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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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51トーマス・W・ラモント

「面白いくらい愉快なお嬢様方だ」


ウォール街23番地、J.P.モルガン本社の重厚な応接室に、トーマス・ラモントの快活な笑い声が響き渡った。


琥珀色のウィスキーが注がれたクリスタルグラスが、シャンデリアの光を反射してきらめいている。私は冷や汗を飲み込みながら、隣で澄まし顔をしている茜をそっと睨みつけた。


「はじめまして。涼宮家当主、鷹尾と申しますわ」


「夫の一樹です」


一樹は隠しきれない鋭い眼光を放ち、ラモント氏の手を硬く握りしめていました。・・・もう、どうして殿方という生き物は、全員が私を狙っていると決めつけてかかるのか。困った旦那様ですわ。


そして、事件は最後の一人が口を開いた瞬間に起きた。


「・・・奴隷の茜と申します」


「あ・か・ね・!」


私は思わず声を荒らげてしまった。ラモント氏の眉がピクリと動くのが分かる。 この国、アメリカにとって「奴隷」という言葉は、わずか数十年前まで血で血を洗う戦争の火種だった、極めてデリケートな禁句。日本における貧困ゆえの身売りも悲劇ですが、この地での響きは意味の重さが違う。


せっかくの商談が「悪趣味な東洋の貴族」という印象で台無しになるのを恐れ、私は慌てて茜に詰め寄った。


「茜、どういうことなの? その言い草は!」


「お嬢様こそ・・・私をこのような豪奢な場所に連れて行くのであれば、前もっておっしゃるべきでした。ラモント様、お聞きください。わたくしはこのお嬢様に、無理やりこのようなお洒落・・・もとい、装いを強いられているのです。決して好き好んでではございません!」


「違うじゃない! 今回はあなたの意見を尊重して、好きな服を選ばせてあげたでしょう?」


「まさかモルガンの本拠地に乗り込むとは聞いておりませんでした。これは高度な詐欺の一種ですわ!」


茜の「反撃」は止まらない。確かに詳細は伏せていましたが、まさかこんな形で仕返しをされるなんて。


「・・・まあ、落ち着きなさい、お嬢様方」


ラモント氏が興味深げに、茜が身に纏っている純白のシャツを注視しました。


「その不思議な光沢・・・レーヨン(人絹)とも違う。もしや、日本は新たな繊維の開発に成功したのかね?」


「ええ。これは『合成繊維』。コットンとポリエステルを混合した、未来の素材ですわ。シワにならず、鋼鉄のように強く、雪よりも白い。わたくしの旦那様の会社・・・三菱ケミカルの試作品です」


「ほう、三菱か。それは素晴らしい発明だ」


すると、それまで「被害者」を演じていた茜が、一転して冷徹なビジネスウーマンの顔を見せた。


「もしご興味がおありでしたら、わたくしの旦那様、吹雪とお会いください。お嬢様の供として、ニューヨークに同行しておりますわ」


「茜・・・?」


「申し訳ございません、お嬢様。わたくしは『お嬢様の魅力』という鎖で繋がれた『奴隷』ですが、同時に私は三菱、岩崎の嫁でもあるのです」


ラモント氏は一瞬呆気に取られた後、腹を抱えて笑い出した。


「はっはっは! これは一本取られましたな。お嬢様、君のところの『奴隷』は、ウォール街の銀行家よりも手強い交渉人だ」


「・・・その様ですわ。ねえ茜、そろそろその『奴隷』って自称、やめてくれない?」


「いいえ。わたくしの魂はお嬢様の魅力という鎖に繋がれ、決して離れることは叶わないのです。・・・物理的な鎖よりも、よほど強固な監獄ですわね、お嬢様?」


茜のドヤ顔が、窓から見える夜景よりも眩しく、そして腹立たしい。 だが、茜のターンが終了した後は、私のターンよ。


「で? 今回の真の目的は何なのですかな。今を時めく涼宮一族の当主が、ただの挨拶のためだけにわざわざニューヨークの私を訪ねてくれたとは思えないのだがね」


ラモント氏の言葉には、歓迎の響きとともに、獲物を値踏みするような鋭い知性が混じっている。 重厚な大理石の壁、磨き抜かれたマホガニーの机。世界金融の心臓部、「ザ・コーナー」の応接室は、一歩足を踏み入れるだけで気圧されるような威厳に満ちている。だが、私はあえて優雅に微笑み、窓の外を見やった。


「ハワイの夕陽も綺麗でしたけれど。ウォール街に沈む夕陽の方が、今は興味がありますの」


私が切り出した最初の「ディール」は、この時代の誰一人として持ち得ない、絶対的な未来の知識。


「それは一体どういう意味ですかな? アメリカが落日を迎え、日本の陽が昇る・・・そうおっしゃりたいのかね?」


「さすがラモント様、博識で助かりますわ。・・・ですが、これは取引です。わたくしの背後を調査されているのであれば、お分かりでしょう?」


ラモント氏の目が、獲物を狙う鷹のように鋭さを増す。これこそが金融界の「巨頭タイタン」の眼光。彼は数字の向こうにある、まだ見ぬ未来を常に凝視しているのだろう。


「涼宮家の一族には、未来を予見する力があると・・・もっぱらの噂だがね」


「それが噂でなければ、いかがいたします?」


「・・・ほう。で、それはいつなのですかな? それを教えていただけるのであれば、貴女の要求は何でも飲もう」


彼は私の要求の中身すら聞かずに、交渉のテーブルについた。あまりの即断。だが、それが世界を統べる者の器というものだろう。


「よろしいので? 私はまだ、何も条件を口にしておりませんわ」


「我がモルガンに、成し遂げられぬことなどあるとお思いかな?」


静かな、しかし圧倒的な自負。 世界の頂点に立つ男にとって、一個の東洋の財閥の要求など、これから語られる「未来の断片」に比べれば些事に過ぎないのか。


「条件は、涼宮財閥とモルガンとの同盟です。私たちが進める満州の開発計画に出資していただく代わりに、我が財閥もアメリカの油田開発やレアメタルの採掘に投資いたしますわ」


「油田? アメリカにまだ眠っている場所があると? それに・・・レアメタルとは、聞き慣れない言葉だ」


私はあえて、未来の知識を惜しみなくさらけ出した。相手の掌の上に、信じるしかない「真実」を叩きつけるために。


「タングステン、モリブデン、ニッケル、チタン、コバルト・・・。これらは次世代の覇権を握る鍵となります。そして——」


私は身を乗り出し、声を潜めた。


「1929年。ここウォール街は地獄に変わります。資産をすべて鉱山の権益やゴールドに逃がしてはいかが? 我が涼宮財閥も、アメリカの油田や鉱山の利権には深く興味がございますの」


ラモント氏は沈黙しました。1929年という、あまりに直近で具体的なタイムスケジュール。だが、彼の超人的な勘もまた、現在の狂騒の裏側に潜む危うさを感じ取っていたのかもしれない。


「・・・それは逆に返せば、私が訪日した際の、満鉄融資への協力を約束してくれるということでよろしいかな?」


「もちろんですわ。わたくしも、是清も、全力でご協力いたしますわ」


商談は成立した。世界最強の金融機関と、未来を知る私。歴史の裏側で、巨大な歯車が噛み合う音が聞こえた気がした。


私は立ち上がり、豪華な応接室を見渡してふっと息をついた。


「・・・帰りの3週間の船旅より、後日、貴方の銀行モルガンの帳簿を見る方が、ずっと疲れそうですわ」


冗談めかして告げた私の言葉に、ラモント氏の、腹の底から響くような高笑いが重なった。

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