白馬将軍
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なんとか復活。時期が時期でもありインフルエンザも怖いし、また急速に広まりつつある武漢肺炎も超怖いしで、体力低下している今罹患したら死ぬかもしれんと、病院に行くのが本当に怖かったです。
「バリス伯、白馬将軍か!」
敵将の名を聞き驚く諸将。
この中にあってアデルだけが敵将を知らない。
「叔父上、白馬将軍とは?」
彼を知り己を知れば百戦殆からずと孫子にもあるように、まずは敵について知らねばならない。
年の割には軍歴の長い叔父のギルバートにアデルは聞いた。
「うむ、アデ……陛下は御存じなかろうがバリス伯爵は、東部戦線にて勇名を馳せた御仁でな。自分や子飼の騎士たちを白馬に乗せていることから、白馬将軍の異名を持つに至った。野戦の名手として名高く、特に騎兵を用いた攻撃によって幾度もイースタルの侵攻を挫いてきた」
それを聞いてアデルが思い浮かべたのは、三国志の初期の群雄の一人、公孫瓚。
公孫瓚もまた騎射の巧みな部下たちを白馬に乗せ、白馬義従と名付けていたことから白馬長史と呼ばれ恐れられていた。
「その、白馬将軍とその部下は騎射が巧いのですか?」
「いや、その様な話は聞いた事がないな。白馬将軍率いる白鳳騎士団は皆、たしか重騎兵のはずだ。私は主に北部戦線に居たため、白馬将軍については話でしか聞いたことがない。誰か白馬将軍、バリス伯について詳しい者はいないか?」
ギルバートが居並ぶ将たちに聞くと、一人手を上げる者がいた。
それは逃げ馬の異名を持つシュルトだった。
「詳しいとまではいきませぬが、何度か戦場を共にしたことがあります」
シュルトも三十代前半ながらも戦歴は長い。言うならば歴戦の猛者の一人である。
慎重な性格から、常に退路を確保してから戦うその様をかつての同僚らにからかわれ、逃げ馬などという不名誉な異名を付けられたが、本人は気にもしていない。
その慎重な性格であったがためにクングエルの乱でも同僚が次々と死す中、生き延びることが出来たのであった。
「大将軍閣下が仰られたとおり、白鳳騎士団は重騎兵からなる騎士団であります。全員が白馬に跨り、鎧兜も白色で統一されておりまして、遠くからでも目立つ存在であります。確かその数は二千騎ほどだったかと……」
「それだけの白馬を揃えるだけでも金が掛かる上に、白色の統一装備とくれば金が掛かるからな……それも重騎兵とは、恐れ入ったものだ。余程裕福なのだろうな」
長い貧乏暮しを強いられてきたギルバートの言葉には、多少のやっかみが含まれていた。
シュルトはそれには返答せず、白馬将軍についてさらに語った。
「白鳳騎士団は全て重騎兵であるがために、野戦ではその突進力をもって敵を突破、蹂躙するような戦い方をします。寡兵である我らが正面からこれに対すればホフマイヤー伯爵同様、ひとたまりもないでしょう」
わかっている、とアデルは頷いた。
「白馬将軍率いる白鳳騎士団か……強敵だな。騎兵が展開できる開けた場所での野戦に強いことはわかった。で、攻城戦の方はどうなのだ? 攻城戦となれば、御自慢の騎士団も無用の長物となるわけだが……」
「白馬将軍が城攻めを得意としているとは、見たことも聞いたこともありませぬ。もっともそれがしの知る限りでは、でありますが。そうなると副将なり何なりに、攻城戦の得意な者が居てもおかしくはありませぬな」
このシュルトの意見にアデルも同意である。
「敵軍の総数は敗走してきた味方の話によると二万五千から三万あまり。そのうち白鳳騎士団を含めて騎兵は三千から五千とのこと。最低数で見積もって二万から二万二千でティガブル城を攻めることになる。ティガブル城に詰める兵は三千。堅城とはいえ、どれぐらい持ち堪えることが出来るのだろうか? これは先を急ぎ、一刻も早くカティナの森を拠点として陽動を仕掛け、城攻めに集中できないようにしなければならない」
「森を拠点とするならば、敵も重騎兵を活かすことは出来ないでしょう。ですので敵も、あの手この手で森から誘い出そうとするに違いありません」
「だろうな。現にホフマイヤー伯爵は、重騎兵が最も活躍できる場所に誘い出され、敗れたのだからな」
ここでグスタフが手を上げて意見する。
「陛下、このカティナの森を拠点とするのはよろしいが、水源はいかが致しますか? 森の東にルノア湖がありますが、ここを水源とするので?」
「その積りだが、ここを敵に抑えられた場合のことも考えねばならない。余としては、カティナの森をティガブル城と同じく城と見立てている。基本方針としてこの森に籠るのだからそう考えざるを得ない。そこで問題なのが水。まさか森の中で悠長に井戸を掘るわけにもいくまい。この森の北にあるアグの村で、ルノア湖以外に、小川でもいいから他の水源が無いか聞く必要があるな。水源があればよし、無ければ敵とルノア湖の取り合いになるやも知れぬ。が、それはそれで結果として敵の兵力を分散させることになるので、城方への実質的な援護にもなろう」
「敵方の兵数によっては撃破も視野に入れるべきでしょうな。小なりとはいえ勝利の報を得れば、城方の士気も上がりましょう」
このザウエルの好戦的な意見をアデルは是とした。
「敵が兵力分散の愚を冒すのならば、これに乗じる。正面から戦えないので出来ることは限られているが、出来得る限り城方の援護をしなければならないだろう。では、取り急ぎこのアグの村へと向かうとしよう」
再びアデル率いる連合軍遊撃部隊は進軍を開始した。
目指すはカティナの森の北にあるアグの村。
好天にも恵まれた連合軍は進軍速度を維持すること出来た。
道中でアデルは一人馬上で呟く。
「俺には知識はあっても経験が足りない。いや、足りないではなくて全く無い。策を立てることが出来ても実行するに当たっては、叔父上をはじめとする皆に頼らねばならない。その立てた策においても、明確な根拠を伴わねば動いてはくれないだろう。前世の記憶がどうのこうの言っても、誰も信じないだろうからな。前世の記憶とやらは、あくまでも参考書止まりということで、純然たる答えではないということを、今更ながらにして思い知ったよ……」
アデルは心細さを感じていた。そして弟たちの存在の大きさを。
いつも三人で前世の記憶を元に相談してきたのに対し、今回ばかりは自分一人で全て考え、決めねばならないのだ。
一人ぶつぶつと呟き続けるアデルを心配したのか、その左右を護るブルーノとゲンツが心配そうな顔で見つめていた。
そんなアデルを見かねたゲンツがついに声を掛けた。
「いったいどうしたってんだ? アデルらしくねぇぜ」
いかに身分が変わろうとも、相変わらず昔からの友人として話しかけて来るゲンツに、アデルは苦笑する。
「いやぁ、これといった策が思いつかなくてなぁ……森を拠点としてからは行き当たりばったりなんだよなぁ……」
それを聞いたゲンツは白い歯を見せて笑った。
「アデルは難しく考えすぎなんだよ。策なんてようは悪戯とおんなじだろ? 誰に仕掛けるかを決めて、何処でやるかを決めて、道具を用意して、あとは出たとこ勝負じゃねぇか」
「ゲンツ、戦の策略をお前のくだらない悪戯と一緒にするな! 陛下! この馬鹿者のいうことなんぞに耳を貸してはいけませんぞ!」
無礼なゲンツをブルーノが窘める。このやりとりも何度見たことか。
だがこのありふれた二人のやりとりがアデルの心を軽くした。
そして、このゲンツの一言によって後にアデルはあることを閃くのであった。
公孫瓚好きなんです。演義だと劉備の知己で善人として描かれていますが、実際はその反対でとんでもない奴なんですよね。そのあまりのギャップに惹かれてしまうんですよ。
董卓の推薦によって将軍になり、さらに候に封ぜられ、反董卓の韓馥を攻撃したりと演義とは真逆で董卓よりなんですよね。
ちなみに演義だと反董卓連合軍に参加してますが、正史では一貫して董卓よりを貫いています。
演義しか知らない方は是非、正史を読んでみて下さい。そこにはあなたの知らない別の魅力溢れる公孫瓚の姿があるはずです。




