二人しかいない親衛隊を本格的に設立したのだ。
この親衛隊には、身分を問わず国内の二十歳未満の若者から希望者を募った。
これに貴族や士分の子弟は勿論のこと、平民たちからも応募は殺到した。
平民の中でも特に、元奴隷でネヴィル家によって奴隷の身分から解放された少年少女たちは、これに熱狂的に志願した。
厳正なる試験の結果、百名の若者が栄えある国王の親衛隊として選ばれた。
新たなる親衛隊員の出自はバラバラ。貴族の子弟も居れば、平民の子も居るし、さらには元奴隷も居る。
それに驚いたことに、百人の内の十人は女性であった。
これは周辺諸国でも類を見ない異例のことであった。
彼女らを選定したトーヤは、こう述べている。
親衛隊の任務の大半は要人警護。その要人には女性も含まれるわけだし、女性の親衛隊員がいた方が何かと仕事も捗るだろうと。
惜しくも選考に漏れた少年少女たちの内で、見どころのある者たちについては後にカインとトーヤが自身の騎士団へとスカウトしている。
こうして編成された親衛隊は黒一色の装備を与えられ、国王直属の黒狼騎士団、略して黒狼騎と呼ばれることとなる。
そしてその黒狼騎の団長にはブルーノが、副団長にはゲンツが就任。
彼ら若き黒狼たちを少しでも戦力化するため、国王アデル自ら、そして大将軍ギルバートが冬の間中徹底的に鍛えることになった。
その中でも特に厳しく指導されたのは、団長のブルーノと副団長のゲンツの二人。
ブルーノもゲンツも馬術、剣術、槍術、弓術などの武芸は勿論のこと用兵学も叩きこまれ、他にも人心掌握の術や政治学、さらには行儀作法なども専属の教師によって教育を受け、それこそ寝る間も無いほどに鍛え上げられていった。
平民の子であるゲンツは文字の読み書きから教えられたが、負けん気の強い彼は決して音を上げることなく、寝る間も惜しんでの勉強の結果、僅か二か月で文字の読み書きを会得。
この姿にブルーノを始め黒狼騎の若者たちは触発され、短期間で大人たちが目を見張るほどに成長を遂げた。
また同時にアデルとトーヤの二人は、国内の馬術と弓術に優れる者たちを集め、馬術のみに優れる者を集めて偵察や伝令を務める捜索騎士団を、弓術のみ優れる者を集め弓兵団を、その二つに優れる者で弓騎兵団を新設した。
弓騎兵たちには、これまでの長弓ではなく短弓を装備させ、馬上で前後左右自由に騎射出来るよう訓練。特に馬上で後方に弓を討つ、パルティアンショットを体得させることに力を注いだ。
本格的な冬の到来を前にしてカインが帰国すると、カインもこの軍制改革に参加。
弟であるトーヤと共に若者たちを中心として騎士団を設立し、カインは赤色、トーヤは白色を基調として赤狼騎士団と白狼騎士団と命名し、鍛え上げた。
年が明けて雪が解けると、敵の侵攻を待たずしてアデルは軍を率いて北上した。ネヴィル王国歴三年のことである。
付き従うのは白狼公トーヤ、ダグラス伯爵、ウズガルド伯爵、そして山岳猟兵団長のハーロー男爵、それにザウエル、シュルトの両男爵。
率いる兵力は三千。設立したばかりの黒狼騎と白狼騎もこの中に加わっている。
赤狼公カインとその補佐として大将軍である白豹公ギルバート、グスタフ伯爵、巨大な戦斧がトレードマークの猛将バルタレス男爵、トラヴィス子爵とジョアン子爵らが留守を預かる。
途中、エフト王国でスイル王と合流。
エフト王国の三千の兵力と合わせて合計六千の兵力でノルト王国へと向かった。
ーーー
一方ノルト王国では、諜報活動によりガドモア王国の侵攻のおおよその時期が判明しつつあった。
ノルト王国の諜報網とはズバリ解説すると、それは商人たちであった。
特にノルトとガドモアの国境沿いを縄張りとする商人たちにとっては、国境などあまり関係がない。
大っぴらに交易は出来ずとも、所謂抜け荷……密貿易は盛んであった。
彼ら商人にしてみれば、戦争は金になる。それも長引けば長引くほどに。
なので彼らは戦争が出来るだけ長引くようにと、必然的に国力の劣るノルト王国に情報を積極的に流すことで肩入れをしていたのであった。
そんな彼らからガドモアの内地の各所から中央軍が招集され、北を目指し始めたとの報告がもたらされた。
「いよいよ来たか…………まぁ、余はいつも通りを演じるだけであるが…………」
複数の商人たちから同じような報告を受けたノルト王国の国王シルヴァルドは、卓上に広げられた地図の上、想定される戦場に目を落とす。
「ガドモアと睨みあうとするならば、このジストラ丘陵辺りがよろしいかと」
「だな。国境沿いで多少の起伏があり、大軍同士がぶつかり合うには些か狭い。つまり決戦しづらく、必然的に睨み合いとなりやすい土地でもある。早々にこちらが陣を敷けば、敵も合わせてジストラへやって来るだろう」
「バーゲンザイル公とユンゲルト伯爵らは既に合流予定地へと向かっておりまする」
「うむ。東の守りの要ゆえブレナン伯を貸すことは出来ぬが、代わりにクリスカ伯とレイバック伯を向かわせた。余は人選を誤ったかな?」
「いえ、両伯爵ともその陞爵には、アデル王の御意思が大きく関わっておりますれば、形の上では恩義を返すためにもその命に伏するでしょう。またアデル王としても、思うところあれど貴重な戦力ゆえ、無碍には扱わぬことでしょう」
クリスカ伯爵はアデルの父であるダレンを直接討った仇、そしてレイバックは当時そのクリスカの上官である。
「いくら茶番とはいえ、それほど余剰戦力があるわけではなし。単に編制途上で融通の利くのが、その両伯爵であったというまでのことなのだが……私情を殺して彼らを使いこなせるかどうかで、アデル王の器量の程が知れるであろうな」
「歴戦のバーゲンザイル公が総指揮を執られるのであれば、問題はありますまい」
「そうだな。こと戦において、あれほど頼りになる老人もそうは居らぬ。公爵とユンに任せるとしよう」




