義
評価、感想、ブックマークありがとうございます!
誤字脱字報告も感謝です!
申し訳ありません、更新遅れました。
PCのHDDが壊れてしまいまして、修理しようにもゴールデンウィークでサポートはやっていないし、店もコロナ自粛でやっておらず、ネットでHDDを買おうにも即日配送が厳しい状況。
昨日届いたので、急いで修理復旧。ゴールデンウィークに沢山更新しようと思っていたのに、残念無念です。
アデルはシルヴァルドやスイル、そして居並ぶ諸将に請われ、包み隠す事無く此度の戦について語ったが、
遅延や妨害を狙った所謂ゲリラ戦術といったアデルの考えに、ついてこれる者はシルヴァルドを始めとする少数だけであった。
多くの貴族はやはり、ホフマイヤー伯爵のように正面から堂々と敵と戦い討ち破ることを何よりもの名誉と考えているからだ。
これは前時代的……否、アデルに言わせればそれどころか、古代的、化石的な考えであり、失笑する気にもならなかった。
(王国貴族の肥大した選民意識と、それによって形成されたくだらぬ誇りが戦略や戦術を退化させているということか…………やり難くもあるが、これはこれで好都合でもある)
これは慢心だろうか? いや違う、とアデルは心の内で首を振った。
古くから特権を得て、その上に胡坐を搔き続ける王侯貴族たちに付け込む隙を見つけたのだと。
ノルト王国でこれならば、ガドモア王国ではもっと酷いだろうと。
「此度の戦功の第一は間違いなく、アデル王陛下で御座いますな」
「然り、然り。圧倒的な武勇知略を以って自軍の数倍の敵を蹴散らすとは、古今比類なき大功に御座いましょう」
しきりにアデルを褒めそやす貴族たちの声に、アデルは笑いもせずに首を振った。
「我らは盟約に従い義によって少々手を貸したまで。戦功の第一は大敵からティガブル城を寡兵でありながらも守り抜いた、ブレナン伯爵に他なりませぬ」
ざわ、と天幕内の空気が揺れた。
普通ならばここで己の功績を明らかにし、それを以ってノルト王国から正当な報酬を要求するところである。
それにアデルの言った義という言葉。これは長きにわたる戦乱により、裏切り寝返りが横行する今の世では、あまり聞かなくなった言葉であった。
これを聞いた諸将は、たとえ建前であってもそれを堂々と言える行いをしたアデルを眩く思った。
これにより黒狼王は義理堅き王として世に広く知れ渡ることとなっていく。
そしてそれは、アデルの一生の目に見えぬ財産となっていくのであった。
(臣下と功績を競い合うような王は、王者失格。王の功績と臣の功績はあくまでも別なのだ。ここで己の功を誇ろうものならば、シルヴァルド殿の失笑を買ってしまうだろう)
アデルはちら、とシルヴァルドを見た。
シルヴァルドは口許に微笑を携え、こちらを見ていた。
それを見たアデルは、何もかもが見透かされている気がしてならなかった。
しかし、たとえそうだとしても何だと言うのか。シルヴァルドも王ならば、自分も王なのだ。
ここで一々顔色を窺うようでは、対等の関係など夢のまた夢であると。
「それにシルヴァルド王より御預かりした、グリムワルド、アムドガルの両男爵の勇戦ぶりも忘れてはなりますまい」
天幕の末席に控えているグリム、アムドの二人は、突然アデルに褒め称えられて驚きの顔である。
これにはアデルの、今後ともノルト王国と付き合っていくので、王や王妹以外の貴族の内にも好意的な者を作っておこう、とする思惑もあった。
それに、この両名の働きぶりを直にその目で見て、アデルはそれなりに買っていたのだ。
この両名は表立って態度には現さなかったものの、最初アデルの下につくことを良しとせず、君命により渋々といった感じではあったが、ガドモア王国軍に一勝した後はアデルの軍才を認め、その指揮に一切逆らうことなく従った。
能力的に見れば特筆すべき点はないが、何を命じても無難にこなして見せた両名は、アデルにとって非常に扱いやすかったと言える。
(普通のことを普通にこなすというのは、思っているよりも難しいことだ。その点、何事もそつなくこなすあの二人は、決して無能では無い。むしろ部下に欲しいくらいだ)
このアデルの言葉によって、ブレナン、グリムワルド、アムドガルの三貴族は大いに面目を施すことになった。
褒められて怒る者はいない。彼らは自然とアデルに好意を抱くことになる。
「うむ、アデル殿の言う通りブレナンはもとより、グリムワルド、アムドガルもよくやった。褒めて遣わす」
主君であるシルヴァルドが褒めると、両男爵は深々と頭を下げた。
「はっ、それもこれもシルヴァルド陛下、アデル陛下の御威光によるものでありますれば、恐悦至極に存じます」
「賜りし名誉、末代までの語り草となりましょう。これからも、我らを正しき道へとお導き下さいますよう、切にお願い申し上げまする」
「よし、では凱旋である! 王都にて戦勝式典及びに、改めて三王国の同盟締結を祝おうではないか!」
その晩、軽く祝宴が催された。翌日、三王は肩を並べて王都リルストレイムへの帰路へと着いた。
ーーー
一方その頃、王都リルストレイムでは早馬が到着し、大慌てで戦勝式典と同盟締結による祝宴の準備を始めていた。
それにより王都に住む民衆たちは、ガドモア王国に勝利したことを知り、さらに次々ともたらされる情報により、アデル率いるネヴィル王国軍が主体となって敵を討ち破った事を知った。
年末に行われたアデルの派手な行進は、民衆の記憶に新しい。
道端でも市場でも酒場でも王都中、其処彼処で黒狼王の話題が満ち溢れていた。
「聞いたか? 戦の話を」
「聞いたとも! 何でもあの黒狼王が一人でガドモアを追い払っちまったってんだからなぁ」
アデルはノルト王国を立てる意味もあり、あえて二か国連合という形で戦ったのだが、細かい事情を知らぬ民衆たちは、アデル一人……つまりネヴィル王国軍だけでガドモア王国軍と戦ったことになっていた。
彼らが二か国連合で敵に立ち向かったと知るのは、もう少し経ってからのことになる。
「それも、敵将の首を挙げたというんだから、とんでもないこっちゃ!」
実際に敵将を討ったのはネヴィル王国大将軍のギルバートだが、ここでも話は捻じ曲がり誇張され、アデル自らが敵将の首を挙げたような風で伝わっていった。
もっとも、アデルが敵の首を挙げたのは事実である。それも騎士の、所謂兜首。
これが人の口から口へと伝わる際に、敵の主将の首へと変わっていったのだろうと思われる。
「歳は幾つだっけか? え? まだ十二、三? おいおい、冗談がきついぜ」
「ウチの娘と同じくらいじゃないか。やはり黒狼王には狼の血が流れているんじゃないか?」
アデルがノルト王国に来て約半年。その短期間にもかかわらず、黒狼王の異名はノルト王国の民衆にも知れ渡っている。
それほどまでにアデルの奇抜な衣装と振る舞いが、ノルトの民衆の心を鷲掴みにしたのだろう。
もっとも、アデルにとってみればこれは、黒狼王ゆえに黒歴史として葬り去りたい過去なのだが……。
「たった五千の兵で、五万の敵を破ったってよ」
「おいおい、そいつは間違いだぜ。敵は十万いたって話だ」
敵軍の数も人の口から口へ伝わるごとに膨れ上がっていった。
ちなみにネヴィル王国ではこの時の敵の数は二万五千あまりと記された。
一方のノルト王国では約三万と記され、ガドモア王国では敗北を隠し、ただ兵糧が尽きたために撤退したとのみ記された。
後世の歴史家たちの多くは、この時のガドモア王国軍の数を二万七千から八千くらいと見積もっている。
「何にしても凄ぇや! もうすぐ帰って来るんだろう? こりゃ、大変だ! 急いで祭りの準備をせにゃならんぞ!」
民衆は娯楽に飢えていた。凱旋ともなれば、それは王都を……いや、国中を引っくり返すようなお祭り騒ぎになるのは目に見えている。
民衆たちは黒狼王の帰還を心から待ちわびていた。少し若すぎるが、同盟国の新たなる英雄王の帰還を。
待っているのは民衆だけではない。
王宮で誰よりもその無事を喜び、帰還を待ちわびていたのはヒルデガルド王女であった。
あっさりと危なげなく敵の大軍を退けたと聞いたときには驚きもしたが、すぐに自然と納得し、受け入れてしまった。
ヒルデガルドにはアデルが、まるで古の物語に記される英雄のように思えてならない。
でも多分、いや、きっとアデルは少し恥ずかしそうに、そして困ったような顔をしてここへ戻って来るのだろうと。
それを想像すると、どうにも可笑しくてヒルデガルドは、一人でクスクスと笑い声を上げるのであった。
今日までお休みなので、もう一話くらいは更新したいところ……
明日からはまた地獄の始まり。
家にいくら籠ってもストレスは感じませんが、毎日の命懸けの通勤にはかなりのストレスを感じてしまいます。




