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仮定の未来  作者: とにあ
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 仮定の未来 家飲み

 春は桜にチューリップ。雪柳に菜の花の黄色も捨てがたい。

 していることは雑用メイン。

 経理系事務作業に手書き悪筆を読める文章に直す作業。御礼状送りに調査資料のまとめ。

 あとはちびどもの相手とか。

 渡された資料のメドがつくまでは移動はない予定。研究者連中のワガママが発動すればその範疇ではないけど。

「千秋君。今度、夜桜見に連れて行ってね」

 にこにこ月華が強請ってくる。仕事に使っている部屋は厚めのカーテンで、人工光のみ。

 月華は太陽光に弱い。だから昼間は外に出ることが出来ない。夜、子供を一人で歩かせるわけにもいかない。気がつくと抜け出してしまうこともあるみたいだけど、鎮か伯父さんがこっそりついていくことも多いらしい。

 学校にも通うことができないので友達も限られる。

 ゆえに甘くなる。

「りょーかい」

 『おとーさんじゃない』と泣いたのは今は昔。いまじゃすっかりナチュラルに『千秋君』呼びだ。コレは空ねえの呼び方を真似てるからだろう。

「恋人、いないの?」

「特定はいないね」

 それとない会話。お兄ちゃんが学校に行っていて暇してる昼間は仕事部屋に雑談しにやってくる。もちろん、勉強道具を持って。

「今回はいつまでいるの?」

「呼び出しがあればお仕事だよ。それまではコレやってるかな」

 馴れたけど、クセがきつすぎる部分は写メって確認。返事は一週間以内に来るといいなぁ。

「ザインのおじさんとのデートは?」

「げっか?」

 なぜ、その名が出る。

「前の健康診断の時、フィレンツェおねーちゃんが千秋君の恋人って」

「違うから。違うからね。くれぐれも言っておくけど違うからね」

 おじさんは女の子の方が好きだから。マジにとってるとわかる瞳の色にものすごく焦る。お願いだから聞こう!

「ザインはただの友達。月華は会ったことあるの?」

 アイツは節操なしだからな。十歳から自分より十歳上まで男女問わずが許容範囲と言い放つようなバカだ。とりあえず、未成年に手を出すなとは言ってるけど、聞くとは思えない。

 月華がゆっくり首を横に振るから安心する。

 ほっとしたっていうのに扉の影に見えた人影に頭痛を感じる。

「隆維。何覗いてんの」

 ワザとらしい。

「千秋兄の浮いた話は珍しくないけど、珍しいからさー」

 ニヤニヤ笑いながら意味がわからない言葉を綴る。

「涼維たちとの話題ネタゲットだね」

 待て!

「そーゆーのをネタにするな」

「りゅーくん、後で月華にも教えてー」

 嬉しそうに月華がはしゃぐ。

 隆維は笑って内容次第とかわしていた。





 そして、ネタにされた。

 ウチの中でも飲む人間は少ない。涼維とレンはたしなむ程度で非常時に備えるらしい。

 レンはミアの夫。恭や宗君と同じ歳で俺らよりいっこ下。ミアと結婚する条件が医者になる事で、それを見事に達成した愛の人? ま、少なくとも勤勉真面目くん。

 隆維、涼維の母であるルシエさんの実家は医療系の家柄だったゆえの条件かと思う。

 隆維は飲もうとして医療系二人に『投薬中はダメ』と止められていた。また不調なのかと思う。

 家系とはいえ、涼維が医療系に進んだのは少し意外だったけどな。

 セーブされまくる酒の席。気兼ねなく飲めるのは俺と鎮。

 酒は雰囲気を飲むものだからいいんだけどね。話題が興醒めだよなぁ。

「同意ならいいけどね」

 ネタとして使われたザインのことに鎮が微妙な発言をする。

「恋人じゃないなら愛人かセフレ? 十年以上続いてるんだから愛人かなぁ? ザインの子供にはできれば気がつかれないようにしろよ?」

 絡むなよ。それにどんな前提?

「あの子達とは仲はいいよ」

 時々、遊ぶくらいには。

 って、ちょっと待て。どこまで知ってんだよ!?

「つか、恋人でも愛人でもセフレでもない!」

 愛人にならないかは誘われてるけど。

「資金援助目的ならやめておけよ。芹香が怒る。確かにフローリアの研究への出資は多いけどな」

 否定してもサラッとした視線を送られる。

 ザインがフローリアの研究に資金を投入しているのは俺とは関係ない。ただ、その言葉はカラダと気分が重くなる。

「酒の席の話題かよ……」

 酔えねぇ。

「あー。なるほど暴露(ばれ)たから、こっちに回されたんだ」

 隆維が納得したように頷く。違うっていうのに、うわっ、弟連中の視線が痛い。

「気がついてたんなら止めろよ、鎮兄」

 隆維の口調はからかう色が強いけれど本気もまた潜んでる。明らかに仮定を確定と認識してる空気。ざらりとなにかが削れる感覚。

「少なくとも千秋に飯くわせるのを楽しんでるところは使えるし、無理強い風プレイが同意なら邪魔できねーしぃ」

 し、視線が痛い。いや、マジに。

 俺に飯を食わせるんなら仕方ない的な反応はなんだ!?

「他のヤツ牽制もしてるのは確かだったから」

 !?

「自分で!」

「できてねーから。そこは確かに庇われてるからさ」




 散々だった酒の席。男ばっかだったしー。家飲みじゃそんなもんかなぁ。

 話題と散々だったのは自業自得かと思わなくもない。ムカつくけどな。

「千秋」

 レストエリアのテラスで涼んでいるとやって来たのはレンだった。

「どーしてああ、ネタにするかねぇ」

 話題ない? と問いかければ苦笑される。

「心配だからだと思うな。フローリア女史の研究に資金協力ってことは月華の治療、予防に直結だから、理由はわからなくはないけど」

 レンもその条件で仮定を確定と認識しているように見えて、そこは誤解なんだけどと思う。

 だからといって必要以上に否定もする気になれない。

「アイツがさ、フローリアの医療研究に資金を出すのは俺は関係ないよ」

 あくまでアイツ事情だ。できるだけ、アイツには頼まないようにしてるしなぁ。言わなくても出すものを必要以上にせびる必要もない。

「資金集めにイロイロ動いてるんだろう?」

「んー。寄付金や基金に関する事務処理がメインだけどね。あとは研究者の資料集めとか、軽いサポート?」

 資金不足で研究が滞るとかできれば避けたいしね。

「治療法や、新薬が間に合えば、それはいいことだよね」

 医療現場では間に合わないことも多い。どうしようもできないことも多い。

「もしかしたら痛い、苦しい以外の時間が増えるといいなぁと思うんだ。治るかもしれない希望は見守る側にも希望になると思うんだ」

 そのぐらいの雑用しかできないしね。

「ねぇ千秋」

「なにー?」

「深理と月華の抱えてる疾患は遺伝疾患だ。鎮にも、空ねえさんにも因子はない」

「何が言いたいわけ?」

 そして他にその素養を持つ存在がいることをレンは知っている。

 彼女らが治療研究のために子供を、自分たちの遺伝子を引き継ぐ子供を望むのを知っている。

 彼女たちは産まない選択肢。そういう存在撲滅を望まない。

「どうしてかと思って」

「どーして、なんで。それってさぁ、先に繋がるならいいけど、思考に囚われるってさ、無駄だよな。今が、ある状況は変わらないんだから、ここからどうするか、どう進んでいくかだと思うんだ。過去を思い悩むのもしたこと、してきたことを弁解するのも違うというか、あんまり意味ないと思ってるんだ」

 潮を含んだ夜の風。

「たださ」

「ただ?」

「手を伸ばせればいいなぁと思うんだ。それだけ」

 たとえ、その手が届かなくても手を差し出せたらいいなぁって思うんだ。

『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

より空ちゃんお名前借りです

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