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リルストレイム城内へ

評価、ブックマークありがとうございます!


書いていたら目安の文字数三千を越えたので、とりあえずの投稿。

来襲の月曜までには、絶対に次を


リルストレイム城下でのアデルの奇行は、直ちに城内にいるシルヴァルド王への元へと伝えられた。


「陛下のお膝下での軍事演習とは! 我が国を馬鹿にするにもほどがある!」


 といきり立つ者と、


「聞けば兵たちの練度は相当のものとか。これは我が国に対して、傭兵のような売り込みではないか?」


 と考える者もいた。

 ノルト王国の主であるシルヴァルド王とその傍らに控える宰相ブラムの二人は、口を噤んだままアデルの一連の行動について、合理的な答えを導き出そうとしていたのだが、これといった納得のいく答えを出せずにいた。


「爺、これはいったいどういうつもりなのだろうな?」


 シルヴァルドとしては、他国の者に城下での演習などされては、ある意味面子を潰されたともいえなくもない。だが、ブラムが見る限り、その口調に怒りの色は見えなかった。


「はて…………単なる示威行為…………だけということはないでしょうが…………かの王は小賢しき小細工が好きなようですからな」


「小細工か。その小細工一つで、世に賢者と謳われる爺や英邁と称される余がこうして振り回されているのだから、たいしたものではないか?」


「小細工は所詮、小細工に御座います」


「だがその小細工が後々に響いてくることもあろう。努々油断はせぬことだ」


「で、如何致しますか?」


「どうもこうもあるまい。予定通り、余はアデル王に会う。それだけだ」


「御意。しかしながら、彼の王の行動に不穏の影なしとはいえますまい。警護を厚く致しますか?」


「無用。今アデル王が余を弑して何の得があるというのか? 全て予定通りでよい」


「はっ」


 普段のシルヴァルドならば、今少しアデルの行動について深く考え、何らかの自身が納得のいく答えを導き出したかもしれないが、今日の彼にそれは無理であった。

 待ち望んでいた対面を前にして、朝から心は浮ついていた。



ーーー



 大通りを抜け、王城に入るまであと少しといった所で、近衛の一人であるゲンツが、不意にアデルに馬を寄せて来た。


「結局、何で突然演習したんだ?」


 ずけずけと思った事をそのままぶつけられるのは、幼馴染の特権だろう。

 頭の上にクエスチョンマークを幾つも浮かべているゲンツの問いに、アデルは笑いながら答えた。


「ははは、特に意味は無いよ。その場のノリ、ユンゲルト伯爵にも言った通り、ただの余興さ」


「は? じゃあ俺たち意味の無いことをやらされたっていうのか?」


「う~ん、演習自体には意味が無いけど、やったことにはちゃんと意味はあるんだよなぁ…………わかり易く説明するとだな…………」


 ゲンツに対してのアデルの説明はこうである。

 自分たちはこれまで道中で、打算に基づいた行動を一貫して行って来た。

 道中の貴族たちへの贈り物という姿を借りた売り込みなどが、それである。

 したがって、今回の演習も当然ノルトとしては、何かしらの打算に基づいた行動だと思うだろう。

 だが、今回は完全に即興、ノリで行ったものである。そこになんら意味など無い。

 であるからこそ、勝手に深読みして多少は混乱するはずであると。

 冷静な相手ほど交渉し辛いものはない。怒りでも何でもいいので、少しでも相手の感情を揺さぶり、隙を窺う事が出来ればとの考えから思いついた一手であった。


「ま、ウチはもう形振り構ってられないからな。打てる手はどんなせこい手だろうとなんだろうと、打てる時に打っておかないとな。でないと、死んでも死にきれないだろ」


 そうこうしている内に、再びユンゲルトが後方から馬を寄せて来た。


「誠に恐縮でありますが、これより某が御案内つかまつりまする。某の後に御続き下さいますようお願い申し上げまする」


「御苦労である。了解した。万事よろしく頼む」


 王都リルストレイムは三重の城壁によって守られている。その二つまでをネヴィル王国軍は既に潜っていた。

 そしていよいよ最後の城門、城への入口である第三城門を潜った。

 門を潜った先に広がるのは、 荘厳かつ佳麗な城と手入れされた美々しい庭園。まさに風光明媚と言う他ない光景が広がっていた。

 ネヴィル王国には城は無い。出征経験のある将兵らは別として、ゲンツなど国から出たことが今まで無い者たちは、この巨大で美しい建築物を前にして、口から魂を抜かれたように呆然と見上げ続けていた。

 

「実に美しい城ですな。ゆくゆくは我が国も、このような城を持ちたいものです」


 白い美しい尖塔を見上げながら、グスタフが目を細めながら呟く。

 

「ガドモアの王城の方が規模は大きいが、白を基調としたこちらの方が美しくていい」


 アデルも素直にリルストレイム城の美しさを褒め称えた。

 ユンゲルトの説明によると、リルストレイム城はノルトに深く降り積もる雪をモチーフとしているという。

 

「体が御冷えかと思われますので、城内の一室にて温かいお飲物をご用意させて頂きました。まずはそちらで暖を御取りになられては如何でしょうか?」


「かたじけない。お言葉に甘えるとしよう」


 アデルは素直にユンゲルトの言葉に甘えることにした。

 兵と荷駄の指揮をグスタフに預け、アデルは馬から降り、ノルト人の馬丁に馬を預けるとトラヴィス、ブルーノ、ゲンツの三名のみを伴って、先導するユンゲルトの後に続いた。


「暖を取るついでに身だしなみも整えたいのだが?」


「勿論よろしゅう御座いますとも。部屋には鏡も御座いますので、ご随意にどうぞ」


 アデルは最初からそのつもりであり、そのためゲンツは衣装箱を肩に担いでいる。

 アデルたちはユンゲルトの案内のもと、貴賓用の客間と思われる一室に案内された。

 ユンゲルトの言によると、外にいるグスタフらはログソゾヌの案内で城内にある兵舎に向かっているという。


「では、ご用意が整いましたならば、外に控える者にお声をお掛け下さいませ。では、御免つかまりまつる」


 ユンゲルトの足音が十分に遠のいたのを確認したアデルは、テーブルへと近付いた。

 そしておもむろに、テーブルの上の淹れたてで湯気を発しているお茶に手を伸ばした。


「陛下! まずは毒見を! 僭越ながら某が毒見を」


 慌ててブルーノが止めに入るも、アデルは無用であると笑いながら、フーフーと息を吹きかけ冷まし、お茶を口に含んだ。


「流石! 最高級の茶葉を使っている。味は勿論、香りも極上」


「陛下!」


「そう怒るな。今の時点で俺を暗殺しても何の意味も無いだろう? 毒なんか入っちゃいないよ。お前たちも一杯ずつ飲んで体を温めておくといい」


 ならばと、まずゲンツが、次いでトラヴィスがお茶に手を伸ばした。

 二人が飲み始めると、いま一つ納得のいかない表情でブルーノも冷えた身体を温めるために、一杯だけお茶を飲んだ。


「さて、では用意するとしようか」


「ほいさ」


 ゲンツが肩に担いできた衣装箱の蓋を開けると、中には二振りの長剣と、それを背負うための革のベルトが入っていた。

 ベルトの取りつけをトラヴィスとブルーノが手伝う。

 ベルトを固定すると、今度はゲンツが二本の長剣を鞘ごと固定していった。

 X字状に背に剣を背負ったアデルは、思わずその重さにつんのめりそうになる。


「お前たちは剣を渡せと言われたら素直に渡せよ」


「はっ、承知致しました」


 と、ブルーノはその場に跪き、首を垂れた。


「ふっふ、アデル…………おめぇ、小さい頃から変わってねぇな。今ものすんげぇ悪い顔してるぜ」


 一方のゲンツは、アデルの顔を見て笑顔を浮かべていた。


「そうかな?」


「小さいころからお前たち三人は、悪巧みを思いつくとそんな顔をしていたのを思い出したぜ」


「トラヴィス先生、先生の武器は用意出来ませんが、それでも来るおつもりですか?」


「勿論ですとも。素手でも陛下の盾にはなれましょう」


 トラヴィスの返答に対し、アデルは少しだけ複雑な表情を見せたが、もう今更である。

 衣装箱の中には音物の目録が記されている羊皮紙が入っていた。

 その羊皮紙は上下に補強をするように木の棒に巻き付けられていた。

 それと同じく、分厚い羊皮紙に太い木の棒の組み合わせの物が一つ。

 それは、ブルーノが小脇に抱え込んだ。


「準備完了! では、参るとするか」


 部屋の外に控える騎士に声を掛けると、直ぐに隣室で待機していたユンゲルトがやって来た。

 ユンゲルトは、剣を腰に佩きながらもさらに背に二本の剣を背負う姿に、一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、すぐにそれは虚仮脅し、あるいは単なる飾りと認識したのか、何も言わずに再び案内役を務めた。


 

せっかくのお盆休みなのにやることが多く、思っていたよりも自由な時間が取れずに残念です。


今後の展開ですが、準備や説明回を経てからのアデルが指揮する三度目の戦へと話は進んで行きます。

予定している戦も、地球上で起きた過去の戦を流用としたものとなります。

ただ、有名なテルモピュライの戦いとは違い、マイナーな戦争の一局地戦からの流用となる予定です。

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