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ネヴィル領城塞化計画


「父上、ロスコお爺様の話を聞く限りだと、我々にも今に勝る重税が課せられるのは、時間の問題だと思われます。今でさえ苦しいのに、これ以上搾取されては我々も領民ももちません。税を払えぬとなれば、転封、もしくはお取り潰し、領民たちは奴隷となるか土地を捨てて棄民となるか……どちらにせよ、明るい未来ではありません。切羽詰まってからでは遅いのです。まだ時間と余力があるうちに動きはじめないと、取り返しのつかないことになります」


 アデルの力説に、大人たちは腕組みをしつつ唸る。


「だがアデル、城壁を築くと言ってもそう簡単なことじゃないぞ。人手もそうだが、建材をどうする? 強固な城壁を築こうとすればするほど、より多くの建材を要するのだぞ」


「叔父上、建材はあるじゃないですか。ほら、この前見つけたコンクリートが……人手さえあれば、建材の殆どは自領で補えます。建設の時間も、煉瓦や石材の積み上げによるものよりかは短い期間で済むと思われます」


 ああ、あれか、あれならばそうかもしれんと、コンクリートの存在を知らぬロスコ以外の者が一斉に頷く。

 事情を知らぬロスコのために、ダレンは前に作ったコンクリートのサンプルを持って来て説明した。


「これは……これがコンクリート……本当にこれが領内の岩を砕いた物と土と水を混ぜた物なのですか? 信じられん硬さだ……」


 ロスコはダレンが持って来たコンクリートの小さな塊を、手で押したり叩いたりしている。


「このことは他言無用に願いたい。ロスコ殿を身内と思えばこそ、この秘事を明かしたのだ」


 ロスコは神妙な顔をして頷いた。貴族では無く平民で、しかもいち商人ではあるが、ネヴィル家の一族として迎え入れられている事を感じ、それを誇りにも思っていた。


「しかし、本当に王国と事を構えて大丈夫なのか? 我が領は総動員しても二千にも満たないんだぞ……」


「父上、あの馬車一台通すのがやっとの道幅で、何人の兵を展開することが出来ますか? 心配ご無用。もっとも他に道があると言うのならば話は別ですが、無いからこそあの不便な道を使っているのでしょう?」


 自領の発展を妨げて来た険しい道が、皮肉なことに難攻の要害と化すとは、全くを以って笑うしかない。

 

「しかし領民たちが着いて来るだろうか? 王国と事を構えるとなると……」


「えっ? 領民たちに全てを話す必要性はありませんよ? 領民たちにはこう説明します。彼らもいま現在の王国が、いささか拙いことになっているのは肌身で感じてはいるでしょう。そこを突きます。このままで行くと遅かれ早かれ、反乱ないし棄民が発生するでしょう。そうした者たちが、豊かな食料を求めてこのネヴィルに襲い掛かってくるかも知れないぞと煽るだけでいいのです。領民たちは自分たちが苦労してやっと開拓したこの地を守るために、積極的に力を貸してくれるはずです。まぁ強ち嘘でも無いので、こちらとしても良心を痛めることもないですね」


 あっけらかんと言い放つアデルに、大人たちの顔色は見る見る青ざめていく。

 これがこの場限りの発言であれば、大人たちも一笑に付したかもしれない。

 だがアデルたちは、これまでに幾つかの実績を積み上げていた。

 豆料理、石灰、そしてコンクリート……さらには最近は母であるクラリッサが引き受けていた領内の収支に関する仕事でも、非凡なその才能を見せつけていた。

 科学の発展していない迷信深い時世ということも相まって、ここにいる大人たちはこの三兄弟を、天から才を与えられた者たちであると本気で信じ始めていた。


「……わかった……領民たちへの説明は、儂とダレンがしよう」


「あとロスコお爺様も、それとなく領民たちに王国が危ういという情報を流して貰いましょう。話を戻しますが、ロスコお爺様……宝石を売って、人を……この際子供でもいいので、将来このネヴィルに定住してくれそうな者たちを集めて貰えませんか?」


「わかった、引き受けよう。だが、条件がある」


「我々に出来る事なら何でも……」


「我がロスキア商会の者、及びその家族をこのネヴィル領に避難させることをお許し願いたい」


 その言葉にはジェラルドやダレンのみならず、三兄弟も驚いた。


「爺ちゃん、そこまで王都はヤバイのか?」


 カインの言葉にロスコはわからんと呟いてから、言葉を続けた。


「わからん……だが、何かあってからでは遅いのじゃ。今なら、縁続きとして商会の本拠地を移したと言い逃れることが出来るじゃろう」


「ですが、もしもですが、王国と事を構えるとなるとこのネヴィル領は文字通り陸封されてしまいます。そうなると商いどころでは……」


 領内に伸びるただ一つの道を封鎖されれば、当然商売など出来なくなる。


「その時は帰農するか……それに、封じられると言っても何も永遠にというわけではあるまい。再び道が開いたその時に、ロスキア商会はまた商いをすればよい」


 爺ちゃんごめんと、アデルがすまなそうな顔をするのを見て、ロスコは笑い飛ばした。


「はっはっは、これから国と大戦をせんとする者が、そのような顔をしてはいかんぞ」


 取り潰され、土地を手放し、死ぬまで搾取されるとなれば、これはもう立ち上がるしかない。

 ネヴィル家は近い将来手を伸ばしてくるであろう王国に対して、手痛いしっぺ返しを喰らわせるべく動き始める事となった。


「では、ロスコ殿に全ての宝石を預けよう」


「わかりました。この宝石類は東のイースタル産という触れ込みで捌きます。取り分としましては、諸費用に二割として、ネヴィル家が六、商会が二で如何でしょうか?」


「ロスコ殿、それはあまりにも…………ロスキア商会の取り分が少なすぎるのでは?」


 ロスコは生粋の商人である。商人が利益を追求しないはずが無い。

 だが利益と言うのは目に見えるものだけではないということを、ロスコは十分に承知していた。

 今回の取引で、ロスコはワザと自分たちの利益を低くして、ネヴィル家に恩を売るつもりであった。

 そうすることで、ネヴィル領に避難した商会の家族たちは、より厚く遇されるだろうとの目論見である。

 

「構いません。二割頂ければ、商会の運営には問題ありませんので……」


「忝い……」


「いえいえ……それと、豆はいつも通り頂くとしても、人を買うとするならばもう少し何かが欲しいですな……」


「なら石灰を売れば? 畑の実験でもある程度成果が出てることだし、新しい肥料として売り込んで一儲け出来るかも」


 トーヤのその発言に、アデルとカインも力強く頷く。

 三兄弟はサンプルとして持ち帰った石灰岩を、細かく粉になるまで砕いて貰い、それを古い畑の半面に撒いて土と良く混ぜてから農作物の種を撒いて貰った。

 もう半面には、従来のまま手を付けずに同じように農作物の種を撒いて貰った。

 結果、石灰を混ぜた方の畑は発芽率、成長率とも石灰を撒いてない畑を大きく引き離したのだった。

 これを各村の村長たちに見せると、収穫量が増えると彼らは大いに喜んだ。

 これによって各村から石灰岩の切り崩しのための、人手が集められる手筈となっていた。


「おお、そうじゃな! あれならば、魅力のある商品となりえよう。ロスコ殿にも後でその石灰と、実験をした畑をお見せしよう」


 ジェラルドのお墨付きを得られた三兄弟は、笑みを浮かべてハイタッチを交わす。


「では、それらを売って得た金で、奴隷と……籠城となると……食料は十分としても鉄と塩ですな……」


 鉄は言わずもがな、武器や鏃、城壁に作る鉄門扉などに必要である。


「塩かぁ……多分だけど、この領内の何処かにはあると思うんだよなぁ……」


 

 

評価、ブックマークありがとうございます! 感謝感激です!


きつい風邪を引いてしまいました。鼻水がズルズルです。

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