大会と授与
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コロナウィルスが再び猛威を振るい始めています。
年末年始と、人と接する機会が普段より多くなりがちな時期、マスク、うがい、手洗い、消毒としっかり自己防衛していきましょう!
実りの秋、収穫の秋。
この世に生きる全ての人々が、大地が分け与える富に感謝し、祈りを捧げる季節。
ここネヴィル王国でもそれは他と比べても何ら変わることはない。
収穫祭まであとひと月あまり、というところで王国主催のある催しが行われた。
それは、このコールス盆地に流れる幾つかの川に棲む大鰻をターゲットにした、大鰻釣り大会であった。
ここコールス地方では大鰻は身がブヨブヨとしていて、秋に遡上してくる鮭鱒類に比べ白身で味気なく、底物の川魚特有の臭みがあり、一般的に下魚として扱われている。
これをどうにか美味しく食べることは出来ないだろうかとの三兄弟の研究の結果、かば焼きのように串を打ち、そこからさらに味噌焼きにすることで臭みを打ち消すことに成功した。
あとはもう一般に広めるだけの状態だが、どうにも今までの記憶が邪魔をするのか、大鰻の人気はいま一つである。
そこで大鰻と味噌を大きく一般に広める機会として考えたのが、大鰻釣り大会である。
釣った大鰻は大きさを測定した後で、宮廷料理人たちの手によって捌かれ、参加者や見物人たちに振舞われる。
この大会を取り仕切るのは、白狼公ことトーヤであった。
優勝者には金で拵えた釣り針を、準優勝者には銀の釣り針、三位には銅製の釣り針が与えられる。
これは彼の記憶の中にある、オリンピックの金銀銅のメダルを模倣したものであった。
さらには魚拓を取るために、原始的な墨汁を制作。この墨汁は煤に膠を加えた至って原始的なものであったが、それだけに大量に調達しやすく、以降ネヴィル王国に於いてスタンダードな書画材料となり、稀に染料としても用いられるようになる。
こうして国主導で行われた釣り大会は勿論世界初であり、前代未聞ということで国民の関心を集めることに成功した。
この珍奇な祭りに、ノルト王国の客人であるバーゲンザイルも面白がって参加した。
彼は入賞こそしなかったものの、一メートル三十センチを超える大物の鰻を吊り上げ、大会参加者最高齢とのこともあり、特別に敢闘賞を授与された。
急遽用意された敢闘賞の商品は、鰻の革を用いた小物入れであった。
魚の革、それも鰻の革を用いたそれを、バーゲンザイルは大層珍しがって喜んだという。
大鰻大会が終わって一息ついたところで、アデルは叙勲式を行った。
これは、先の戦やその前の防衛戦、そして長年の忠勤を考慮したものであった。
叙勲式の舞台である、都庁の中にある講堂に主なる者たちが詰めかけている。
現在ネヴィル王国の貴族はというと、王弟であるカインとトーヤ、そして叔父であるギルバートが公爵の位を授かっているのみである。
叙勲されているのはたったの三名。それも身内のみであった。
だがしかし、国を興して早一年が過ぎている。ネヴィル王国も他国と肩を並べるには、体裁を整える必要性があった。
そこで功績の厚い者を中心として、この度叙勲することとなったのである。
アデルとしてはこれに異論はない。むしろ配下に箔をつけるという意味でも、積極的に行いたいことではあった。
だが、これには一つだけ大きな問題があった。
狭いコールス盆地、多数の家臣に分け与える土地は非常に少ないのだ。
「と、いうわけでこれより叙勲式を行う。呼ばれた者は前へ出るように。ただ一つだけ言っておく。今回はあくまでも位や賞与の授与であり、領地の授与はない。だが、安心してほしい。今よりもさらにネヴィル王国が栄し時には、働きや爵位に見合った領地を卿らに与えることを誓う。では、まず…………」
最初に呼ばれたのは、祖父の代より仕える老臣たち。
ダグラス、グスタフ、オズワルドの三名である。
「卿らは、先々代、先代、そして今なお余に仕え、数多くの功績を挙げ続けてきた。これを賞し、卿ら三名に伯爵位を与える」
おお、と堂内がどよめく。
伯爵位を与えられた三名は、あまりのことにただ茫然と立ち尽くしていた。
それもそのはず、彼らの身分は今までネヴィル男爵家に仕える士分、ただの騎士だったのだ。
それが一足飛びに伯爵様である。
彼らとしては、長年の功績もあることから最下級の爵位である領地持ちの騎士、すなわち士爵程度だろうと思っていたのだ。それが何と、途中をかなりすっ飛ばしての叙勲である。
驚くなという方が無理であった。
三名の中の最年長であるダグラス最初に、震える声でどうにか、
「謹んでお受けいたします。この命果てるまで、陛下と王国に忠誠を誓います」
と受けた。
次いで無口で有名なグスタフが、いつも通りの単調な口ぶりで受ける。
最後にオズワルドだが、彼は哄笑した。
「はっはっは、実に気前が良い。これぞ我が王に相応しいというものよ」
戦場でも大胆不敵な老臣は、前の二人と違い慎み深さを微塵も感じさせぬ口ぶりで受けた。
だが、アデルは咎めなかった。それどころか、さらにこの老臣を喜ばせる発言をした。
「次の戦では、卿に余の補佐をしてもらおうと思っているのだが…………」
「おお、おお! 敵の攻めて来ぬ門番は退屈極まりなく思っておったところ。喜んで御供しましょうぞ」
「山海関は我が国の生命線かつ最重要拠点。番人としての立場を軽視してほしくはないが、言いたいことはわかる。多分、余も卿の立場なら同じ思いとなるだろうしな…………」
三名が下がると、次いで呼ばれたのは誰もが予想もせぬ二人、トラヴィスとジョアンだった。
「両名に子爵位を授与するものである」
先ほどのどよめきに匹敵するほどの声が、集まった臣下たちの口から洩れる。
ネヴィル王国はどちらかといえば、武に偏重気味と見れなくもない。
にもかかわらず、三名の老臣の次に賞されたのはトラヴィス、ジョアンの言うなれば文官であった。
本来ここに、祖父であり大臣を務めるロスコを加える予定であったが、本人が身内びいきが過ぎるのは良くないと、辞退している。
「トラヴィス卿は外務大臣として三国をよく取り持っている。またジョアンも治世において多大なる貢献を果たしている。卿らの功績は戦場の武勲に決して引けを取るものではないと、余は考えておる」
トラヴィスもジョアンも顔色は青ざめていた。
彼らはまだ二十代の若者。貴族出身とはいえ、つい今日この日まで無位だったのだ。
それがこれまた一気に爵位だけなら大貴族となってしまったのだから、驚くのも無理はない。
二人は驚きつつも、自分たちに子爵位を与えられたことが、いったい何を意味するのかを瞬時に悟った。
そのため、二人はためらわずに子爵位を受け入れた。
彼らは、言わば後に多数仕えるであろう文官たちの希望となるべき存在ということである。
次に呼ばれたのは、現在のネヴィル王国の中核を担う武官たち。
山岳猟兵団を任されているハーロー、ザウエル、バルタレス、シュルト、そしてネヴィルの若者の代表格のクレイヴとロルト。彼らには男爵位が与えられた。
一介の騎士である彼らもまた、階段をすっ飛ばしての大出世である。
そしてアデルのたった二名の近衛騎士であるブルーノは領地持ちの騎士である士爵に、平民であるゲンツには騎士位が授与された。
ただしブルーノの領地は他の者と同様、ネヴィル王国が栄し時…………簡単に言えば、ガドモアから領土を奪いしその時までお預けである。
他にも多数の者たちが、爵位を授けられたり、身に余る褒美を頂戴することとなった。
その一つに、アデルがノルトに居た頃に作らせた槍があった。
ノルトは良質の鉄を産出する国であり、ノルト製の武具を所持することは武人の憧れであり、ステータスの一つでもあった。
アデルが作らせた百本の槍。それは、この地に現存するどの槍とも違う形をしていた。
まず柄は、赤一色に染められていた。そして槍身に枝があり、その枝は左右で長さが違った。
「これは片鎌槍という。突くだけでなく、この枝で敵を引っ掛けることも出来る。多数の敵の血を流させた猛者としての諸君らに敬意を払い、柄を赤く染め上げた皆朱の槍である。これを持つは、卓越した武勇の証である。大いに誇るとともに、武の研鑽に勤しんで貰いたい」
片鎌槍の使い手としては、日本の戦国大名である加藤清正が特に有名である。
これを与えられた者たちの中には、感激のあまり大声で泣き出す者さえいたという。
そしてこの槍は、片鎌槍ではなく黒狼王に因んで、皆朱の狼牙槍と呼ばれることとなり、武を目指す者たちの憧れともいうべき存在となっていくのであった。
次こそはキナ臭い話の予定。




