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仮定の未来  作者: とにあ
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 仮定の未来 時過ぎて【番外】


「天音ママ」

「どーしたの? ファイエット」

「高良と煌哉は?」

「セスがみてるはずよ?」

「行ってくる!」

 ファイエットが振り返る。

「日本行く時、僕も行くからね!」

「元気なおにーちゃんねー」

 小さな娘をあやす。

 ファイエットはセスと並んで最年長。

 そのひとつ下にレックスの娘のフィレンツェ。フィレンツェは深理くんよりひとつ上。他にも何人かの子供達がこの家には住んでいる。

 その内の殆どが、とある提案をした折りにのってきた。

 千秋さんは不本意かも知れないけれど、うまく回ったんじゃないかと思う。

 私のした提案は、里子のような扱いでなく、子供達が望むのなら養子にしてはどうかという提案。

 実質、彼らは千秋さんの子供達だと思うから。

『お父さん』と呼ばせてあげたく思ったから。

 だって、千秋さんだって子供達に愛情を注いでいる。それこそ、『名前だけ。呼び方だけ』の問題で、実際は何にも変わらない。

 形ばかりとはいえ、夫婦で、生まれてくる子供にも父親と呼ばせることはできないのかと問うた。だって彼が関わる必要はないとはいえ父親の位置にいるのだ。

 なら、他の子達だって呼びたいかもしれない。

 そこで過ごして私の子だけが千秋さんを父と呼ぶのは許されないだろうと思う。

 血の繋がりは大切で、同時にそれだけが大切ではないから。

 私の子供達だって千秋さんにとっては血の繋がらない子供達だ。

 説得をのんでくれた千秋さん。

 自分が、父と呼ばれるのが、親になるのが許せない許されない気がするなんておかしなことを言う。

 千秋さんはもうちゃんとお父さんしてるのに。そう、考えを空さんに告げれば、空さんも同意してくれた。

 だから、とっても子沢山。

 そう動いたから、あの子達は受け入れてくれるのが早かった。

 体調の思わしくない私のかわりに子供達の世話を甲斐甲斐しくしてくれた。月足らずで生まれた弱い子たち。私達が家に入るのと入れ違いに鎮さんと空さん、ちびっ子達はうろなに帰った。滞在期間は3ヶ月。

 月華ちゃんの治療は問題なく終わったとはいえ、データ取りと治療経過の関係で病院と千秋さんのうちでの滞在という過ごし方。


 月華ちゃんは本当なら今は小学六年生。

 もうじき、中学生。そんな冬。

 私達もクリスマスにうろなに帰る。月華ちゃんも一緒。

 この家を出たがらない子供達も多く、うろなについてくると名乗りをあげているのがファイエットとセス。それとトレバー。


「天音ママ。体調大丈夫?」

「ええ。大丈夫」

 きゅっと握られる手。

 見下ろせばトレバーは思いつめた眼差し。

「絶対、天音ママを守るよ。あの子達を誰にも連れて行かせないからね」

「大丈夫。兄さんが大丈夫って言ったもの」

「恭かぁ」

 千秋さんの声に振り返る。

「千秋さん」

「宗君には連絡したけど、恭には伏せたからなぁ。怒られそう。天音さんのことを殺す気ですかって」


 やっぱり月足らずで産んだ子供達。父親は千秋さん。ただ、その時のことを千秋さんは覚えていない。

「パパ悪く、ないから」

 恥ずかしそうにパパと口にしてトレバーは顔を伏せる。耳の先まで真っ赤。

 嬉しくて恥ずかしくてたまらない。そんな反応。

 ファイエットだって、おとーさん。そう呼ぶ時には三回に二回つっかかるのだ。

 そして子供達の照れは千秋さんにも伝染する。

「い、いいかげんに慣れればいいだろ。キツいんなら今までどおりでいいんだからな」

 言っておいてその言葉でトレバーが泣きそうになってるのに慌てる千秋さん。

「ああ、もう、過剰反応してんじゃない」

 それは千秋さんだってそうだ。

「天音ちゃん、楽しそうだね」

 トレバーを宥めながらこっちを見てくる。

 拗ねた眼差しがなんともいえない。

「きっとサツキさんも今の千秋さんの方が安心じゃないかしら」

「死んじゃったら、動かないんだよ。何も変わらない」

空気が変わる。サツキさんは千秋さんの地雷。未だに彼女が一番で、誰も彼女を越えられない。

当たり前だろうと思う。相手は理想化神格化された死者だから。

「そうね。変わるのは私たち生きてる者だわ。気持ちは、心は思わぬ時に届くこともあると思うのよ」

 私は今死んでしまっても、きっと子供たちが幸せに生きていけることを信じていられる。

 千秋さんを、トレバーやその兄弟を信じることができるから。

 恭兄さんや宗にいさんも子供たちは守ってくれるだろうし、旦那様だって……。

 いい人だった。好いてくれた。優しくてわがままな人だった。

 好きという感情だって向けれた。

 恋や愛じゃなく、ただそばにいる愛着があった。

 応えられなかったのは私だとわかってる。

 流されたのは私だ。

 手放すことを容認したのも私。

 千秋さんが親と呼ばれる資格が無いと言うのなら私にだってありはしない。

 それでも、それでも。

 会えなくても、名乗れなくても幸せを祈りたい。

 自分の子供の代わりに愛情を注いでいるのと聞かれれば首を横に振るだろう。

 思う気持ちは違うのだから。

「トレバー。私はいいママかしら?」

 じっと窺うような眼差し。

「パパの一番じゃないのが心配なの?」

 少しズレた答え。パパと呼んだことに千秋さんを見て恥ずかしそうに俯く。

 ちらりと見上げて抱いている娘に手を伸ばす。

「天音ママもスキだよ。パパを、……パパと呼べるようにしてくれたから」

 ツンと軽く娘のほっぺたをつつく。

「それにこの繋がりは宝物なんだ。天音はこんな大きな子にママと呼ばれてイヤじゃない?」

 小さくかわりでもいいし。と呟きが聞こえる。

「トレバーたちのママになれるのは嬉しいわ。私は子供を置き去りにしたの。もしかしたら辛い思いをすることになるかもしれないって知ってたのにね」

「その選択をしなければ死んでいたからだろう? 天音は悪くない」

 千秋さんがそう言う。おかしいわ。そう思うでしょ? そんな眼差しをトレバーに送る。

「その時の最善選択だと思うわ。生き残るなら」

 私の言葉にほっとした笑顔。

「千秋さんだってそうだわ。最善を選んで、この子たちに親と求められてるの。資格なんて関係ないの。手を差し出した時に千秋さんは選んでいるの。私はきっかけを作っただけだわ」

 硬直してゆるっとトレバーに視線を向ける千秋さん。

 トレバーは手を差し出して照れた笑みを浮かべる。

「あのね、僕は、僕らはね、パパが大好きなんだ」


『人間どもに不幸を』

http://book1.adouzi.eu.org/n7950bq/

サツキさん


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

空さん

お名前だけお借りしました。

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