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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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34ファインセラミックス

華族の端くれとはいえ、荒事専門の裏の人間として育った彼女にとって、温かな「家庭」というものは、お伽話の中にしかない遠い憧れだった。


もちろん、それが当たり前だなんて思っていない。嫁いだばかりの頃、旦那の冷ややかな言葉に胸を痛めたこともあった。けれど、彼女を支えたのは華族としての矜持だけではありません。人の命を奪わなくと良い・・・初めての任務が実の弟の殺害。一方、弟の方の任務もまた姉である彼女の殺害。生き残った者だけが生者となり、一族の者として名を連ねる事が許される闇の一族。それ自体が、かつての彼女からすれば奇跡のような境地であり、不平を言うなど贅沢の極みだと思っていたのです。


そんなある日のこと。


「誕生日のお祝い? ・・・それは一体、何のことだ?」


茜の旦那様の第一声は、まるで未知の言語を耳にしたかのような響きだった。 大正のこの時代、誕生日を祝う習慣はまだ一般的ではない。けれど、未来の知識を持つ彼女の主が差配する涼宮家では、クリスマス同様に欠かせない行事だった。


「文字通りでございますわ、旦那様。生まれた日を皆で祝う慣わしです。旦那様の誕生日は明日ではありませんか。夏さんから伺いましたのよ」


「茜は次から次へと新しい文化を運んでくるな・・・。今だって、この『恵方巻』という贅沢な巻き寿司を食べている最中だというのに。これは関西の文化なのだろう? なぜ東京の私が・・・」


「だって、美味しいですもの。それに――何より作るのがらくなのですわ。家事を取り仕切る妻にとって、これほどかけがえのない習慣はございません」


「お前は正直だな。確かに・・・これは美味い」


そりゃあそうですわ。マグロにサーモン、海老に卵。涼宮の財力に物を言わせた贅沢三昧な一本ですもの。彼女はそう思い、美味そうに頬張る(ほおばる)吹雪に見ほれる。


「あっ、旦那様! 黙って恵方を向いて召し上がってくださいと申し上げたはずですわ!」


「・・・話しかけてきたのは茜、お前の方だろう?」


「あら?」


いけませんわ、つい一本取られてしまいました、と、茜は一人恥じる。

前夫(弓弦)との新婚の険悪な空気はどこへやら、今は新しい旦那様と侍女の夏さんと、穏やかで賑やかな日々を過ごしています。かつて夢見た「幸せな家庭」。今がまさにその絶頂期ではないかしらと彼女は独り言ちる。


「わかった。茜がやりたいことなら賛成だ。明日は私の誕生日を祝うとしよう。それで、私は何をすればいいんだ?」


「旦那様はお祝いされる側でございますわ。何もなさらず、明日の帰宅を楽しみに待っていてくださいませ。心を込めた『プレゼント』を用意してお待ちしておりますわ!」


「ぷれぜんと・・・?」


しまった、これもまた戦後の言葉でしたわ、と、失言に苦笑いする茜。


「お祝いの品のことですわ。心を込めて、大好きな人のために思いやる気持ちを、形にするものです」


「だ、だい・・・すきな・・・」


「あら、旦那様? どうかなさいました?」


気のせいか、旦那様のお顔が林檎のように赤くなっているような・・・。


「いや、なんでもない! 気にしないでくれ・・・っ」


顔を手で覆い、くぐもった声でそうおっしゃる旦那様。私は不思議に思いながらも、首を傾げて頷きました。


「・・・ところで、茜。お前の誕生日は四月だったな。何が欲しい? その『ぷれぜんと』というやつだが」


「旦那様。大好きな人が心を込めて選んでくださったものなら、私は何でも嬉しいですわ」


その瞬間、旦那様はついに両手で顔を完全に覆ってしまいました。耳まで真っ赤に染まっています。


「大変! お熱があるのではなくて!?」


「いや・・・大丈夫だ・・・大丈夫・・・っ」


息も絶え絶えに繰り返す旦那様に、私はただただ首を傾げるばかり。


「奥様。坊っちゃんは大好きな人のためなら、休暇を取ってでも決死の覚悟で街中を探し回ってしまいますよ。何かヒントを差し上げては?」


「夏、揶揄うな! 私が・・・大好きなどと・・・」


「坊っちゃん、お顔がまだ赤うございますよ。ふふふ」


夏さんにいじられ、下を向いて拗ねてしまう旦那様。夏さんもお人が悪い。こんなにピュアな旦那様をいじめて何が楽しいのかしら。 けれど、確かに男性が女性への贈り物を選ぶのは大変な苦行かもしれません。ここは初回サービスとして、特大のヒントを出して差し上げましょう。


うーん、と小首を傾げて考えます。私が今、一番欲しいもの。


「そうだわ! 『ファインセラミックス』をくださいな!」


「ふぁ・・・?」

「奥様、それは一体・・・?」


しまった! 幸せな家庭の雰囲気にのぼせて、うっかり未来の単語を滑らせてしまいました。


「ええと、私の主が経営している『スバル』で、ICチップ・・・小さなトランジスタの集積回路を開発中なのですが、良い素材がなくて。ファインセラミックス――人工的な陶器というか、炭化ケイ素のことですわ!」


二人はポカンとした顔で固まっています。あら、変なことを言ったかしら? あざとい首傾げを披露してみますが、「あざとさ道70点」なんて評価を食らわされそうです。


「茜、その・・・ふぁいんは置いておいて。スバルの経営とはどういうことだ?」


「え? 私の主はスバルの代表を務めておりますの。三極真空管を発明したのも、あのお方ですわよ?」


えっへん! と効果音が聞こえそうなほど胸を張ります。鷹尾と違い、貫禄十分である。


「スバルは長門善十郎氏が実務を取り仕切り、涼宮家の誰かが名を貸しているというのが業界の常識だが・・・それが違うというのか?」


「はい。決済や権限、すべての判断は主の鷹尾様にございます。六歳の頃からずっとですわ」


旦那様の顔がどんどん強張っていきます。どうして?


「茜。日本に女性の経営者、それも六歳の女の子が代表など・・・いくら君の言葉でも信じがたいぞ」


「ご当主様に確認なされば分かりますわ。それに、そろそろ仕事に戻りませんと。私の『結婚休暇』は一週間しかございませんのよ?」


旦那様と夏さんは顔を見合わせ、それから信じられないものを見る目で私を凝視しました。


「聞いていないぞ・・・そんな話。私は『スバルの代表』の側近と結婚したのか? 事実なら、岩崎一族で最も重要な縁組みを任されたことになるぞ・・・」


「まあ、坊っちゃんなら当然でございますわ! 奥様が素晴らしい方なのは、坊っちゃんが優秀だからこそです!」


なぜか夏さんが得意げですが、どうやらご当主様は色々黙って嫁がせたようです。まあ、支障はないので問題ありませんけれど。


それよりも、ファインセラミックスをプレゼントしてくれたら嬉しいな。

この様子なら、クリスマスにはアルミナ(酸化アルミニウム)もお願いできそう。複合装甲に使うナイロンや強化繊維も欲しい・・・おねだりしてもいいかしら?


鷹尾様の前でドヤ顔が出来る! ああ、旦那様がいる生活って、なんて楽・・・じゃなくて、楽しいのかしら!


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