同盟締結
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話の終わりに、現時点での地図を描きました。
絵心が全く無く、見づらいと思いますが、どうかご勘弁を。
「貴国が我が国に多大なる貢献をしていただけるのであれば、二万以上の兵を貸すこともやぶさかではない」
そう言いながらシルヴァルドは、二万の兵をアデルに貸した場合、ネヴィル王国がどう動くのかを予想していた。
短い時間で導き出した答えは、ガドモア王国侵攻の橋頭堡の確保。
おそらくはネヴィル王国から、ガドモア王国へ通じる道の出口と、その周辺の確保であろうと見ていた。
そしてその予想はズバリと的中していた。
だが、その方法まではこの短い時間で答えを導き出すことは出来なかった。
いったいどのようにして、二万の兵を敵に気付かれずに細い山道を通過させるのか?
シルヴァルドとしては、今すぐにでも兵を貸し与えてみたい衝動に駆られていた。
その後もアデルとシルヴァルドの二人は、農業、軍事だけに留まらず、商業、政治、経済と時間が許される限り、語り合った。
無論、王と王であるため、腹の探り合いをしながらであったが。
語り合ううちに、二人の頭と身体は次第に熱を帯びて来た。
だがしかし、その熱の質は必ずしも同一ではなかった。
シルヴァルドから見ればアデルは若いながらも、自分と対等かそれ以上の知性と知識を持っている、興味深い存在。
その異質さに惹かれ、興奮からくるものだとするならば、一方のアデルは、いつ自分が襤褸を出してしまうのかという恐怖感を伴ったものであった。
アデルは自分自身をそれほど高く評価してはいないのである。
所詮は前世の記憶頼りのもの。言うならば、カンニング行為に近いものであり、その知識や記憶を用いるのに、少なからず後ろめたさを感じてすらいた。
もし仮に、この時代が平穏であったならば、ここまで前世の記憶と知識をひけらかさなかったかもしれない。
それに、シルヴァルドと話している内に気付いてしまったのだ。
自分の語る内容が、どことなくちぐはぐとしており、言うなればどこかしらフワフワと浮いたような、地に足が着いていないような、まるで経験を伴っていない机上の空論であることに。
しかしそれをシルヴァルドとしては、別段気にしてはいなかった。
アデルの年齢であれば、経験など無きに等しいのが当たり前である。
ただ頭の回転の速さと知恵の冴え、この二点を重視していたのだった。
二人の話し合いは、歓迎パーティの準備を促す為に訪れた者のノックの音が鳴るまで続けられた。
「陛下、そろそろお召替え等、ご用意の時間で御座います」
扉の外から掛けられた声に、シルヴァルドは、わかった、直ぐに行くと伝えた。
「残念だが、時間のようだ。貴殿と話していると、つい時間を忘れてしまう」
そう言ってシルヴァルドが微笑むと、アデルもまたぎこちないながらも笑みを返した。
「大変有意義な時間でした。もうこんな時間になっていたのですね」
アデルは暗くなった室内を見回した。
すでに陽は落ちている。
今は暖炉の火だけが、二人を静かに照らしていた。
「今宵は貴殿を歓迎する祝宴を行う予定である。余はその場で、貴国との…………いや、貴国のみならず、エフト王国とも、同盟を宣言するつもりである」
アデルはシルヴァルドの決断の早さに驚き、目を見張った。
「感謝します。三国が真に力を合わせれば、如何に大国であろうとも、ガドモアを討つことは不可能ではないでしょう」
「なに、三国ともにガドモアには苦渋を飲まされているのだ。共に轡を並べて、憎きガドモアを討ち果たさん」
ノルト王国としてはガドモア王国は、突然臣従を要求してきたり、それを拒否すると度々侵攻してきたりと厄介きわまる敵。
ネヴィル王国にとってガドモア王国はあらぬ罪を着せ、名誉を穢した上に全てを奪おうとした、憎むべき敵。
では、エフト王国から見たガドモア王国はというと、これもまた敵なのである。
エフト族は元々、中つ原と呼ばれていた、現在のガドモア王国の中央から西部にかけての地域に国を建てていた。
これを今では、古エフト王国と呼ぶ。
この古エフト王国は、南西部から東部にかけて俄かに興ったガドモア王国によって滅ぼされ、その生き残りがコールス地方へと逃れ、現在のエフト族の元となったのである。
エフト族とすれば大昔の話とはいえ、ガドモア王国は国を滅ぼした仇であった。
二人は立ち上がり、共に部屋を出た。
部屋を出るとランタンを持ったブラムとユンゲルトの二人が待っていた。
シルヴァルドはブラムに続き、アデルは饗応役を務めるユンゲルトに従い、別れた。
ーーー
「随分とご機嫌のようで…………顔色も、いつになくよろしゅう御座いますな」
と、先導するブラムが振り返らずに言った。
それを聞いてシルヴァルドは、堪えきれず、くっく、と笑みを零す。
「面白いよ。彼の王は。ブラム、卿はこの国に二人といないほどの智者であるが、卿は土壌の改善方法とやらを知っているか?」
「はて? 連作障害を回避するための方法なら知っておりますが、それとは違うので?」
「では、農薬という言葉は?」
「薬、ですか? 作物の?」
ブラムはこれらの言葉がアデルの口から出たものであることを、瞬時に察した。
「アデル王は、我が国に今現在続いている不作の原因を知っているそうだ」
シルヴァルドの顔には、絶えず笑みが浮かんでいる。
「何ですと!」
驚いたブラムは、思わず歩みを止めそうになった。
「しかも、その解決方法までも、知っているそうだ。そしてそれに関する物を、無償で提供してもよいと。ただし、兵を二万貸せとも言われた」
ブラムは唸った。
もし仮に、連年続く不作の原因を取り除くことが出来るのであれば、二万の兵を貸しても十分にお釣りは来るだろう。
「その話、どうにも俄かには信じられませぬ」
「すでにエフト族にその方法を試し、一定の効果を上げているとのことだ。話して見てわかった。彼の者は、意味の無い嘘など吐かないと」
「その話をお信じになりますので? もし本当だとするならば、エフト族に使いを出し、建国を認める代わりにその方法を聞きだしてみては如何でしょう?」
「駄目だな。卿は彼の者を甘く見過ぎている。その程度のことを考えていないと思うか? 彼の者が言うには、石灰岩を加工した物が必要らしい。残念ながら我が国には、大量の石灰岩を産出する地域は無いし、それを加工する技術もない」
「我が国でも知らないそのような技術を、新興の小国がお持ちだと思われますか?」
ブラムにそう言われて、シルヴァルドはピタリと足を止め、顎に手を添えて考え始めた。
そんなシルヴァルドを、ブラムは黙って見つめていた。
こうなると、シルヴァルドは自分が納得するような答えを導き出すまで、梃子でも動かなくなる。
「そうだな、考えられるとすれば、それはネヴィルが特殊だということだろうな。例えばだが、今まで得た情報から、ネヴィル王国は半ば陸の孤島に等しいとも言える。半ば閉鎖されたような厳しい環境下に置かれ、生き残るためにさまざまな知恵を巡らせたのだとしたらどうだ? その結果として、その地方独自に伝わる技術の数々があっても、それほど不思議なことではない」
「やらせてみる御積りで?」
シルヴァルドの様子から見れば、聞くまでも無い。だが、ブラムは敢えて聞いてみた。
「ダメで元々ではないか。これ以上悪化することもあるまい。それにもし全てが上手く行ったとし、兵を貸すこととなったとしても、問題無かろう。あくまでも貸すだけであるし、貸した兵を無駄死にさせないためにも、口は出すつもりだ」
もはやブラムは何も言わなかった。
何を言っても、今のシルヴァルドに自分の声は届きそうもない。
それほどまでにシルヴァルドが、アデルという少年に惹かれているのを知り、軽い嫉妬を覚えていた。
ネヴィル王国建国時点の周辺図
地図を掲載しようとして、みてみんのコードを打ち込んだら数字を間違えていて、バニーガールの絵が出て来て思わず、はぁ? となったのは内緒です。




