狩りはまだ終わらない
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撤退するガドモア王国軍を追撃する構えを見せつつ、アデル率いる連合軍遊撃部隊はティガブル城へと向かう。
連合軍遊撃部隊の追撃に備えていたガドモア王国軍は、適度な距離感を保ち続け、のちにティガブル城の方へと転進した連合軍遊撃部隊を見て逆撃の機会はないと思い、後方に対する警戒はしつつも完全撤退をし始めた。
そういった敵軍の動きは偵察に放った多数の騎兵により、アデルに逐一報告されていた。
間近に近付いてみて改めて見ると、ティガブル城の城壁の痛みは想像を遥かに超えていた。
「危なかった……我らの到着が少しでも遅れていたら、まず間違いなくこの城は陥落していただろう」
このアデルの呟きに麾下の諸将も頷いた。
「これを見ると、白馬将軍は城攻めも特に苦手というわけでもないらしい」
「しかし、彼の者はこの城を落とせませんでした。やはり、噂通り野戦が得意であり城攻めは苦手なのではありませぬか?」
馬に揺られながら、崩れた城壁の一部を見つめるアデルにブルーノが聞くと、
「……違うな……白馬将軍が考えているよりも俺たちの到着が早かった。いや、早すぎたと言うべきか。そのため、我らに対して備える時間が無かった。その結果、我らは有利な位置を陣取ることができ、敵に重圧を掛けることができ、それによって焦りを生じた敵の失態に付け入ることが出来たのだ」
連合軍遊撃部隊が城に近付くと、城壁の上に登った兵たちが手を振り、歓声を上げた。
それに応えるように、連合軍遊撃部隊の兵たちも槍を高く掲げて見せる。
空堀を跨ぐ跳ね橋が下され、城門が重苦しい軋みを上げて開く。
アデルは先頭に立ってその跳ね橋を渡り、城門を潜った。
門を潜ると路上に跪いた初老の貴族の姿があった。
アデルはその貴族、ブレナン伯爵を見てすぐに下馬し、ゆっくりと歩いて近付いた。
「御助勢により、何とか落城を免れることが出来ました。この城にいる全ての者たちに代わって、御礼申し上げまする」
面を上げず、首を垂れたまま礼を言うブレナンの手をアデルは自ら取って立ちあがらせる。
「お手柄ですぞ、ブレナン伯。この城が敵の猛攻に晒されながらも持ち堪えたのは、偏に伯の奮闘によるもの。我らはそれに少しだけ力をお貸ししたまでのこと」
「御謙遜を……アデル陛下御自らの御助力あればこその勝利でありましょう。して、我が王はいずれに?」
この時ブレナンはある勘違いをしていた。
援軍はこのアデル率いる連合軍遊撃部隊だけでなく、シルヴァルド王率いる本隊も駆けつけているものであると。
しかし、アデルと言葉を交わすうちにこの地にいる援軍が、ここに居る連合軍遊撃部隊のみであると知ると、その顔は驚愕に染まった。
「すると、すると、我が王は未だこの地に来る途上にあると? 城を囲む敵を追い払ったのはこの場に居るたった五千ですと? 信じられぬ……いや、いや、現に敵は退いたのだ……いやはや、まったく何と申すべきか……」
未だ信じ切る事が出来ずに目を白黒とさせているブレナンの姿が可笑しく、
「ま、自分でも出来すぎだと思っている」
と、アデルは苦笑した。
「と、兎に角、こ、こちらへ……ささやかではありますが、酒宴の用意をしておりますれば……ああ、御安心下され、果実水もご用意致しておりますれば……」
「御配慮痛み入るが、まだ戦いは終わってはいない。我が軍はこれより、敵の追撃に向かう」
この少年は何を言っているのか? もしかすると、勝利による興奮が未だ醒めずにいるのではないか思い、アデルを宥めようとした。
「いやいや、お待ち下され! 敵は彼の高名な白馬将軍ことバリス伯。彼の者は野戦に長けておりますし、先の退き際を見る限りでは必ずや逆撃の体勢を整えておりましょう。ですので今より追撃しても、いたずらに兵を損ねるばかりで、とてもではありませぬが戦果を望むことは無理かと……」
ブレナンの言葉にアデルはいちいちもっともであると頷きつつ、最後にはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「すまないブレナン伯、余が言い間違えた。敵を追撃するのではなく、敵を待ち伏せするのだ。作戦はこうだ…………」
アデルはその場で口頭のみで作戦を説明する。
ブレナンとてこの重要拠点を任される百戦錬磨の将だ。アデルの言わんとするところを即座に理解した。
「いや、いや、しかしですぞ! 敵を追い抜き待ち伏せするなど、危険でありましょうぞ」
「この城の傷み具合からみても敵将は凡将ではない。ならばそれを討つ機会があるならば、多少の危険を冒してでも狙うべきである。公よ、準備は?」
アデルは背後に控える叔父、ギルバートに声を掛ける。
「はっ、ぬかりなく。いつでも出陣可能です」
よし、とアデルは頷くと、
「では、夕闇に紛れて出陣せよ。余は公が戻るまでブレナン伯と共にこの城を守るとしよう。武運を祈っているぞ」
「はっ、お任せ下され! 必ずや陛下の御期待に応えて見せましょう」
「ああ、でも深追いは無用で。敵将を討っても討てなくても、一撃強襲離脱を」
「心得ております。では、御免!」
ギルバートは深々とお辞儀してからアデルの前から退くと、颯爽と馬に飛び乗り号令を掛ける。
「夕方まで追撃部隊は城外にて待機! 他は休憩ののちに城兵と協力して城の補修に取り掛かれ!」
ギルバートをはじめ、連合軍遊撃部隊に属する将兵たちは、アデルの勝利を疑わない。
小なりとはいえ勝利を積み重ねて敵を翻弄し、五千の寡兵で三万弱の敵を退けたのだ。
それはまるで魔法のようであり、僅か十三歳というその年齢も相まって、すでに一部の将兵たちからは神格化されはじめていた。
ーーー
夕闇に紛れ、ネヴィル王国大将軍であるギルバート率いる待ち伏せ部隊は進発した。
これにはネヴィル王国軍のみならず、グリムワルド、アムドガルらの手勢も含まれていた。
その数は千。荷駄隊を合わせると千五百の軍勢となる。
その全てが騎兵ないし、馬車である。ここでもアデルは持ち前の機動力を活かす作戦に出たのだ。
ギルバートらは敵軍の後をそのまま追わず、ある程度西に進んでから南下を開始した。
これは敵の偵騎の目を欺くためでもあった。
待ち伏せ部隊の快速進軍は目を見張るものがあった。
意気が下がり、ノロノロと後方を警戒しつつ撤退する敵軍を追い越すのは造作もないことである。
だがすでに荷馬車の半分は空。強行軍ぎみで進む部隊の体力の維持のために、一食当たりの食事量を大幅に増やした結果である。
「よし、ここにて荷馬車は待機せよ。索敵を怠るな。敵影を見たら即座に撤退せよ。無理に我々を待つ必要はない。では、これより我々待ち伏せ部隊は敵国に入る! 索敵は慎重かつ密に行え!」
ギルバートらは、ガドモア王国内に入って少しした所で待機し、敵軍の到達を待った。
待ち伏せ部隊の将兵らは、この作戦の成功を微塵も疑ってはいない。
「これは必ず成功する。敵は後方や側面からの追撃、急襲には気を配るだろう。敵国内であれば前方にも気を配るかも知れない。だが、自国内だとすればどうか? 後ろには相変わらず気を配るかも知れぬが、まさか前から敵が来るとは思うまい」
「ですな……それに国境を跨ぎ、自国に戻ったとあれば敵の将兵たちの気も弛むでしょうし……」
「撤退する敵軍を見るに、最後尾を守るのが白馬将軍ではないことは確認済みだ。だとすれば、中衛ないし前衛に白馬将軍はいる。主将をより安全に逃がすのならば、国境を越えたところで前衛に移動させるはず」
「いやはや、最初から最後まで陛下の手のひらの上というわけですか……こうなると些か敵将が憐れでもありますな。陛下の仰られるとおり、白馬将軍は決して無能ではないというのに……」
「城を攻めるにあたって、速やかに城外の敵勢力の排除をした手腕といい、退き際の隊列も定石通り整然としていたところを見ると、決して侮ることの出来ぬ相手ではあるが、相手が悪かったとしかいう他は無い」
ギルバート、グスタフ、ザウエル、バルタレス、シュルトの五人が、これから敵が来るであろう北へと続く道の先を見ながら言葉を交わす。
その時、送り出した偵騎が敵に見つからぬよう大きく迂回して戻って来た。
「敵軍が来ました! 歩みから見て、およそ一時間ほどでここに来るかと……」
「待ちわびたぞ! よし、よいか皆の者、これよりこそこそと身を隠す必要はない。胸を張り堂々としていろ。あたかも敵の援軍のようにだ。それではゆっくりと味方を装って近付くぞ、我が駈けたら後に続け!」
ギルバートは先頭に立つとゆっくりと馬を進め出した。
それに続いて待ち伏せ部隊もまた、ゆっくりと動き出す。
ただし、旗は巻いたままである。あくまでも見破られるまでは味方の振りを続けて近付く算段であった。
武漢コロナのせいで、日本どころか世界が滅茶苦茶ですね。
私の仕事にもモロに影響が出ています。サービス業等が落ち込んでいるかわりに、医療関係と一部の製造と流通などはデスマーチ状態。
私はデスマーチ側です。別の意味で死にそうです。
でもご心配なく! モチベーションは下がるどころか上がり続けています。
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