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仮定の未来  作者: とにあ
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 仮定の未来 前提で

 気が付いたら祥晴が横にいた。

 中学で知り合って、うろな高校へ同じように進学した。その後、祥晴は美容師学校に通ったり、調理学校に通ってみたり、よくわからない進路を進んでいる。今は知り合いの美容室で雇われているようだけど。

「どうかした?」

 私の視線の先にいるのは千秋さんと赤毛の女の子。和菓子屋の愛子さんがお菓子をあげれば千秋さんをしゃがませて半分、「あーん」と食べさせるような女の子。コロッケでもやってたっけ。千秋さん、そろそろやめないと晩ごはん買い食いで終わるわよ?

「隠し子?」

「お友達の次女よ。前からこの国に来てみたいって言ってたから」

 女の子の姉も父親も知っている。女の子が『パパ』と呼ぶのは千秋さんじゃない。

「仲良し親子っぽいけどな。千秋さんも甘やかしてるしさ」

 祥晴が言うように女の子は間違いなく可愛がられている。信頼を向けて応えてもらえるのを知っている。千秋さんが本気でかわいがってくれていることをわかってる。

 そのせいか、どー見ても千秋さん、娘に言いなりのダメパパなんだけどね。周りも絶対そう思ってるわ。

 千秋さんは鎮さんのところの月華ちゃんにも甘いし、深理くんのことだってイジるようなことはするけど、子供達には基本的に甘い。

「愛菜」

 千秋さんの声。続く女の子の声は泣きそうで。

「まなー。プリムオトイレ」

「祥晴。お店の借りるわね!」

「お、おう」








 一人でできないプリムの介助をしてマスターと祥晴のお姉さんにお礼を言った。マスターに髪をいじってもらったプリムははしゃいで「千秋に見せる」と言って駆け出す。

「元気だねぇ」

「元気すぎて」

 困ったように笑うとマスターが笑う。

「ありがとう言えるみたいだし、いい子だねぇ」

 プリムは英語の発音より日本語の発音を好んで覚えた。ありがとうはその中でも好きな言葉。

 私は頷く。祥晴と話していた千秋さんがプリムを抱き上げる。

 プリムが明るく笑って祥晴に手を伸ばし、それに応じて顔を寄せた頬に挨拶(キス)をする。

 千秋さんがムッとして引き離したのはすぐだった。


「まじ、千秋さんがいいパパぽい」

 千秋さんとプリムを見送ってからその様子に笑う祥晴。

「気掛かりなのか?」

「かわいがり過ぎだから。時間ないのがわかってるからとはいえ、ね」

「ヤキモチ?」

 は!?

「愛菜が意識してるのってさ。プリムちゃん? 千秋さん? それとも、オ」

「何言ってんの!? ばっかじゃないの!?」

 それ以上言わせまいと遮った。ついでに距離を取ろうとしたら腕をとられる。

「愛菜。確かにまだ早いかもだけどさ、ちゃんと『前提』でつきあわないか?」

 いつもの軽い調子じゃなくて困惑する。

 付き合い自体は中学から。だからといってカップルというわけでなく友人止まり。そんな相手のはずだった。

「美丘のおじさんが言ってたんだ。治療を受けたとはいえ、愛菜自身に発症の危険はあるって。明日(さき)はわからないって。オレは、……愛菜と一緒にいたい」

「死ぬかもしれないから告白?」

 随分とロマンティックだわ。

 真剣な表情が溶けて笑顔。

「それは気のせい。だって、オレがこの瞬間、車にはねられて事故死とかもありえるんだしさ。そうだなぁ、危険度が高いから早くに告っちまえっていうのはあるかな?」

「先に死ぬの?」

 この瞬間の事故なら私だって巻き込まれるじゃない。目の前でって、どんなトラウマになると思ってるの? もう少し考えて言ってほしいわ。

「可能性だろ? 死ぬ気なんかねーよ。答えすらもらってねぇ」

 照れくさそうにそれでも真っ直ぐに見てくる。空気が妙に重い。

「愛菜?」

 脈拍がはやい。祥晴が軽いのは対応だけ。ちゃんとまわりを見て、軽い対応してる。重くならないように。安心できるように。

「私は研究をしたいの。治療法研究に携わりたいの」

 だから、他にあんまり時間を割きたくない。学ばなければいけないことはまだまだ多い。だから、恋になんか、恋愛なんかいらない。時間はないんだから。

「ああ。知ってる」

「母や姉の勤めた研究所に行きたいの」

 この国にはずっといられない。そこが現在治療法の最先端。

「既に家業だよな」

 言い方に笑いがこぼれる。私の中にはそれ以外の選択肢がなくてそれ以外を選べと言われて、提示されても、結局は選べなかった。私は自分自身を蝕む病魔と向き合いたい。

「チケットは芹ちゃんか鎮さんが持ってるの」

「じゃあ、鎮さんから強奪?」

 言い方がおかしい。

「最近はね。考えてくれてる気がする。はじめはばっさり切られたわ。ダメって。それからも評価を下げることをしちゃったけど、入り口が見えてきたの。お父さんの手伝いをすることでね」

 評価を下げるマネはダメだわ。ただでさえ嫌がられてるのは知ってる。

「ああ。愛菜の研究生活は応援する。その条件はのんだ」

 もう問題ないよなと言いたそうな表情が笑えた。

「だって、愛菜もオレが好きだろ?」

 どうしてここまで自信たっぷりなんだろう?


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