55松級駆逐艦
一九二八年三月。春の陽光が差す永田町で、田中儀一内閣の予算案が無事、成立の日を迎えた。
史実では昭和金融恐慌の濁流に呑み込まれ、予算成立どころではなかったはずのこの国。ですが、この世界線では涼宮の資本という巨大な歯車が運命を書き換えていた。 前年、若槻内閣の下で勃発した鈴木商会の経営危機。それをきっかけに噴出した不良債権問題を、田中政権の守護神・高橋是清蔵相が国費を投じて一気に処理。 中小銀行が淘汰されるという痛みは伴ったが、日本は死の淵から奇跡的に生還した。
そして発表された二八年度予算。 それは前年比三割増という、国民が度肝を抜かれるほどの巨額なものだった。
「・・・涼宮は、この国を買い取ろうとしているのか?」
巷で囁かれるそんな噂も、あながち間違いではない。財源の大部分は、我が涼宮財閥からの献金――いえ、この国への投資なのだから。
予算の柱は、私がぶち上げた『日本列島改造計画』。 大規模な公共事業で景気を強引に底上げしつつ、累進課税や独占禁止法、さらには銀行のペイオフ制度までをも盛り込んだ、数十年先を行く社会改革案。
ですが、私の真の狙いはその先、田中首相の対外積極姿勢に便乗する形でねじ込んだ、海軍の建設計画にあった。強襲揚陸艦、護衛艦及び海防艦建造計画。
ワシントン条約制限外の艦艇が多数建造される事になった。
護衛艦。これは商船団護衛用の護衛駆逐艦の事。将来、護衛艦隊を発足させたい。
護衛艦には松級駆逐艦という名前はどうかと海軍省にだしんした
名誉ある命名権を得たのは、やはり多額の献金故だろう。
「クッククック・・・。さて、今度はどんな悪魔の武器を私に作らせるのかな? 鷹尾伯爵?」
薄暗い研究室で不敵に笑うのは、自称闇の技術者こと高木さん。私は、そのいつもの重度の中二病を華麗にスルーして、優雅に紅茶を啜りました。
「人聞きの悪いことを言わないでください。こう見えても世間様では、お国の為に多額の献金をした憂国の伯爵で通っているのですから」
「当然、裏があるのだろう? それが世界滅亡への布石とも知らずに凡人共めが・・・ククク」
「話が進まないので本題に入りますわ。・・・20mm三砲身ガトリング砲を開発していただきたいのです」
私の言葉に、高木さんは片眉を上げた。
「ほう? 何に使う。対空用なら、例の25mmCIWSがあるだろう?」
「戦闘機用ですわ。将来、航空機の防弾化が進めば、今の7.7mmどころか12.7mmですら豆鉄砲になります。・・・圧倒的な投射弾数で、敵を粉砕する必要があるのです」
「・・・どこまで先を見ているのやら。それで、対価は?」
「魂」
「そうじゃなくて、私個人への実利的なお代わりを寄越せと言っているのだ」
この男、ガトリング砲の開発が自分の手柄になるというのに、まだ要求するのですか! せこい、せこすぎますわ! ですが、ここでヘソを曲げられては涼宮の計画が狂います。私はしょうがないわねという顔で、いくつか提案を差し出した。
「そうですね・・・対潜弾投射機とホーミング魚雷なんてどうかしら?」
「・・・! 誘導魚雷だと? まさか、そんなものが現実に・・・」
「ええ。小型アクティブソナーと誘導装置を・・・あら? よく考えたら既存の技術をアッセンブリーするだけで出来ちゃいますわね」
「ならもっと凄いのを寄越せ!」
「・・・人にものを頼む態度ですか、それは!」
「どちらが頼む側かな?」
「えっ? ・・・あれ、私・・・の方?」
「クック、鷹尾嬢は相変わらずちょろいから助かる」
「・・・何か仰いました?」
私の頭がぐるぐるし始めた時、高木さんが非常に失礼なことを呟いた気がしましたが、今は松級駆逐艦用の兵装を揃えるのが先決です。
「・・・じゃあ、特別にもう一つおまけよ。対潜ロケット弾。弾頭は小型誘導魚雷・・・これでどう?」
「うむ。創作活動が捗りそうだ」
・・・創作の余地、あります? 発想の九割九分は私(未来知識)なんですけれど。
「それにしても、今回は随分としけた物ばかりだな。例のミサイルはどうした?」
「忘れたのですか? コストが高すぎて全部却下されたではありませんか! 空対空ミサイル一発、破格の五万円ですよ!?」
「それじゃあ採用は無理だな」
「なんで!? なんでなんで? 確実に一機落とせるなら、搭乗員の命に比べれば安いものでしょう!?」
私は思わず駄々をこねる子供のように詰め寄りましたが、高木さんは私の見た目を揶揄うような視線を向けた後、冷徹な現実を突きつけた。
「鷹尾嬢・・・いや、伯爵。五万円あれば、発動機と機銃一式、弾薬込みの戦闘機一機分の価格だ。弾一発と機体一機が同額では、経済的な計算が合わん。商売人なら理解できるだろう?」
「・・・うっ。確かに、確実に一機落としても、確実に一機分の経済的損失が出るんじゃ・・・」
ぐぬぬ、と唸る私。ですが、反論は忘れません。
「今は高くても、北米向けに我がスバルの家電が売れれば、電子部品の単価は下がりますわ! それに飛行機のお値段は年々お高くなりますわ!」
「ならば、そのうち採用されるだろう。・・・対艦ミサイルの方は、重巡以上の艦への搭載が検討の段階まで行ったようだしな」
高木さんは、どこか遠い未来を見通すような視線で呟きました。その言葉に、私は少しだけ唇を尖らせて反論します。
「ええ。検討までは行ったのですけれど・・・。結局、高木さんが例の20cm単装速射砲の開発に失敗しちゃうから、不採用になっちゃったんです。ミサイルを積むためのスペースが、あの馬鹿みたいにデッカイ砲塔を五基も搭載するせいで確保できなかったって聞いていますわよ?」
「・・・なっ! 私のせいだと言うのか!?」
高木さんが、心底心外だと言わんばかりに椅子をガタつかせて立ち上がりました。
「あんな馬鹿げた巨砲を、本格的な速射砲にするなど土台無理な話だ! 技術の限界というものを知れ! いいところ15.5cmまでだ。・・・そもそも、12.7cm砲を今の性能に仕上げるだけでも、私がどれほど血の滲むような苦労をしたと思っているんだ!」
「あら、闇の技術者様でも無理なんて言葉を知っていらしたのね?」
「・・・クッ、この小娘・・・!」
高木さんは逆ギレ気味に叫びました。そういえば、あの5砲身25mmCIWSも不採用でしたわね・・・。
「そういえば、何故CIWS(25mmガトリング砲)は採用されなかったのですか?」
「重すぎたんだ。それに性能が過大過ぎる。そうだな、25mm6砲身より3砲身のCIWSの方が採用されるかもしれん。6砲身は駆逐艦の主砲並み。それに比べて3砲身なら、2連装25mm機銃位のサイズに収まるぞ」
「そっか! たまには高木さんもやりますわ!」
「誰がたまにだ!」
高木さんが何故か切れた。
こうして松級駆逐艦が建造される事になり、設計は民間に募集された。
涼宮造船のプランが採用された事は言うまでもない。徹底的に安く作った事も言うまでもない。
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