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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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33/64

33距離が近いのですが・・・・・・?

「貴様の頭には、お花畑でも咲いているのかッ!」


三菱財閥の本邸に、地鳴りのような怒号が響き渡った。 当代当主、岩崎弥太郎の逆鱗に触れ、広間の空気は氷点下まで凍りついている。その怒りの矛先は、長男である弓弦ゆずるへと向けられていた。


「夏からすべてを聞き及んだぞ。貴様という男は、これほどまでに政治というものが分かっていなかったのか!」


弥太郎の眼光が、獲物を射抜く猛禽のように鋭く光る。


「今の『涼宮すずみや』が持つ圧倒的な財力、そして先駆的な技術……それらが無ければ、我が三菱がどれほどの従業員を路頭に迷わせることになるか、想像もつかんのか! 社員は家族であり、彼らこそが三菱の礎。人を立場で侮るなと、あれほど教え込んできたはずだ!」


ことの始まりは、弓弦が口にしたあまりに身勝手な不満だった。 メイド上がりだと見下していた「生意気な女房」への鬱憤を、あろうことか父である当主にぶちまけたのだ。だが、その「女房」こそが、三菱の運命を左右する鍵であることを彼は理解していなかった。


「しかも、相手は華族……! 涼宮家は今でこそ財閥として名を馳せているが、仮にも陛下の血統に連なる至高の名門ぞ。新興の我が家ごときが大口を叩くなど、百年早いわ!」


弥太郎の言葉は、残酷なまでの現実を突きつけていた。 大正という時代において、華族の名誉と権威は絶対である。ましてや皇族の血を引く家系ともなれば、その序列は既存の爵位を超越した、不可侵の領域にあった。

さらに、弓弦の愚かさはそれだけに留まらない。 身近な手伝いであるはずの「夏」が、実は当主の親友の妹であり、女中という立場を超えた重みを持つ存在であることすら、彼は気づいていなかったのだ。すべては夏の口から、白日の下に晒されていた。


「……お前を廃嫡とする」


非情な宣告が下された。


「この縁談の始末は、涼宮の御当主にすべて委ねる。貴様に、岩崎を名乗る資格はない」


「なぜ……! なぜ、こんなことに……! 父上、どうか、どうかご再考を!」


床に伏し、無様に泣き崩れる弓弦。 しかし、その醜態に同情の眼差しを向ける者は、この邸内に一人として存在しなかった。


「……まずは兄が無体な振る舞いをしましたこと、一族を代表して深くお詫び申し上げます。……その上で、ご令嬢。どうか、私にあなたの伴侶となる機会をいただけないでしょうか」


目の前で、一人の男が優雅にひざまずいていた。 茜の視線の先にいるのは、あの愚鈍な嫡男・弓弦の弟であり、岩崎家の至宝と謳われる吹雪ふぶきであった。


幸いというべきか、弓弦の不手際によって婚姻届は提出されておらず、茜の戸籍に傷が付くことは免れた。涼宮家と岩崎家、両当主の会談によって、前回の忌まわしき婚姻の約束は白紙に戻されたのだ。

だが、事実は残酷である。政財界の重鎮を招いての盛大な式を挙げたあとでは、世間の目は冷たい。

(私はもう、事実上の出戻り。まともな縁談など、二度と望めるはずがない……)

そう自嘲していた茜にとって、吹雪の言葉はあまりに衝撃的だった。


「あなたを一目見たその時から、私は心を奪われていたのです。どうか私に、あなたを幸せにする名誉をお与えください」


「吹雪様……。女中同然の私、一度は他家に嫁いだ身である私に、なんと慈悲深いお言葉を。……なれど、私も涼宮一族の末席に名を連ねる身。ご当主様の御意向を伺わねばなりませぬ。……その、ご当主様が、もし……快諾してくださるのなら……」


うつむく茜の頬は、夕焼けのような朱に染まっていた。吹雪は、男でありながらどこか中性的な美しさを湛えつつ、内側には毅然とした凛々しさを秘めた、絵に描いたような美丈夫だった。


後日、茜は涼宮の当主の前に参じていた。


「茜よ、よくぞ岩崎の若造に吠えてくれたな。あの弥太郎が青い顔をして、ワシの元へ謝罪に飛んできたわい」


「……不詳の身ながら、私も華族・涼宮の血を引く者。言うべきことは申し上げました」


「それにしても『お花畑』とは辛辣であったのう」


「……いささか、適切な表現ではなかったと反省しております」


「かっかっか! いや、正鵠せいこくを射ておったわ!」


豪快に笑う当主は、一転して真剣な眼差しを茜に向けた。


「吹雪という男、なかなか見どころがある。現在、化学会社の経営を任されているようだが、この不況下でも独力で会社を支えてきた逸材だ。お前の夫として不足はあるまい。岩崎からも、彼がどれほど本気でお前にぞっこんであるか、泣きつかんばかりの報告が入っておるぞ」


「そ、そんな……。私はただ、涼宮の威光に助けられただけで……」


「いや、奴は本気でお前に惚れ抜いておるようじゃぞ」


主からのからかいに、茜はただ顔を真っ赤にして沈黙するしかなかった。


「私と婚約してほしい」


「……はい。喜んで」


両家の思惑は一致し、二人は正式に婚約を交わした。 その語らいの最中、茜はそっと切り出した。


「吹雪様。……あなたが今、お困りの件。私の主様であれば、解決の糸口をくださるはずですわ」


「えっ? ……いや、私は断じて、涼宮の力にすがろうとして君に求婚したわけでは……」


「存じております。ですが、ご当主様はすでに吹雪様の事情をすべてお調べなのです。あなたの化学会社の業績が、大戦後の不況で芳しくないことも。……三菱が従業員を家族と呼ぶのなら、私にとっても彼らは家族。どうか、私に力添えをさせてください」


「君は……なんて優しい人なんだ」


吹雪の感嘆をよそに、茜は鷹尾の「未来の知識」を整理していた。 この時代の化学といえばセルロイドやベークライトが主流だが、主である鷹尾は、涼宮の弱点である化学分野で「どうしても作りたいものがある」とこぼしていた。


「吹雪様、『ポリ塩化ビニル』を作っていただきたいのです」


「……ポリ、塩化ビニル?」


「はい。エチレンと塩化ナトリウムから作るモノマーを重合させるのです。ドイツでは数年前に成功例があるはず。論文を取り寄せれば、開発は難しくありません。これが出来れば、東北を苦しめる冷害対策のネットや、新生帝政ロシアが求める農法にも革命を起こせます」


吹雪は、まるで天啓を受けたかのように、驚愕の表情で茜を見つめた。


(あ、あれ? 何か変なことを言ったかしら……?)


首を傾げる茜の仕草は、本人の無自覚とは裏腹に、あざとさ満点の愛らしさを放っている。


「……君は、救世主だ。大勢の社員を路頭に迷わせずに済む。君は思慮深く、思いやりに満ちた、あまりに素敵な人だ。私には勿体ないほどだが……君を愛している自分を、今日ほど誇らしく思ったことはない」


気づけば、目の前の美丈夫からは隠しきれないほどの熱烈な愛情が溢れ出していた。


(どうして、こうなったのかしら……?)


図らずも「溺愛ルート」のど真ん中へ突入してしまったことに困惑しながらも、茜は温かな幸福感に包まれていた。

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― 新着の感想 ―
ちょっと性急な展開に感じましたが納得できる展開だと感じました アレクセイ君がどうなってるかも気になりつつ今後が楽しみです
完全に書き替えてるのか。 ただ、弥太郎は大正時代には鬼籍だよ?この時期は三代目総帥、岩崎小弥太。
うーん、なんと言いますか… 展開が超絶怒涛過ぎてついていけてない読者が多いんじゃないかなと思っています。 前話でマスオさんのくせに何言ってんだってなっているのに、次の話でいきなり変なデレが入っても、読…
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