仮定の未来 訪れて
ゆっくりと伸びをする。
仕事ではまだまだ見習いの域で先生たちの指導を受ける。学ぶことが多すぎて先はまだまだ見えない。
そんな仕事の隙間、余裕のある休日はうろなの叔父夫婦のところを訪ねることにしている。
高校の時分居候させてもらっていたから叔母はいつでも「おかえりなさい」と迎えてくれる。それがとても居心地良くて。
従兄弟とかがいればより楽しいんじゃないかと思わなくないが、いない。その分、かわいがってもらっている気もする。それに、叔父夫婦がかわいがってるおにーさんが擬似イトコのように仲良くしてくれているから、あとで遊びに行ってもいいなと思う。ただ、あそこに行く難点は夫婦仲にあてられそうなことかなぁ。ラブラブだから。
少し東に散策すれば潮の香り。北に向かえば深い森。古くからの商店街、常に新しいものを取り込んでるモール。町役場のそばに叔母さんの勤めている図書館。
そんなことを考えながら散歩気分で商店街で買い物をする。
活気のある商店が連なっていて元気をもらえる気分。剣道場があったりして元気な声がよく聞こえるし。
「風峰くん」
商店街を少し外れれば、雰囲気のいい古本屋さん。呼び声に佇む女性を見つける。
「こんにちは。鴫野さん」
彼女は鴫野尋歌さん。
高校ではクラスメイトになったこともあった。昔はポニーテールにしていた真っ直ぐな黒髪を今では後ろで縛っている。
「こんにちは」
今は、戸津アニマルクリニックで助手さんをしている。そういう意味では僕と同じく見習いだ。
挨拶にそっとはにかむような笑顔を返してくれる。
「お買い物?」
「久々に時間の取れた休みだから叔母孝行しようと思って」
買い物袋を少しあげて見せる。叔父ではなくあくまで叔母さん孝行。納得したように頷いてくれる。
僕も彼女も元の地元はここではない町。彼女の生活圏は今この町だけど、僕は違う。それでもこの町は居心地がよくて時間が許せば訪れる。
「最近、調子はどう? 獣医さんって肉体労働でしょう?」
鴫野さんは小柄な方で百五十センチを少し超えたくらい。大きな生き物を抑えたりもしなきゃいけないんじゃないかと思うから少しだけ心配。きっと心配してしまうことも失礼なんだろうけど。そして、僕との視線の差は十センチ少々。きっとオシャレしたら視線位置近いんだろうなとは思う。うん。もう少し身長がほしかった。どちらかと言うと僕も小柄な部類に入ってしまうから。
「そうね。大変だわ。でもね。どんなことも大変だし、やりがいがあることなんだと思うわ。自分で選んだ道ですもの」
鴫野さんは僕を見つめる。その瞳はキラキラしていて夢に向かっている。
「大変でも辞めたいって思わないわ」
言い切る彼女の笑顔はすっきりしていて可愛いと思う。そう。憧れる眩しさがあった。
「そうだね。僕も辞めたいとは思わない。うん。お互い頑張ろうね」
彼女の様子を見ていると僕も頑張らなくちゃいけないと思える。
今回の休暇は幸先いい気がした。
「それじゃあ、またね」
この町にはまた来るから、きっと彼女ともまた会える。
もしかしたら彼女に会えるから、この町に帰ってくるのかもしれない。そんなことを考えた自分の思考に顔が熱くなるのを感じて、慌てて頭振って熱を散らす。
なんだか気恥ずかしい。
歩いていれば休日の公園に向かう子供たち。
穏やかでいい休日になりそうだなぁと僕は買い込んだ食材を抱えなおした。
鴫野さんにも会えたしね。




