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提案

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感謝です!


「遠路はるばる我が国へようこそ。余がノルト王国第六代国王、カール・シルヴァルド・ノルティアである」


 シルヴァルドの声に力強さは無いが、良く通り聞き取り易い。


「余がネヴィル王国()()()国王、アデル・ネヴィルである」


 対するアデルは声変わりもまだな、ボーイズソプラノ。

 歳不相応な体格と恰好には、はっきり言って違和感を覚えてしまう。


「まずは礼を言いたい。当時の立場上、やむを得ず貴国を攻めたにもかかわらず、我が国の宝剣を返還してくれたことについて、国を代表して厚く礼を言う。その礼として心ばかりではあるが、これらの品を進呈したい」


 アデルが言い終わると同時に、後ろに跪いていたトラヴィスは立ち上がり、今度こそは本物の羊皮紙の目録を広げ、音物の品々を読み上げていく。

 オリーブ油やオリーブ石鹸を始め、オパール、白磁と続き、そして目玉の品である岩塩が読み上げられると、居並ぶ廷臣たちの間からざわめきが起こった。

 トラヴィスは目録を読み終えると、羊皮紙を丸めた。

 そしてゆっくりと玉座に近付き、階段の段差の少し手前で立ち止まった。

 シルヴァルド王の傍らに控える宰相ブラムが、階段を降りてトラヴィスの差し出す目録を受け取る。

 トラヴィスは一礼してから回れ右をし、アデルの後ろへと戻ると再び膝を折り跪いた。

 

「素晴らしい品の数々。ありがたく頂戴しよう。貴殿の父君の御遺体は棺に入れ、懇ろに葬っているが、希望するならば御遺体を御引渡ししよう」


 ノルト王国もまた武を重んじる国柄。敵将とはいえ、見事なる戦いぶりと貴族として相応しき振る舞いをしたダレンの亡骸は、刎ねた首を糸で縫い直し、貴族に相応しき棺に入れ埋葬されていた。


「重ね重ねの配慮に感謝する。当時の互いの立場上、全ての出来事は仕方のなかったこと。当国としては遺恨なし。願わくば、より良き関係を築きたいと思っている」


 父の死に触れられたアデルは、ここで涙を流してはならないと、瞼の裏に溜まった熱に堪えていた。


 それが本心からかどうかはわからないが、同感である、とシルヴァルドは言って頷いた。


「また、我が国の将兵らが貴国の世話になっていると聞く。長い間迷惑を掛けた詫びとして、これを受け取って貰いたい」


 アデルはゆっくりとした動作で懐に手を忍ばせた。

 その動きにノルトの近衛騎士たちは敏感に反応する。

 が、近衛騎士たちの動きを、シルヴァルドは僅かに手を振って制した。

 アデルは懐から革袋を取り出すと、中から子供の拳ほどの大きさの一つの石を取り出し、それを皆に見せつけるかのように高々と掲げて見せた。

 それは今回の切り札の一つである、虹石ことアンモライトであった。


「おお、何だあれは!」


「七色に光っておる!」


 廷臣たちの興味深そうな視線と違い、一瞬だけシルヴァルドは眉間に皺を寄せた。

 シルヴァルドはそれを見た瞬間、噂に名高い虹石であることを見抜いた。

 そして、それを自分へと献上する意味をも、一瞬にして悟った。


(…………やるな…………やはり、こうでなくてはな。父王の遺骸の返還と捕虜の返還、話の流れからいっても受け取るしかない。いや、ここで受け取りを拒否しても、この者は虹石とやらに心奪われ、目を輝かせている廷臣たちの内の誰かに押し付けるに違いない。どちらにせよこの国に虹石が存在することになれば、ガドモアのエドマイン王の欲を刺激するだろう。しかし歳や顔に似合わず、随分とえげつない売り込み方をするものだな)


 今ここでガドモア王国に大攻勢をかけられるとなると、ノルト王国単独では兵力的に、少々厳しいところではある。

 そういった意味では、小国であるネヴィル王国の兵力でも当てにしたくもなるだろう。

 ましてやネヴィルの兵は、少数でも勇猛果敢であることは、先の戦いでも明らかである。

 当てにするとなれば、厚遇せねばならない。ノルト優位の不平等な関係を結んだとしても、戦場でサボタージュや離反されたのでは目も当てられない。


(ここは素直に受け取っておくとするか。どのみち最初から何らかの盟約を結ぶつもりではあったし、ネヴィル王国が対等な同盟関係を望むと言うのならばそれはそれでよい。その代り、課せられた義務や責務を果たして貰うだけのことだ)


「余も初めて目にするが、虹石の名に恥じぬ何と眩き輝きか! 聞くところによればその価値は計り知れず、僅かな欠片でも一城に匹敵すると聞く。そのような秘宝、たとえ余でも受け取るには畏れ多い」


 どっちみち押し付けて来るだろうがと思いつつも、シルヴァルドは一応遠慮して様子を見た。


「聞けば、貴国に世話になっている我が将兵たちは、虜囚ではなく客分として扱っていただいているとか…………そのような厚遇、このように物で返すのは無粋ではあるが、そこはどうか目を瞑り、受け取って頂きたい」


 このようなやりとりが二、三続いた。

 双方とも欠伸がでるような茶番であると思いながらも、まるで示し合わせたかのごとく形式的なやりとりの末、遂にシルヴァルドが折れる形で受け取った。

 シルヴァルドがアデルに厚く礼を述べる。

 近付いてきた近衛にアデルは虹石を渡すと、アデルは弾かれたように急に床几から立ち上がった。


「今日この日、両国の仲は深まりを見せた。これは記念すべきことであろう! どうだろうか? シルヴァルド殿…………この良き関係を、今日一日だけではなく、永遠のものとするべきではないだろうか? 余は…………アデル・ネヴィルは提案する。ノルト王国そして我がネヴィル王国、そして近々建国されるエフト王国の三国は手を結び、西部連合を結成し、憎きガドモア王国を打ち倒そうではないか!」


 ざわ。と玉座の間が揺れた。そのざわめきときたら、先程の岩塩のくだりとは比較にならないほどであった。


「エフト王国だと!」


「三国同盟? 西部連合だと?」


「笑止! 馬鹿げておる!」


「小国が、粋がりおって!」


 廷臣たちの間から、多数の怒号や嘲りの声がわき上がる。

 だがアデルは顔色を変える事無く、ケロリとした表情で三国同盟のメリットを語った。

 

「北から南へと貫く交易路を通せば、類を見ないほどに三国は栄えるであろう。そうして三国共に地力をつけていけば、いずれはガドモアをも凌駕し、打ち倒すことも可能となる!」


 そう言いながらアデルは内心でこれでは説得力が弱いし、さらにそう上手くはいかないだろうし、第一にガドモアが黙って指をくわえて見ているはずもないと思っていた。

 これにはシルヴァルドも同じ考えであった。

 が、しかしである。このままでは、ネヴィル、ノルト両国ともジリ貧であるのは確実である。

 このまま個々で当たっても、ガドモアとの国力差にじわりじわりとすり潰されかねない。

 そうなれば離反相次ぎ、滅亡の憂き目を見るだろう。

 この後アデルは一通り言葉爽やかに西部連合のメリットを語り、それが終わると後の事はシルヴァルドに丸投げした。一目見てわかったが、シルヴァルドは噂に違わぬ聡明な王。

 後は放っておいても、勝手に最良の落としどころを見つけるだろうと。


「中々に魅力的な提案ではあるが、即答はしかねる。事が事であるため、臣らと話してから決めたいと思う」

 このシルヴァルドの言葉にアデルは内心、ホッと胸を撫で下ろすとともに、最低限は果たせたと確信した。

 だがシルヴァルドとしては、最初に比べて最後の方は手抜きともいうべきアデルの投げやりっぷりに、少々拍子抜けしてもいた。

 もう少し奥深く突っ込んだ遣り取りがあると期待していたのだ。


(それは後のお楽しみということかな? しかしまさか余に完全に丸投げしてくるとはな…………意外といえば意外。果たしてこの意外性こそが、この者の本質なのだろうか?)

 

「確かに事が事。納得がいくまで話し合われるがよい。その間、余はこの城で待たせて貰う」


 解けかけた緊張のせいか、背に背負った二本の剣が重く感じた。

 今はただもう、この二本の剣を一刻も早く放り投げて身軽になりたいという思いが、アデルの胸中を占めていた。

 

 こうして若き王と若すぎる王の会見は終わった。

 玉座の間を後にしたアデルたちには、それぞれに部屋が宛がわれた。

 だがすぐにトラヴィス、ブルーノ、ゲンツの三人は宛がわれた部屋を出てアデルのいる部屋へと集まった。


「まぁ半分は出来レース、ああ、つまりはやる前からある程度結果はわかりきっていた事だからな。でも、完全にというわけじゃなかった。不測の事態によって、交渉そのものが出来ない可能性もあったわけだ。それにしても、一触即発の状態になった時には流石に肝が冷えたよ」


「ははは、俺はもう終わりだと思ったぜ」


 と、ゲンツは笑った。

 ブルーノはというと、やや神妙な顔つきをしていた。


「陛下、お許し下さい。五殺の誓い、どうやら臣は守れそうにありません」


「ああ、ノルトの近衛は皆手練れだな…………上手くいって一人、さらに刺し違えて二人…………三人は絶対に無理だな。下手すりゃ一人だって倒せねぇかもな」


 一瞬たりとはいえ、死を決して向き合ったからこそわかる相手の実力。

 ブルーノもゲンツも、己の未熟を悟ると共にノルト王国の近衛騎士たちの実力の高さを知った。

 第一、二人とも成人したばかりの青年。それも少年の面影を強く残している。

 多少剣の腕を褒められたり、力自慢であったりしても容易に熟練の大人との差は埋まるはずもない。

 ただ、意気込みだけはあの場の誰よりも勝っていた。二人はそう思いつつも、その顔は次第に俯いていった。

 そんな二人がもたらした重い空気を、打ち払いたかったのかどうかはわからないが、トラヴィスはアデルに唐突に質問をした。 


「陛下はこの同盟が、我らの望む形で結ばれると思いますか?」


「ああ、十中八九大丈夫だろう。何せタイミングが良かった。ノルト王国を襲った数年にわたる天候不順。これが大きい。これがなく、ノルトが万全であったならばこうまで上手くいかなかっただろう。それにシルヴァルド王は聡明だ。今ネヴィルやエフトを敵に回す愚は犯さないだろうし、もう後は彼に全部任せちゃって大丈夫だろう。さてと……あとは小国のネヴィルが、大国のノルトとどこまで対等に扱われるのかを楽しみにしながら、ここでゆっくり結果を待つとしようか」


 そう言ってアデルは、二本の剣を留めていたベルトを外してソファーへと放り投げると、凝った肩を解すように大きく伸びをした。


 

魔女の一撃…………ドイツじゃぎっくり腰をこう言うそうで…………痛いんだけど! マジで!


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