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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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42若槻内閣総辞職

1926年1月、前任の加藤首相が執務中に急逝したことで、憲政会の副総裁であった若槻礼次郎が後を継ぎ、第一次若槻内閣が発足した。


だが、問題は彼ではない。後世に「ライオン宰相」の名を轟かせることになる総理大臣・濱口雄幸様――彼が1930年に「やらかす」予定の、金解禁きんかいきんとそれに伴う昭和恐慌という名の巨大な自爆だよ。


私は、この運命に介入することを決意した。


史実では「松島遊廓疑獄」という汚職事件から総辞職に追い込まれる若槻内閣だが、私はその時計の針を無理やり進める。汚職疑惑の発生と同時に、三菱財閥の力を借りて解散総選挙を前倒しに執行。メディアを総動員して、野党・政友会に華を持たせる。


狙うは、田中義一内閣の誕生。 そして、その懐刀として「だるまさん」こと高橋是清様を緊急登用させること。


涼宮財閥は、高橋様を全面バックアップいたしますわ。ロマノフ王朝からパクった、もとい、頂いた金塊と膨大な外貨があれば、彼の「積極財政」を支える盤石な盾となるでしょう。そのためには、まず未来の総理となる田中氏と政友会に、これ以上ないほどの恩を売る必要がありますの。


私はお父様に事後報告を済ませると、三菱の御当主様である岩崎小弥太様を前に、冷徹な未来図を広げた。


「未来の濱口様の掲げる緊縮財政は、財閥はおろか日本経済そのものを窒息させますわ。・・・皆様、いいですか? 今の財界は『金解禁』を待ち望んでいますが、それは死への片道切符ですの。


濱口様の言い分にも一理はあります。第一次大戦後の甘えきった日本経済を、厳しい国際競争という「麻酔なしの外科手術」で治そうとした。非効率な企業を淘汰し、健全な国に戻そうとした・・・。


けれど、患者(日本国民)の体力を無視した手術の結果、待っているのは底なしの不況、いわゆる昭和恐慌。デフレは加速し、金は流出、 農村は疲弊し「娘の身売り」や「欠食児童」 に溢れ、経済は死に絶える。『経済的な正論』が、必ずしも『国民の幸福』に直結しないという、残酷な結末が目に見えていますわ」


幸いなことに、岩崎家の一部の方には私の「未来視」が認知されています。三菱は伝統的に憲政会寄り。政友会に喧嘩を売るには三菱の御当主様のご理解を頂くのは必須ですわ。


「・・・このままでは、未曾有の恐慌が起きますわ」


「ほう? 鷹尾さんの未来視ではそう出ているのかね」


岩崎小弥太様は、試すような視線を私に向ける。


「はい。そして、この国を救えるのは高橋是清様、ただお一人。そこで私は政権を転覆させ、政友会に恩を売り、高橋様のお力添えをしたいと考えておりますの」


「確かにあの男に任せれば財務は万全だが・・・鷹尾さん、君の本分はあくまで科学者ではないのか?」


御当主様のもっとももな疑問に、私は淑女の微笑みを返した。


「理ではなく、物理の方なら自信がございますの。我が涼宮財閥は、金塊100トンを所有し、米ドルにして約20億の資産を保持しておりますわ」


「・・・な、何? 桁を一つ聞き間違えたかな?」


「以前、シベリアでロシア大公女アナスタシア様をお助けした際、彼女への支援と引き換えに多額の褒美を下賜されたのですわ。・・・ねえ、茜?」


「お嬢様がアナスタシア様をたぶらかした挙句、金塊をちょろまかしただけです」


「茜! 余計なことを言わないで!」


私は専属メイドをキッと睨みましたが、彼女はどこ吹く風。けれど、おかげで御当主は苦笑しながらも納得してくださった・・・なんで?


「いや、茜さんのおかげで理解できたよ。少々非合法な気もするが、鷹尾さんならやりそうなことだ。金塊や外貨があるという前提で話を続けよう」


「はい。私はこの金塊を高橋様に預け、日本版の『ニューディール政策』を行っていただきたいのです。均衡経済から積極財政へ・・・。貧国である今の日本には本来不可能な政策ですが、私の資産を原資とすれば、高橋様なら必ずやり遂げてくださいます」


御当主様は少し思案してから、低い声で問いかけました。


「実は、我が家の情報網にもきな臭い噂が入っている。巨大商社『鈴木商店』が多額の負債を抱え、政府の救済を盾に台湾銀行へ震災手形として押し付けているという・・・。これに関係があるのかね?」


「ございますわ。鈴木商店は、政府が『大きすぎて潰せない』と高を括っているのです。・・・かつて、未来の平成という時代に『リーマンショック』という事件がありました。アメリカ政府が救済を躊躇った結果、150年の歴史を持つ金融界の巨人が消え、世界が凍りついた。人間の甘い感情ほど、経済において恐ろしいものはございません」


御当主様が目を瞑った。同じ時代を駆け抜けた者として、鈴木商店の破綻には感慨深いものがあるのだろう。


「我が三菱としては、鈴木の破綻に関しては静観するつもりだが・・・」


「いいえ御当主。私は台湾銀行も鈴木商店も、救うつもりです」


「何? それでは単なる慈善事業ではないか。財閥がやるべきは、死肉を漁るように優良資産を買収することだろう」


私はふふ、と口元を隠して微笑んだ。


「いいえ。経営陣には退陣していただきますが、鈴木系のめぼしい企業は――すべて我が涼宮財閥が『乗っ取らせて』いただきますわ」


「お嬢様、性格が悪すぎます。それでは火事場泥棒ではありませんか?」


「うるさいわね、茜! 誰が泥棒よ!」


自分でも(そうだよね・・・)と思っていたことをズバリと言われ、少しだけ傷ついた。けれど、私はめげない。


「我が涼宮財閥の力を底上げする好機と捉えております。つきましては御当主様、三菱の力で若槻内閣の『あることないこと』すべてを白日の下に晒してくださいまし。疑獄の真相以上の情報を、新聞やラジオで喧伝していただくのです!」


御当主様が、なんとも言えない「ドン引き」した顔で私を見つめていた。


「・・・・・・」


あら、御当主様。そんな顔をなさらないで。 まるで私が、滅茶苦茶せこい手段で成り上がろうとする守銭奴に見えるではありませんか。・・・違いますよね? 私はただ、正論で国が滅びるなんて、あまりにも滑稽ですもの。私たちが止めてあげなくては。


涼宮が主導し、三菱が動く。・・・これで、大きな混乱もなく政権を塗り替えられますわね。私は、漆黒の扇子をパチンと閉じました。


「さあ、始めましょうか。日本を救うための、最高に大胆で、最高に『せこい』政変劇を」

昭和金融恐慌 1927年(昭和2年)3月に日本で発生した金融危機。取り付け騒ぎにまで発展し、高橋是清の半面200円札のエピソードが有名。不良債権由来の金融機関不全で1990年代の日本のバブル崩壊や2008年のリーマンショックに似ている。アメリカは高橋是清流を踏襲した。平成日本はどうした?


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