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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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49ハワイ旅行

1927年7月、私は渡米を決意した。目的はある人物と会い、友好関係を結ぶ。これから先、日本はいずれ対米開戦という終末に向かう。私には座右の銘がある、それは『どんなに努力しても負ける時は負ける、だが、負けては何の意味も無い』。男の子が良く思っている、『仲間と共に努力すれば必ず勝てる』、いわゆる勝利、友情、努力の三点セットは私には頭にお花畑が咲いている考えだとしか思えない。


負けた場合、出来るだけ日本が有利に立ち回れる様に人脈を広げておく事も肝要だ。


それに当面の課題として、アメリカのニューヨークダウに投資した株式を利益確定して行き、日本に戻す作業が必要。だが、これは慎重に進めなければならない。何しろ、20万ドルもの巨額を一度に日本に持ってきたら、マネタリーベースが突然増大して激しい円安が起きてしまう。


日本の産業にとって既に対米輸出は重要度を増している。それに私は数年後のニューディール政策の効果を削ぐためにも日本からの輸出を妨げる事は出来ない。


想定しているのは1929年までに証券や債券を利益確定、毎年、毎月少しずつ十年近くかけて日本に帰還させる。もちろん、全額ではなく、アメリカに半分位は残し、いずれ起きる日米貿易摩擦において、対米投資に使う。もちろん、その際には優秀なアメリカ製品やそのライセンスも購入して、日本企業の底上げに使わせて頂く。ついでにアメリカの工業地帯、北部の方のインフラも抑えて、いざという時の嫌がらせが出来るようにしよう。


だが、その前にやりたい事があった。それは『ハワイ旅行!』そう、私は前世で海外旅行なんてした事なかった。今世では満州やロシア領土にちょっと密入国した事もあったけど。憧れの欧州やハワイには行った事がないのだ。その上! 私と旦那様は新婚旅行をしていないのだ!


「で、お嬢様・・・何故私はこの様な破廉恥な恰好をさせられておりますか?」


「だから茜の魅力を引き出す為だよ。ビーチの男の子の視線は茜に釘付けよ! きっと茜の旦那様も鼻高々に間違いないわ!」


「そうですか、ならばお嬢様にもその魅力を殿方に魅せ付けて、旦那様の一樹様に満足して頂きます」


「はあ? え? ちょっと止めて茜! ちょっと!」


着替え室で茜に真っ赤なビキニを着せたら、ブチ切れて羽交い締めから普通の水着を剝ぎ取られてしまった。・・・その上。


「良くお似合いですわ。お嬢様」


「こんな破廉恥な恰好!」


「その破廉恥な恰好を私にだけ押し付けるおつもりで?」


はい、と言いたかったが、茜の顔が笑っていない笑顔なので、怖い。


ここは少し低姿勢で何とか、ね?


「私は茜と違って、お胸がね? わかるでしょ?」


「あら、最近とても良くお育ちになられて、私とあまり変わりはございませんか?」


そうなのである。私は第二次成長期が止まってしまって、二十七にもなるのに、至って童顔。


特にお胸が寂しかったのだが、念願の成長を果たしたのだ。


でも、どういうこと? もしかして、転生者特権として、加齢の速度が遅いのかな?


と、言う訳で、私のささやかな抵抗も発展途上のお胸のおかげで潰えた。


しかし、ふと疑問が。


「でも、茜は前もって私がビキニを茜の為にしつらえている事を知っていたのなら、ビキニの作成の方を妨害すべきだったんじゃないの?」


「私はお嬢様を着飾る事に至上の命題だと信じております。お嬢様は美の女神が遣わした私の究極のおもちゃなのです!」


「人をおもちゃ呼ばわりしないでと!」


「ならばお嬢様は私を何だと思ってこの様な水着を?」


ぎゃふんと言わされた。はい、私も茜の美を見せつける事を至上の命題と捉え、絶えず努力して来た。茜は私にとって・・・最大のおもちゃなのだ。


非情な話だが、お互い同じ意見、同じ対象なのだ。


「それでは行きましょうか、お嬢様。ビーチの殿方の視線を釘付けにするのです!」


「あい。わかりました」


何しろ、私は喪女だった訳で、ビーチになんて行った事がない。内心、少し憧れもあるが、それより恥ずかしさの方が勝ってしまう。だって、ビキニって身体の線が丸わかりだし、隠すとこ少なすぎない? 令和の頃は何とも思ってなかったけど、女の子って頭おかしいわ。


「鷹尾? なんて恰好を?」


「茜? どうした?」


私の旦那様と茜の旦那様が一斉に声をあげる。そりゃそうだろう、この頃の水着は露出が少ないダサいものばかり。こんな格好してたら、殿方の視線釘付け間違いなしだけど、頭おかしいと思われる可能性の方が普通。この時代の下着以下の面積しか隠せてないんだもん。


『なあ、君って最高にイカしてるね!ボードウォークを散歩しないかい?』


『君は本当の美女シーバだね。寂しい男の陽光浴に付き合ってくれないか? 』


旦那二人が近くにいるのも拘らず、アメリカ人の男性がわらわらと沸いて来た。


あれ? これナンパ? 私、ナンパされたの初めてなんだけど?


「お嬢様、何をデレデレだらしない顔をされているのですか? 流石にこれは不味いです!」


「誰がにやけてるって言うの? 私はただ!」


「男に言い寄られて嬉しいだろ? 鷹尾は単純だから、すぐに顔に出るからな」


「い、ち、違いから! これはそう! 違う、一樹にい! これは……これは情報の集積活動インテリジェンスの一環なんだからっ!」


苦し紛れに出た私の叫びは、ワイキキの波音にかき消された。 私の旦那様、一樹は呆れたように片眉を上げ、茜の旦那様である吹雪さんは、鼻の下を伸ばしつつも茜のあまりの露出度に「……いや、これは常識の限界を超えている」と頭を抱えている。


「いい、一樹。聞いて。1927年のアメリカで、こんな『面積の少ない水着』を着ている東洋人なんていないわ。つまり、私たちは今、ビーチ中の視線という名の『ビッグデータ』を一点に集めているのよ!」


「お嬢様、嘘をおっしゃい。単にナンパされて、令和の喪女根性が疼いただけでしょう」 茜が容赦なく、ビキニの隙間から私の脇腹をつっついてくる。


「あいたたっ! 茜、やめなさいって。とにかく! 見て、あそこで鼻の下を伸ばしてる紳士を。あの人は、来週暴落する予定のゴム会社の重役よ。あっちでカメラを構えてるのは、ワシントン政界のフィクサー。彼らがこれほど隙を見せるのは、この『令和式超絶ビキニ』の魔力による……」


『なあ、最高にイカしてるぜ!』


また一人、麦わら帽子を被った陽気な青年が、一樹の視線も構わずに詰め寄ってきた。 一樹の目が、スッと冷たく据わる。あ、これやべぇ。旦那様がキレる5秒前だ。


「……一樹、待って。この男、腕に『ある組織』の入れ墨がある。……善十郎! 出番よ!」


「はっ。お呼びでございますか、お嬢様マイ・レディ


いつの間に潜んでいたのか、パラソルの影から燕尾服ならぬ、アロハシャツを羽織った善十郎が音もなく現れた。彼は手にしたシルバーのトレイで、ナンパ野郎の差し出した手をスマートに弾き飛ばす。


「お若いの。この御方は、貴方のような『フラット・タイヤ(退屈な男)』が声をかけて良い御方ではない。失せなさい。……さもなくば、貴公の銀行口座を明朝までに空にいたしますぞ」


善十郎の笑顔の奥にある、本物の「忍び」の殺気に、青年は悲鳴を上げて逃げ出した。


「お嬢様、お戯れが過ぎます。既に長門一族が周辺の『不純な視線』を80%排除いたしましたが、一樹様の血管が千切れんばかりに脈打っております。これ以上の露出は、我が涼宮家の内乱を招きますぞ」


「うぐっ……わかったわよ。茜、羽織るものを……一樹にい、ごめんね。水着の続きは、……二人っきりの時に、ね?」


顔を真っ赤にして告げると、一樹は深いため息をつき、自分の上着を私に羽織らせた。


「……帰ったら、たっぷりお仕置きだからな。鷹尾」


「ひぇっ……!」


こうして、私の「初めてのナンパ体験」は、初めての夫婦喧嘩の幕開けと共に、ほろ苦く幕を閉じたのであった。

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