仮定の未来 子供
「信じられねーちょーこわい!」
小脇に抱えられた怪獣二匹は不満げにじたばた暴れる。
そんな小さな怪獣二匹をベビーサークルに入れて一息つく。
「はい。鎮君」
タイミングを計って笑顔と共に差し出されるコップ。受け取って一口、喉を潤してもう一息つく。コップを置いて空を抱きしめる。空成分補充!
「深理も月華もいきなりドアを開けようとしたり、隙間を見つけたら潜って脱走しようとなんてしなかった!」
言っていて思う。
深理はそう調整されかけていたし、月華はそんな体力がなかっただけだってちゃんと知っている。
それでも、それでも、
「車道に出そうでこわかったー。まじびびったー」
こないだは階段落ちかけてたし。
なぜ俺から逃げる!?
ビビッて、引き気味なの察知してんのかなぁ。うだうだ思っていたら空の手を髪に感じる。優しい手の動きに自然笑顔がこぼれる。
「おつかれさま」
にっこり微笑む空に癒される。この笑顔が見れるなら頑張れる。
「うん。愛してる」
横で怪獣が二匹騒いでるけどスルー。アレは『出せー』モード。
「空が一番かわいい」
空がぽっと赤くなりながらハグを返してくれる。
「こわかった?」
「ぁー。かなり焦った。この怪獣二匹はまだ外出禁止で……、よじ登るなぁああ! 落ちるから!」
サークルから出ようとした怪獣二匹にぎゃん泣きされて、空をとられた。
あの日、ざわざわそわそわした。
千秋はどこか呆れてる。
留守番してる深理と月華のところに戻った方がいいのかと戸惑う。
「隆維が子守りってるから」
そして待ち時間の間のことはそれ以上覚えていない。
ただ、病院にいる間に千秋に一回以上殴られた気がする。
一番、殴られた理由は産まれた子供たちをはじめて見た瞬間、ついこぼれた言葉のせいだけど。
うん。
だってさ。見た瞬間、気持ち悪かったんだ。
受け入れていけるかがわからないけれど最初の印象はそんな感じだった。
空に弁解しようとしてる千秋の様子に空を伺うと、空は俺を呼んでくれる。
空の声にほっとする。
「お疲れ様」
空にキスを落とす。
元気にうまれた二人。
最初の印象がこれじゃあ可愛がれるかが、愛情を向けられるのかが心配になる。
空の子と考えていたら、かわいいと思えるかもしれない。
空の嬉しそうにゆったりした笑顔。受け入れられなくても空は受け入れてくれると思うけど、悲しまないわけじゃないと思う。
ゆっくりの言葉は音はない。
――コワクナイヨ――
体を重ねる罪悪感は消えないけれど薄れはした。だって、それ以上に空がかわいい。
もしかしたら、自分を残す拒否感は強いのかもしれない。
深理と月華は直接的に俺の子じゃないから愛せる。かわいがれる。
だけど、この子達を愛せる自信がない。それは空に言っていた。
振り返れば、千秋が慣れた手つきであやしていた。
視線が合う。
「ちっこいなぁ」
大切そうに見つめて触れる。
そう振る舞える千秋に不思議な気持ちになる。
お互いの子供は愛せるかわいがれる。
自分の子供は無理かもしれない。それは、母さんと同じなのかもしれない。祖母だって自分の子供たちへは愛情を注げず、姪を愛せた。
でも、千秋は深理のコトも月華のコトも愛せる可愛がれる。親をする気はなく、無責任な叔父でいいと笑うけれど、十分父親で通る気がするんだ。
小さなこの子達、俺でも、ゆっくりでも愛せるかなぁ。
「落としそう」
抱け。と差し出されても落としそうで怖くてたまらない。
「いや、月華落としたことないんだろ? 大丈夫だって」
触れることがこわかった。
実際、あまり俺が触ろうとしないくらいは誰も気に留めていなかった。
留めていたかもしれないけれど、競争相手が一人脱落してるという扱いだったと思う。
年が離れている分、深理も月華もかわいがったし、ミアやノアも『癒しがいる!』と隙あらばかわいがる。
その様子を遠巻きに眺めてる姿を千秋に背後から『お前は野生動物か』とか突っ込まれた。
強制的に触る頻度があがったのは、自力で動くことを覚えたあたり。
見ていて覚えたのか、ドアを押し開けたり、気がつくと二匹で歩き回っていたりした。後ろにゼリーがついてまわってたりするから大体位置はわかるんだけどね。
そのいる場所ときたら、階段落ちかけてたり、妙に高いところに登ろうとしてたり、すでに外に脱走してたり。
怪獣二匹に翻弄させられる。
泣き疲れた二匹は空にへばりついてまだ少しぐずってる。
そして二匹をそっとあやす男手は俺じゃなくて千秋だったりする。
「ちびっ子に怒鳴ってもしかたねーじゃん。いじめんのはもーちょっとおおきくなってからだって」
「いじめんな」
千秋はよく深理をいじめてる。まぁ、いじめてると言うよりはかわいがってるだけだけど。
子供たちがそれぞれに違うのはわかってる。
「真理も森理もおとーさんが反応してくれるのが嬉しいだけだって。ね。空ねぇ」
ほいっと、一匹膝にのせられる。
「さーて、俺はそろそろ仕事の仕上げ~。終わったらまたしばらくむこう行くけど、芹香に伝言とかある? フローリアでもいいけど」
なんだかんだいってもぎゅっと指を握られたりすると怖いだけじゃないのはわかってる。
「ん。大丈夫なのか?」
思いつくことは特になくて危惧だけを口にする。
「なにが?」
「最初のうちうまくいかないってピリピリしてたからさ」
ジークたちが庇えるといっても限度があるから。
「んー。何事も慣れが経験に変わるんだと思うな。一番慣れられないのは」
「慣れられないのは?」
にやりと千秋が笑う。
「鎮と空ねぇの所構わぬ惚気! うろなでも寝るための部屋、外に借りようかって思うくらい。隆維も近々鈴音ちゃんとって考えてるんだろうし、ミアだってそろそろレン君、押し倒すんじゃないかなと思うと、独り身にはつらいよ」
横で空がはぅっとかわいい声をあげる。
あ。
「うろなではうちにいて」
「鎮?」
「レックスが千秋の食生活の乱れを気にしてたから」
聞いて微妙な表情をしたけれど、さらっと千秋は流す。
高校二年の秋に味覚症状。改善してしばらくしてからの軽度の摂食障害。特に過食・拒食するわけでもなくただ、無意識に食事を取ることを避ける傾向。
人がいる場ではあわせて食べるし、もどしたりもしない。
それでも一人暮らしをさせれる状況だと思えない。
他では大概ジークが側にいるし。一人にはならない。
「バランスかぁ。サプリでいちおー補ってるけどなぁ」
心配性だなぁと笑う。
「サプリは飯じゃねーよ」
「はいはい。ご心配おかけします。おとーさん、しんぱいしょーだねぇ」
笑いながら怪獣をあやす千秋は聞いているようには見えなくて少しイラつく。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
空ちゃんお借りしております




