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仮定の未来  作者: とにあ
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 仮定の未来 しぐさん

 時雨が首輪を残して消えた時、佑子は五才だった。

 つまり俺は大学行きながら堂島の義父さんの指示に従って仕事の引き継ぎ・下働きに走り回っていて、あまり、うろなには行けていなかった。

 だから、佑子からの電話に驚いたんだ。


『しぐさんいないの』


 冬青(とうせい)佑子(ゆうこ)は双子で、出産に危険性が高まったから止めたかった。まぁ押し切られたんだけどね。

 柊子の体調問題とか、主治医との相談とか、俺は他と結婚する気なんかなくて十八になったら入籍予定は決定で。ただ子供はこの時期の方が都合が良かったんだ。主に柊子の身体面で。

 今では言えないセリフが『一人でいいじゃん。負担やばいだろ』である。当時も言えなかったけどね!

 出産後は一年ぐらい床上げできなかったしね。

 あの時ほど、本気でうろ高受ければ良かったと思った時期はない。学業に専念しろと強制育児放棄だよ畜生。

 そう。

 俺は堂島の本家本宅で暮らしていて、たまにしかうろなの別宅にはいけない。柊子にとっては環境的にうろなの方がいいから動かさない。

 だから、柊子と子供たちはさなえさんと天音ちゃんがお世話してた。

 間に合わないと考えたのか、恭兄が落とそうとしているミホおねーさんとその友達のるーくおねーさんをさなえさんが臨時バイトとして引っ張りこんでいたけどね。

 時雨はウチに来た時既に成猫で寿命? と首は傾げるけれど、自由な野良でもあるハズだし、猫って死際に去るって聞くし。

 いなくなったって言う話はなんとなく納得して、お義父さんに『娘泣いてるんで慰めに行っていいですか?』と久々の時間をもぎ取った。孫、可愛がってるからね。お義父さん。

 そこから四年かな?

 小学生になった佑子が久々に柊子と寛ぐ俺らのとこに来た。

「お父さま。お母さま。この子おうちにいれてよいですか?」

 佑子が抱いていたのはふてぶてしい感じの黒猫で、そう、前足だけが白かった。

「しぐさん、帰ってきたのです」

 たぬきはうつうつと眠ることが増えたが、変わらずウチにいる。

 冬青も佑子も動物にアレルギーがなかったのが幸いだった。

「もちろん、構わない。お風呂に入れて、首輪をつけて、病院に連れて行こうね」

「はい」

 えへへと嬉しそうな娘の姿は嬉しいものだった。

 ただ、黒猫は不満そうに鳴いたけど、さなえさんには逆らわず、大人しく洗われにいった。時雨もお風呂が得意でなくてあんなふうに不満げにつれられていったっけ。懐かしくて微笑ましかった。

「ちゃんと佑子がお世話するんだよ」

 一応お約束のやり取りだろうと思って言っておく。

「はい。ありがとうございます。お父さま」

 覚悟を決めた表情で深々と頭を下げられる。おとーさまはもうちょっとフランクな親子関係が希望なんだけどね。

「姉さま。父さま、しぐさん飼っていいって?」

 少し遅れて帰ってきた冬青が心配そうに顔を覗かせる。冬青くん、おとーさまは別にいきなりダメだししないよ?

「はい。冬青さん、お父さまにはこころよくお許しをいただきました」

 佑子、硬い、硬いよ。

「ありがとうございます。父さま」

 冬青も嬉しそうでおとーさま嬉しいんだけどね。

「よかったですね。冬青さん、佑子さん」

 柊子の声に二人が顔を見合わせてにっこりと笑う。ようやく堅さが少し緩んだ、かな?

「はい。お母さま」

 ユニゾンしてから頭を下げる。

「お風邪をひかれないようにしてくださいませね」

「風はまだ冷たいです」

 母親の身体を心配するいい子達、なんだけど、ちら、ちらっとこっちを見る。ここは縁側。つまりは、

「柊子、そろそろ風のあたらない場所に戻ろうか」

「はい。公志郎様」

 これはきっと、柊子の対応が子供たちへ影響を与えてるんだろうなぁ。

 入籍と同時に柊子は『さん』づけから『様』づけに戻したんだよなぁ。そこから戻してくれない。呼び捨てでもいいのに。

 子供たちに向かって俺のことを説明する時は『お父さまは~』だしなぁ。

 さなえさんはそれに合わせるし。天音ちゃんもそう。

 ま、おかげで隆維には大笑いされるんだけどさ。



 たまの休日。

 休みなんかほとんどないのは見習いのつらさ。嫌いじゃ、ないんだけどね。

 それでも最近は月に一度くらいはうろなに来れる。けっこう落ち着いたんだと思う。

 バスと電車を乗り継いで旧水族館。

 くるりと裏に回ってベルを鳴らす。

 出迎えてくれるのは空さん。

「おはようございます。お久しぶりです。月華ちゃん、起きてます?」

 流れるような挨拶。そして用件。日差しが天敵な月華ちゃんは朝早いと寝てることも多いと聞いているから。平日はお兄ちゃんの見送りに起きてるらしいけど。

 彼女はにっこり微笑んで、足下に懐く子供たちを促しながら中へと招いてくれる。

 小さな子供たちはマコトくんとシンリくんだ。冬青と佑子がこのくらいの頃をぜんぜん知らない。あとで見せてもらった写真や写メだけ。

「おはようございます」

 冬青と佑子はささっと挨拶をしてちっこい二人が外に出ちゃわないように進路を塞ぐ。お姉さんぶったりお兄さんぶったりできるのが嬉しいらしい。宗兄んトコのチビの方は同い年だけど、たまに合わせたのかな? とか思わなくもない。

 どうもちっこい二人はふらっとお外が大好きな時期で、ドアが開いてると脱走しようとするらしい。確かに開いたドアから見える外をきらきらの眼差しで見つめている。前に階段に特攻する双子を捕獲する鎮さんを見かけた。活動的な二人だ。

 正直に言おう。

 ちびっ子に接する機会が少なすぎて珍しいよ。おもしれーよ。


 んなぁ〜


 猫の声に二人が注目する。

 きらきらして目で時雨二号を見つめている。


 時雨二号は子守上手だ。


「まーりさん、もーりさん、しぐさんですよ」

 佑子が時雨二号を紹介する。

 下の子たちがマーリとモーリならミコトくんはミーリ……ゴロが悪いな。ミリーちゃんか?



『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

空ちゃんお借りしております。

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