派兵戦力
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投稿したと思っていたけど、投稿されてませんでした。ごめんなさい
アデルの元を発ったダグラスたちは、エフト族の商人に少なくない金を握らせ、冬山を越える準備と道案内をさせた。
土地勘のある者の案内により道に迷う恐れは無いが、凍死という常に死と隣り合わせの山越えは、老いたダグラスの身には厳しいものがあった。
なれどダグラスらは不屈の精神をもって山越えに成功し、手足に幾つもの凍瘡をこさえながらも、予定通りエフト王国へと辿り着いた。
ダグラスは、これまた年若き王であるスイル王に会うと、アデルの親書を手渡した。
スイル王はその場で親書を紐解いて読んだ。そして読み終えた親書を隣に座っている父親のダムザへと手渡した。
ダムザは親書を読み終えるとこう言った。
「御使者殿、アデル殿にお伝え下され。我らエフトの民に生き残る道を示してくれたことに深く感謝すると。春になり雪が融け、ノルトとの同盟……いや、三国同盟が結ばれた暁には、さっそくにも我が国はその責務を果たすと」
ダムザの言葉にスイル王も頷き同意を示す。
こうしてエフト王国での役目を終えたダグラスは、ネヴィル王国目指して再び冬山へと挑む。
それに際してエフト王国からも十分な支援を受けることが出来たダグラスは、これまた予定通りネヴィル王国へ達する事が出来たのであった。
帰還したダグラスらの手足は凍傷寸前。顔も凍瘡で真っ赤であった。
その姿を見てカインとトーヤは直ぐにぬるま湯を用意させ、手足を浸からせた。
無事かどうかは兎も角として、何年かぶりに帰還したダグラスを懐かしむ二人の声を遮り手足を湯に漬け、治療を受けながらダグラスは、カインとトーヤの二人以外を人払いさせた後、懐深く隠し持っていた命令書を手渡し、さらに口頭でアデルの命を伝えた。
「山が通れるようになり次第、早急且つ速やかに派兵可能な最大兵力を送るべしとのことであります。編成も国中の騎兵を掻き集めよとのこと。陛下はこう申しておりました。敵に対して我が方は少数。なれば、機動力を以ってしてこれに対抗すべきだと。それに陛下は彼の地でもしきりに馬車を集めておいでの御様子でしたが……」
それを聞いたカインとトーヤは頷いた。
「陛下の御命令、このカイン・ネヴィル、トーヤ・ネヴィルの両公爵、しかと承った。直ちに将を集め、軍議に入るとする。ダグラス、よくぞこの困難な任務を成し遂げてくれた。陛下に代わり礼を言うぞ。それと…………おかえり、ダグラス」
それはかつて爺と呼ばれていた頃と変わらぬ、温かみのある声であった。
不覚にもダグラスの涙腺が緩む。同じようにカインとトーヤの頬も濡れていた。
ダグラスは二人にダレンの最後を伝えようとしたが、
「ダグラス、父上は最後まで立派であらせられたか?」
「それはもう、それはもう…………」
「ならば今は何も言わずともよい。陛下がお戻りになられるときには、父上も一緒にお戻りになられるはず。それに今は悲しみに暮れている場合ではない。国家の大事である。ネヴィル王国の王族として、成すべきことを為さねばならない」
そう言い終えると、カインはアデルが書いた命令書を紐解き、読んだ。
そして読み終えるとすぐにトーヤへと渡した。
「なるほど、アデルは……陛下はこの戦いの後にも備えるようにと……今までは我が国は、ガドモアから見てただの一辺境の反乱だったが、この戦い以降はノルト王国の衛星国家と看做すだろうと……」
「つまり、今まで以上に明確に敵として、積極的に攻めて来るだろうと」
「急ごう。さっそく軍議だ。ダグラスは治療に専念。次の次の戦には、卿にも将として参加して貰うことになるだろう。それと、これは陛下がご帰還なされてからのこととなるが、ダグラス卿をネヴィル王国の男爵に任ずるとの仰せである。おめでとう!」
ダグラスは感極まって声も出ない。
まだ感覚の鈍いぬるま湯に漬けた手足を桶から出し、跪こうとするのをトーヤが慌てて止めた。
「不肖臣、敗残の身の上でありながらもこのような栄誉を賜りしこと、恐悦至極恐縮しに御座りまする」
「念のために言っておくが国のために、陛下のために軽々に命を投げ打つなどとは申すなよ? 陛下は卿の経験と識見に何よりも重きをおいておられるのだ」
「そう、ダグラスだけじゃなく、ウズガルドもグスタフも三人にはまだまだこれからもずっと、俺たちや国を支えて貰わないとね!」
カインとトーヤはダグラスに養生せよと命じ、部屋を後にした。
一人残されたダグラスは、窓に目をやり外を見た。そこには懐かしきネヴィルの冬の風景。
その窓の外の虚空に向かってダレンに詫びた。
「お館様…………お館様は某に後を頼むと仰せられましたが、某としてはこの地に戻り次第、そちらへと参る覚悟で御座いました。ですが、それはどうか今しばらくの御猶予を頂きたく存じ上げ奉りまする。御三方が、この老い耄れめを必要だと言ってくれるその間だけは、この世に留まることをお許しくださいませ……」
ーーー
先々代国王ジェラルドを筆頭に、ギルバート、カイン、トーヤの三公爵、そして山海関の守将であるウズガルド、尚書令のジョアン、グスタフ不在につき山岳猟兵たちをいま現在纏めているハーローらが、王都トキオにある都庁の会議室に集められた。
カインが口頭でアデルの命令を皆に伝える。
「早急且つ速やかに派兵可能な最大兵力を、それも騎兵を中心にか……」
「連絡用に二、三十騎残し、あとはすべて動員すべきだろう。この地を防衛するに当たって、騎兵を残しておいてもあまり役に立たぬからな」
ウズガルドは山海関を守るにあたって、騎兵は必要ないと考えていた。
これには他の将たちも同様の考えである。
「山岳猟兵から人数は出せません。今でもただでさえ広い範囲を哨戒するのに手いっぱいで、これ以上人数を減らされてしまうと、哨戒網に穴が開きかねません」
むしろ敵の来寇を予想するのであれば、増員して欲しいぐらいだとのハーローの意見ももっともである。
「この地での防衛戦なれば、戦える者を掻き集めれば五千にも六千にもなろうが、こと遠征となると……我が国のいま現在の国力からみて、三分の一の二千が精々でしょう」
この二千という数は、尚書令のジョアンが持参した数々の資料を見ながら、算盤を弾いて出した数である。
「二千か……もう少し、もう少し出せぬか? せめて千増やして三千」
ジェラルドとしては、かわいい孫が無事に帰って来るためにも、一兵でも多く送ってやりたい。
「三千ですか? 出来ない事はありませんが、かなり無理をすることになります。それに騎兵が多めということは、それだけでかなりの負担増となりますので……」
騎兵は機動力といい突破力といい、戦場では無類の強さを誇るが、それだけに金食い虫でもある。
「秣とかの輸送のために用意する馬車の数も膨大な数になるだろう。農耕馬まで送り出してしまうと、国民たちからも不満の声が上がろう」
「一千騎が限界じゃな。あとは歩兵二千、合わせて三千……これが、今のネヴィルの限界じゃ……」
少ない、とこの場にいる誰もが思ったことだろう。
一国の王に三千しか兵を送れぬのかと……
「大丈夫だろう。アデルならば三千でも。機動力を重視しているということは、多分敵と正面から当たらずに、陽動か何かで敵を引き摺り回すつもりなんだろうし」
「うん、きっと上手くやって見せるに違いない!」
カインとトーヤは遠く北の地にいるアデルを、同じ記憶を持つ者として信じていた。
どんな困難に見舞われようとも、必ずや記憶の中から最適解を導き出すであろうと。
「軍の指揮は俺が執る。だから父上、安心してくれ。今度は必ず、二人で戻って来るから…………」
ネヴィル王国大将軍の地位にあるギルバートが、遠征軍の直接の指揮を執ることに決まった。
ウズガルドは今までと同じく山海関の守備。ハーローもまた、山岳猟兵を率いて山地の警戒に当たる。
帰還したダグラスは軽度とはいえ凍傷を癒すために療養。ジェラルドは老いており、カインとトーヤは若すぎる。
となれば、後はギルバートしかいない。
「副将として、ザウエル、バルタレス、シュルトも連れて行く。ハーロー以外の新参にも手柄を立てる機会をやらねばな。後は、ロルトとクレイヴも連れて行く。ダグラスの代わりにな……二人合わせればどうにかダグラスの代わりにはなろう」
ロルトとクレイヴは、ダグラスが面倒を見ている若者たちで、その親は既に戦死しているがネヴィル家の従士として働いていた者たちである。
両名とも才能豊かであり、将来を嘱望される若者たちの代表的存在である。
こうしてネヴィル王国はノルトの地で待つアデルの元に三千の兵を送る事を決定し、急ぎその準備に取り掛かった。




