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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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47高橋是清

1927年3月、私の長年の希望が叶い、田中儀一内閣の蔵相、高橋是清様との面談が実現した。


「話には聞いていたが、これはまた、玲瓏な御方だ」


高橋様は私の姿を見るなり、そう呟かれた。その言葉に、私は思わず口元を綻ばせそうになるのを抑える。


「高橋様に女性を誑し込むご趣味があるとは、聞き及んでおりませんが?」


やや皮肉めいた調子で返すと、高橋様はふっと笑みを漏らされた。


「いや、冗談だよ。それに、貴女が美しいのは事実だろう? まあ、少々お若く見え過ぎる点は否めないが」


「お上手ですわ」


若い・・・幼い、と言われると、やはり心にチクリと痛みが走る。何故か私の第二次成長期は途中で止まってしまったのだ。二十七歳にもなるというのに、見た目は高校生くらいにしか見えない。何より、胸の辺りが寂しいのが辛い。


「で? 今日はどのような御用件かね? 鈴木商会を買収した希代のやり手と名高い財閥の御当主様が、わざわざお越しになられた以上、かなり大がかりな事を仰るのではないですかな?」


高橋様の言葉は、私の心を正確に射抜いていた。


「ご慧眼ですわ。本日は、たってのお願いに参りました」


「どのような?」


高橋様の目が、訝しげに光る。財閥の当主である私が会談に臨む。彼が警戒するのも無理はない。


「金10トンを献金いたします。どうかお納めいただき、お国の為にお使い下さいませ」


私の言葉に、高橋様は一瞬、目を見開かれた。


「10トン? いや、出所に思い当たる節はあるが、本気なのかね?」


「高橋様の感服を買うのであれば、安い御用ですわ」


私は真っ直ぐに高橋様の目を見つめ、告げた。


「で、その見返りは?」


正直なところ、私は見返りを期待していなかった。それに、高橋様は私が口にしなくとも、不良債権を国費で処理されるお方だ。彼は時代を100年も先取りした、まさに天才なのだ。


だが、一点だけ問題があった。それは、中小の銀行を淘汰し、財閥系銀行への一極集中を推し進めようとされている点だ。そして、それが財閥系企業の肥大化、ひいては後世において財閥系のみが利することに対する国民の不満を招き、五一五事件や二二六事件を生む火種となることを、私は知っていた。


「独占禁止法、累進課税と資産税の強化、そして預金保険制度(ペイオフ制度)をいち早く導入して、『銀行が潰れても国が預金を保証する』仕組みを、どうかお作り下さいまし」


私の言葉に、高橋様は戸惑いを隠せないようだった。


「待て、待ってくれ? 頭が混乱する。どういうことなのか?」


さすがの高橋様も、これから起こる未来にはお気づきでないご様子。私は、詳しく説明を申し上げた。


「政府は、多すぎる中小の銀行を淘汰するおつもりでいらっしゃいますわね? しかし、そこには光と影が生まれます。中小銀行は経営実態が不透明で、預金者は大手、つまり財閥系の銀行を好む形になります。そうなると、どのような事が起きると思われますか?」


「う・・・む。涼宮家には優れた間諜がいるようだが、それは置いておいて、答えは財閥系企業の肥大化、か?」


高橋様の鋭い洞察力に、私は感嘆した。


「ご慧眼ですわ」


私は出された紅茶を一口すすり、こう続けた。


「資本が一極集中し、財閥系企業は肥大化します。それは国力そのものを大きくする上では合理的であると申せましょう。ですが、国民感情をお考え下さいまし。財閥とそれに与する政治家だけが甘い汁を吸うと、国民は思ってしまうでしょう。不公平だとは思われませんか?」


高橋様は深く考え込まれた。私の言っている意味、問題点を、この希代の天才は初見で見抜かれたのだ。


「つまり、富める者からは多く税を取り、大企業が資本の大きさに物を言わせて寡占状態となることを回避させ、更には預金者に安心を与え、大資本銀行への預金の集中を抑止する、という事か?」


「その通りでございます。その上で、高橋様がお考えの公共事業による有効需要の創出、国債の日銀引き受け(リフレ政策)を前倒しで実施下さい。日本には、低金利政策が必要です」


私の言葉に、高橋様の目がさらに鋭くなった。


「あ・・・貴女は何処まで・・・?」


「お考えなのでしょう? 国債を使って市中に大量の現金を供給し、金利を低下させる。お金も需要と供給の関係にあります。突然お金の総量が増えれば、当然お金の価値が下がり、金利が低下します。そして、低金利にすれば銀行は貸出をしやすく、企業は借りやすい。投資が活発化し、経済が上向きになりやすいのです。さらに公共事業を実施すれば、貧困な人々を救う事ができます」


高橋様は、私の言葉にじっと耳を傾けられた。


「・・・。そこまでの理解のある人物に会ったことがないから聞きたい。国債を刷って貨幣を市中に供給する。その際、供給過剰になれば、通貨の暴落に繋がるのではないか?」


さすが高橋様。全く、この天才の爪の垢を、百年先のこの方の後輩たちに飲ませて差し上げたいですわ。


(注意;金利が下がるのは市場にリンゴが大量に出回ればリンゴの価格が下がるのと同じ)


「計算すれば良いのです。貨幣と金利の関係を計算する、変形フィッシャー方程式によって」


「それはどのような方程式なのか?」


私はペンを取り出すと、高橋様の前で書き綴った。




フィッシャーの定理

i = r + πe

i(名目金利): 実際に市場で見える金利

r(実質金利): 物価変動を除いた、経済を刺激(または抑制)する真の金利

πe(期待インフレ率): 人々が予想する将来の物価上昇率




日銀はこの式を「変形」し、r = i - πe と捉えた。つまり、「名目金利iを据え置いたまま、人々の期待πeを上げることで、実質金利rをマイナスにし、経済を強制的に浮揚させる」という考え方。これは高橋是清が「日銀引き受け」で行ったリフレ政策の論理的支柱である。


高橋是清の感覚はケインズの貨幣論より更に先を行っていたのである。


「貴女は美しいだけでなく、なんと聡明な事か」


高橋様は、私の書いた数式を眺めながら、感嘆の声を漏らされた。


「見た目や性別で計っていただきたくございませんわ」


私は少し拗ねたように答えた。


「それが未来の価値観かね?」


「!!!!?」


高橋様からの衝撃的な発言に、私は驚きを隠せなかった。


「何、渋沢氏や福沢氏から見聞きしただけの事だ」


高橋様は、涼しい顔でそう仰る。


「にわかに信じられるのですか?」


「逆に貴女の言っている事が未来の知識だと考える方が楽・・・いや、そうしないと自信を喪失してしまうね」


「うふふ」


思わず笑い声が出てしまった。高橋様の自信を喪失させることなど、なんと名誉なことだろうか。もちろん、未来の知識などなくとも、高橋様のご慧眼がどれほど素晴らしいものであるかは、言うまでもないことなのだが。

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